クセノン 50mmはもう見たのではなかったですか。いえいえ、これはシネ・クセノンです。一緒でしょう? 全然違います。f2よりもf1.9の方が良かった筈ではなかったのですか。・・・f1.9の方がいいですね。そうしたらどうしてf2もあるのですか。
ということで、本稿ではシュナイダー Schneider シネ・クセノン Cine-Xenon 50mm f2を見ていきますが、まずシネ・クセノンとは何かというところから入りたいと思います。実際、普通に撮影活動をする分にはf1.9のクセノンで十分過ぎる程ですが、シネ用となると大型スクリーンに動画を投影するわけですから、もっと高精度が求められます。描写の繊細さもより必要になってきます。このようにシネ仕様に改良されたレンズは、同時代のドイツでローデンシュトックやシュタインハイルなどもあり、いずれも非常に評価が高く、入手するのはかなり難しいと思います。クセノンは製造個数がある程度あったのか、この中では入手しやすい方と言えます。こうして精度を高められたシネレンズですが、一方でシュナイダーの味も感じられます。味とは結局収差なので、収差を消すか残すかで厳しい取捨選択がなされたのがシネ・クセノンということができます。それで本稿ではそのギリギリのところを感じとりながら進めていきたいと思います。
この間、近所を自転車で走っていたらある一角が解体されていっている場所がありました。古い通りが壊されていました。それでこれは記録しなければならないと思ってしまい、後でカメラを持って撮りにいきました。そこでまずこの門ですが、周囲は破壊されているのにこれは残っています。門をくぐると奥にはまだ住居が少し残っていて人もいました。しかしそのことと門が残っていることは別問題だと思います。旧北京城内のこういう門は、かつては屋敷があったところで、中は財産分与で細かく区切られ、その影響で資産価値がない建物もあります。価値がある物は丁寧に大事な部分を残すのだと思います。
門に近づくと立派な彫刻があります。こういうものは骨董市場に流れるのか、保護区の補修や建築に使うのだと思います。木材が貴重なものである場合もあります。描写についてはどうでしょうか。あまりに普通過ぎて特に言うことはありません。
門扉自体は文化財としての価値はなさそうです。ただデザインは最近では見かけられなくなったものではあります。奥のボケを見てみますと非常に率直で現代レンズのようです。
円柱が端に置いてあります。文化財的な価値があるものだろうと思います。蒲田という表記は何でしょうか。そこら中に道案内的に書いてあります。つまり他人の家の壁に自分の名前を書いているということです。それもそこら中に。元は屋敷だったところを細かく区切っているので壁の所有権利関係があいまいなので問題にならないのだろうと想像されます。これだけ距離を空けてもボケが乱れることはありません。
あたり一帯で壊しているので、子供も工事現場で遊ぶしかありません。子供というのは不思議と世界中同じです。大人になると変な常識が身に付いてしまうのでしょうか。
今度は大きく場所を変えて、軍事博物館方面から北京西駅へ向かいます。駅の巨大さは世界最大級です。大きくて疲れます。それでも人口が多いのでこれでもまだ場所が必要なように感じられます。北京には他にも3つ駅があります。天気が曇っていて雨が降りそうなぐらいですので、f2開放で撮影するにはちょうど良い感じです。
通りから脇に入ると料理屋があります。先ほどの解体現場の画とは異なり、適性露出だからなのか、シュナイダーらしい描写が蘇ったような気がします。それでもf1.9の方がはるかに魅力的だと思います。f1.9はもっと踏み込んだ収差構成を取っているからかもしれません。
三輪車は古い物が大事に使われているのがよく見られます。それでも四角形の鍵はかなり珍しくなりました。三角形はダメなのでしょうか。折畳めないので駄目なのです。ボケはシュナイダーらしい綿のような質感です。これがもう少し雪のようになるとシュタインハイル風になるだろうと思います。
博打必勝法超絶技の広告が貼って有りますが・・・すごく高いところに貼り付けているのも超絶級です。こういうことは中国人以外ではインド人ぐらいしかやらないと思います。この歪み具合から察するに棒を使って貼ったと思います。広告を貼るのにベストの位置なのもまさに超絶級です。
この道を渡ると北京西駅です。最近は携帯で簡単に写真が撮れるので駅を撮影する人は多いです。北京西駅は上京する出稼ぎ者が毎日入ってくるところです。家族に写真を送るのでしょうか。見知らぬ大都会にやってきて不安な面持ちで通っていく人がたくさんいます。
駅前のバス亭です。非常に空いています。おそらく清明節だからだろうと思います。こんなに人がいないのは年中通してもほとんどないと思います。普段は人で埋め尽くされている感じなのです。車道まで人でいっぱいです。
ついに北京西駅の真下に出ました。ピントが合っているのは「北京」の文字あたりで前後はボケています。こういう効果も仰ぎ見るような感じで良いと思います。
検札というのは何回もあって、まず構内に入るのに一回目があります。それがここです。切符がないと基本的に入れません。以前は2ヶ所しかなく、人力でやっていましたが、最近はコンピューター化されて良くなりました。入り口も増えて渋滞がなくなっています。こうしてだんだん先進国のようになっていますが、田舎に行くとこういう変化は残念に思うこともあります。古い昔ながらの駅というのはとても魅力があります。同郷の出稼ぎ者が大きな荷物を固めて円陣を作っている光景はなかなか無くなりません。
駅前広場の真ん中には北京特産物を販売する売店があります。そして手前左側にイスに座っている人たちが見えますが、献血受付です。このあたりは世界共通のようです。奥の白い建物にもショッピングセンターが入っていて上階はホテルです。
駅の2階にも改札がありますので、その脇にコンビニがあります。ここはわかりませんが、とにかく駅構内に入ってしまうと何でも高額です。倍ぐらいになります。私は旅行する時は自分の近所のスーパーで食料を調達して一杯詰めた状態で駅に行きます。中国は広いので何時間も列車に乗らなければなりません。最近はようやく新幹線があちこち開通するようにはなって速くなりましたが、飛行機より高いというのが市民の悩みのようです。上海まで行く時は新幹線で4時間かけて行っています。飛行機だとおそらく2時間半ぐらいです。しかし空港は遠いし何かとたいへんなので、どちらが良いかは微妙なところです。時間も結局はあまり変わらないのです。
こういう画が撮れるのも閑散期だからで、普段であれば人が多くて絶対に無理です。こういう場所は日本であれば綺麗にワックスをかけていますが、それは国際的には異常で、こうして汚れているのが当たり前です。しかしこうしてみると水墨画の空白部分のような印象が感じられて味があります。戦後ドイツのボケ味ゆえに味わえる画だろうと思います。
駅前広場には地下に降りてゆく階段があります。ショッピング街があるためですが、去年末にここにようやく地下鉄が開通して便利になりました。
地下はまだ古いままで昔の陰気さが残っていてなかなか良いものです。その中で強烈な存在感を放っていたのがこれで、電話ボックスの天井上の表示です。この横に階段があるので、簡単にこの位置から撮影できるのです。このタイプの古いものは今やほとんど残っていません。電話ボックスといっても一般的なものではなく、おばちゃんがブースの中に座っていて客が電話を借り通話時間と距離によって後で精算するというものです。各種SIMカードも購入できます。日本だと地下であれ、どこでも明るいのでこういう表示が目立つことはありませんが、海外では強烈に存在感があります。あたりが真っ暗だからです。日本のように贅沢に電気を消費している国は珍しいと思います。
さらに場所を変えて今度は夜の撮影に入りたいと思います。前から気になっていた大きな劇場「中国木偶劇院」ですが、木偶というとピノキオが連想されますが、たぶん違うだろうと言うことで迫ってみたいと思います。外観は城をイメージしたデザインです。ディズニーランドでも真ん中が城ですが、この演出は子供の心を掴むようです。男の子には戦いをイメージさせ、女の子には王子様ということなのでしょうか。
夜でもはっきりわかるようにコンセプトが大きく掲揚されています。党の指導に基づくと思われる「愛国 創新 包容 厚徳」の句が見られます。とりあえずは健全な内容ということで納得しても良いと思います。
ありました。これが上演内容です。やはり確実にこれは子供用です。子供たちに厚徳の念を喚起させる内容なのでしょうか。実際の確認についてはここでは避けたいと思います。
劇場の客席はひな壇形式だろうと思いますので、その下の部分には空きがあります。そこにはショップが入っています。角にはKFCがあります。ここを進むと階段があって半地下に入っていくような独特の形になっています。全体的に見通しの悪い形状だからか、学生が集まって勉強したりということがやりやすいようです。マクドナルドもこのように利用されている例が多々見受けられます。
粥と面のファーストフード店です。この店はもうこの時間には閉店しているようで、従業員の男性2名が食事をしているようです。中国式のファーストフード店というのは結構種類があります。もっともこれはファーストフードと呼ぶべきなのかわかりませんが、欧米式を参考にしたチェーン展開をしているのは間違いないと思います。北京南駅のような近代的な大きな駅にはたくさんあります。
本レンズは白が印象的なように思います。白が優勢な画であれば結構冴えるように思います。犬が入り口でずっと待っています。餌を貰いに来たのでしょうか。
木偶劇院の端まで来ました。通りを挟んで向かいにプレハブの商店が並んでいます。これはおそらく豆乳をベースにした飲み物です。時間が遅いのでもうお客さんはいなくなっています。疲れたのか主人は眠ってしまいました。
ここまでシネ・クセノン Cine-Xenon 50mm f2を見てきましたが、これはf2ということはトロニエ設計をほとんど踏襲したものかもしれません。そうであれば、この収差の少なさは理解できるような気がします。描写には特に何の遊びも感じられないのでf1.9で改良し、映画用のレンズに関しては旧来のf2をそのまま転用して精度を高めたのかもしれません。映像用途であれば、このf2の方が良いのかもしれません。シュナイダー的な味はこれもある程度はあるので、使い方によっては有用だと思います。