最後にライツ Leitz エルマー Elmar 50mm f3.5で撮ってみます。
古代建築博物館というところに行ってきました。これが正門ですが、天橋という昔の北京・下町界隈に向かって建てられている有名な門です。優秀なテッサータイプのレンズに見られる、じっとりした質感がよく出ています。
世の中には優秀なレンズはたくさんあります。しかしそれらをすべて見た後でもエルマー50mmの美しさには驚嘆させられます。"優秀"という言葉が滑稽に思える程の凄みがあります。いろんなものを通り越して厳粛な表現の中に真の美があります。
小さな木葉が散らばって、枝の隙間から光が差しています。幻想的な画です。エルマーだから記録可能な雰囲気が写し込まれています。
輪郭、特にベンチの足の部分に品格を感じます。このような捉え方ができるレンズはそうありません。明るさが違う2つの例ですが、いずれもふわっと浮かび上がった感じが出ています。
全くエフェクトを掛けていません。何も足しておらず何も引いていません。まるで絵画のようです。この画を見て思い当たることは、ベレクが参考にしていたレンズはおそらくメイヤー・トリオプランではなかろうかということです。徹底研究したと推定されます。(メイヤーについては古典的ドイツ光学の源流地を辿るを参照下さい。)戦前のトリオプランは主に映画用に作られていたものでしたが、スチール用レンズとして使うには背景のボケが少々問題があったということと、ベレクのレンズは1枚多いので、これを以てクォリティを高めたのかもしれません。とはいえその他の点については、設計思想が同じように思えます。良く似ている感じがします。エルマーはテッサー型を模倣したものであって、テッサーはルドルフの設計でした。ライカが発売された時、ルドルフはメイヤーに在籍しており、べレクが設計する前には、ライカのプロトタイプにキノ・テッサー、キノ・プラズマートを供給していたことが知られています。エルマーの設計にルドルフが助言していた可能性はありそうです。
近いものから遠くにボケる画ですが、距離が違います。しかしどちらもピントの合った対象物は柔らかくも明瞭に写し取られています。
49年のレンズですが、開放から遠景を撮っても問題ありません。もうちょっと絞った方がシャープでしょうけれど、これぐらいの適度な甘さも必要でしょう。
ライカでもエルマー以外ではなかなかこのように写りません。絞ればシャープには写りますが、繊細さと甘さのバランス、そしてこの佇まいは他のレンズでは得られません。
廊下に差し込む光は前ボケですが、これも言うことはありません。このレンズの欠点は暗さぐらいでしょうか。
ここまででベレク設計によるエルマー4本を比較しました。全体的にみるとコーティングの有無による影響はあまり考えなくても組み合わせて使えそうですが、ただ35mmだけ浮いている感じがします。35mmに関しては、ここで使ったレンズを組み合わせるなら90mmよりも105mmと組で持ち歩くのが無難なようです。90mmノンコートか、35mmにコートを入れれば互いに合いそうです。広角はどうしてもフードを長くできないので、35mmのノンコートは厳しいかもしれません。ノンコートに魅力を感じるのでなければ、コートは入ったものを買うべきと思います。