トリプレットは非常に優秀な設計ということで世に出ましたが、肖像用として使った場合、ペッツバールより理想的だったらしく、ニコラ・ペルシャイドが自身の理想的なレンズを作る前は「ポートレート・ハイパー」(下写真)を使用していたと言われています。
しかし彼としてはラピッド・レクチリニア型の方が良かったらしく、そうであればペッツバールにも一定の道理があったことになります。これら当時のレンズは大判用でしたので、キノ(映画)用のレンズはかなり小型となり、ゲルツはトリプレットの前玉を貼り合わせて小型化して明るさも増したものをキノ・ハイパー Kino Hyparとして販売しました。実際に市場で見られるキノ・ハイパーはおおまかに2種あるようです。最初はキノ用の収差でしたが、キノフィルムをライカが写真に転用して以降はパテントによると「写真用」「歪みのない」設計に変更し、しかしイメージサークルはキノサイズだったので、これも銘はキノ・ハイパーとして販売していたようです。
1925年ロバート・リヒター Robert Richterが設計したものです (米特許 US1588612)。画角は推奨が40度でf3.0です。オリジナルはゲルツ キノ・ハイパー 55mm f3.0で焦点距離が少し長いですが、それは推奨画角が40度だからだと思われます。しかし焦点距離55mmであれば42度になります。四隅の1度差なのでほぼ変わりません。
トリプレットは肖像用であるとか映画用だったので収差を善用することができましたが、スタンダードな撮影レンズを作ろうと思った場合、なんらかの補正が必要ということで3枚貼り合わせになったのかもしれません。ダゴールも3枚でしたから、ここはゲルツの最も得意とするところだったでしょう。戦前のトリプレットでおそらく最高のものはこれでしょう。
キノ用とされる設計データは見つかっていませんが、しかし非点収差が開いているのでこれをキノ用途に使っても良い筈で、本当は1種類しかなかったのではないかと思えます。だから堂々とキノ・ハイパーと銘打っていたものと思います。もしスチール用であれば、明らかに画角は広げられます。例えば画角50度、焦点距離45mmであればこのようになります。隅の収差は0.05mm。ほぼ無収差です。緑の光線は特許通りの40度です。50度がスチール用で、40度がキノだったのではないかと思われます。製造は45mmとし、キノ画角で撮影したい場合はAPS-C(67.5mm相当。長過ぎる?)などを使えば良いのではないかと思います。