キノ・プラズマート Kino Plasmatは特許でf2が残されていたので、小店にてこれをf1.9と広げてP1として製造致しました。比較的個体数が残存しているものはf1.5ですし、f2は業務用で"優秀"となるので、f1.5の復刻が要望されておりましたところ、この度P2として復刻に至りました。特徴とそれぞれの違いについて確認いたします。
f2 | f1.5 | |
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ボケのマシュマロ感 | 柔らかい | チリチリ感が混じる |
空間の歪み | ピンの範囲が奥に向かう | 同じ |
グルグルボケ | 近接で発生 | 数mでも発生 |
色彩 | 正確 | パステル(時に白濁も纏う) |
本質的には同じなのですが、実際に撮影されたものは印象が随分違います。f1.5は肖像向けですが、あらゆるものを絵画調に変える傾向のため、f1.5を好む人の方が多いのではないかと感じられます。
完成して受け取ってすぐの2024.11.24に少し撮影いたしました。撮影場所は、高輪界隈、ライカM9です。全部開放で撮影致しました。
f1.5ということもあるのか、焦点が柔らかくなります。背景のザワザワ感はf2より少し強いのですが、本質的には同じです。
背景は溶けてしまうよりも、これぐらいの多少のチリチリ感を残した方が実在感があります。
グルグルボケを珍重する人々も多いですが、決して良くはありません。このようなデメリットを甘受しても得られる効果があるために忍んでいるに過ぎない、本物であまりにもグルグルが出る個体もあると思いますが、清掃時にガラスの間隔をわずかに開けてしまっているのではないかと想像されます。しかしゴッホの晩年の作品でグルグルを描いているものもあるので背景の効果として一定の魅力はあるのだと思います。
平らなものを撮影します。ピンが横に狭く、奥に伸びるのはf2と同様でした。幅が狭い傾向なので非常に撮影が困難です。光量によっても変化があります。ここではテストのため全て開放ですが、本来は状況で対応すべきと思います。最初にトレースする時に、このような100年前の玉の場合、誤差を考えねばなりませんので前後の数値も調べるのですが、この幅が狭いという問題は全く変わらず解消されませんでした。解消されると本物とは違ってくるのでそれで良いのですが、いずれにしてもそこは動かない、レンズ構成が特殊なのでどうしてもこうなるようです。f2を製造した時も同じでした。これがこの設計が後代にほとんど採用されていない理由と思われます。75mmぐらいになるとちょうど良いかもしれない感じですが、依然ボケ玉には変わりません。ラピッド・プラズマートはそのあたりはかなり改善しています。
光量が少ないと落ち着きますが、ボケはf2よりも硬質です。
微妙に白濁に近い霞があります。これはf2にはない特徴です。f1.5の方が好まれるのはこの特徴もあると思います。フレンチ・キノでよく見られる現象です。
これは開放f1.5での撮影であることを再確認します。軒下の比較的暗めの環境です。
複雑に素材が並べられた意図のわかりにくい画ですが、鏡のように反射している部分に目を向けると、筆で撫でるように描かれたようなボケ方です。f2でも状況によっては出ますが、ちょっと出にくい傾向です。
高輪は尾根のように長い丘でその頂上に道があります。そこを進んでは両側を見て歩いていますが、夕方近くなり、強い日差しを受けて、肉眼で見てもこういう感じのキツい光の状況でした。どれぐらい潰れるのかテストしましたが意外と大丈夫、中央の花瓶を強調する構図としたいのですが、敷物も白で目立ちにくく、はっきりしませんでした。
高輪消防署前花壇の花です。花はちょっと絞るべきと思います。だけど花によりますでしょうね。
基本的にはf2と同じです。しかしこのタイプの収差であれば、f2ぐらい優秀?となると、業務感は出ますでしょうね。もちろん大いに結構なことですが。しかしこれぐらいボケている方がむしろ表現しやすいのではないかと思います。だからf1.5の方をスチール向けに販売していたのでしょう。
松のくねる枝が逆光を浴びて消えるようです。これもf2と同じ傾向です。
あまりにも明暗の差が激しい、写真に不向きな構図です。モノクロ時代では手作業の覆い焼きで調整するのですが、それでもこの構図はないでしょう。しかも暗い方に焦点を合わせたために、明るい背景は消えるようです。この感じのボケ方を善用したいものです。
開放で撮影しても大丈夫な花を見つけました。絞りの使い方如何で花も活かせそうです。
写真というものをこういう構図で撮っていてはいけませんね。右半分の樹木を焦点の範囲に収めるか、もっと寄らねばなりません。しかしそんなことよりもボケをよく見たいところです。人物であれば、実に風流な画が得られるでしょうね。
紙パックに焦点があります。前ボケも使えるという印象です。こういうところがある意味、良質のボケ玉が使いやすい要素でしょう。
伊皿子から泉岳寺方面に降ります。そのちょうど角にある日本料理店です。元から白濁気味のところに白、光も強くはないので尚更です。
複雑な背景故にグルグルボケも明確ではなく、ブラシで掃いたような描写になっています。これが主題を引き立てるのではないかと思います。
肉眼では決して美しくはない亀裂ですが、絵画調に捉えるとデザインのようです。
上は西陽が当たっている逆光でもないのですが、下なら順光という、そういう関係での2枚です。ほぼ同じ時間、同じものを違う角度で撮影しただけです。
グルグルボケも或いは必要なのか、これがなければ絵になりません。
この独特の収差、角を試してみたくなりました。単なる角ではありますが、前に出る印象があります。やはり肖像用の収差という認識です。
携帯で撮影すると全く絵にならない構図ですが、右下付近の独特の騒がしさがちょうど良い。掃いた感じはf2でも出ますが、f1.5はまた違った質感です。
続いて晩に麻布十番から六本木ヒルズに向かいました。
ランプは白、その上の縁に焦点があります。その後ろの紅葉も比較的明瞭です。このように奥側に焦点幅があります。前にもある筈です。これが一般的な大口径とは異なる肖像用の特徴の1つです。
風が吹き続けていたので撮れるか疑問でしたが、ある程度、止めた感じは出ました。光量が大きく減少する夜のボケは騒がしさがなくなり溶けるようです。
蕎麦打ちの工房です。焦点は中央の機械ですから結構奥です。しかしよく見るとガラスの格子が明瞭に見えています。手前にも結構な深度があることがわかります。
中央上より少し右に強烈なライトがあります。浴びるとどうなるかを見てみました。歪な光輪は鏡胴内部のレンズの縁でしょう。これはどのようなレンズでもこうなると思いますが、レンズ構成にもよります。
上はガラスに焦点、下は白い壁の縁です。ボケの前と後の違い、前が使えるのは珍しい。大体の玉は前ボケが汚いものです。
オドオドしたボケは和風に合うように思います。
「井」の文字に焦点があります。ボケているようですが、実はしっかり合っています。光で滲んでいます。構図全体に流れがあります。少し絞れば、もっと良い画になった筈です。
中央のみにグルグルが発生しています。極めて珍しい画です。動きを感じさせます。溶けるようなボケが囲んでいます。
奥の椅子は本当に溶けていくようです。
トリッキーな彼を表現するのにプラズマートは合っているようです。
イタリアレストランのガラス張りの大きな壁に豪華なカーテンが吊られています。携帯で撮影すると鑑賞に耐えるものではありませんが、そこはプラズマート、絵にしてしまいます。溶ける感じと僅かなチリチリ、f2は硬質になりますが、f1.5では柔らかいままです。
一方的な光があり、そしてそれを覆うような光もあります。室内からの強い光は扉で避けています。そのため影響を強く受けることなく、全体を柔らかく包んでいます。
焦点は網に覆われたランプの一番前のものです。黒板の書き付けは大分前にありますが、それでも文字は判別可能です。f1.5開放での撮影であることを再確認します。
前後のボケの特質は基本的に同じであるというのが大きな特徴の1つです。
焦点は暖簾です。パースペクティブの広さがわかります。
光輝くものをキラキラ強調してしまう。過剰に出てしまう。ということは、全てを輝かせているのでしょう。わずかであっても。
新品に近い自転車です。輝くものをより輝かせています。
中央が角です。平面ではありません。夜はいろんなものを儚く溶かします。
写真は強い光に弱いですが、これはどうでしょう? 意外と大丈夫です。強い光を柔らかく変えてしまっています。
けやき坂はとても多くの人がいます。よく見るとほとんど外国人でした。何をしに来ているのかわかりませんでしたが、横断歩道を渡った時に皆、一斉に立ち止まり写真を撮り始めたので理由がわかりました。けやき坂は白、東京タワーは赤、タワーが見えるのは車道のみ、歩道からは見えない、車で降りてくると見える絶景でした。