ヴィンテージレンズ愛好家にとって頭の痛い問題の一つで、広角レンズになかなか良いものがないというものがあります。この問題はデジタルになってから顕在化したようで、センサーの特性と関係があるようです。だからレンズが悪いわけではないのですが、現在の一般的な環境をトータルに考えたら良くないという結論になってくることがあります。この問題に対してライカは6bitコードを開発しレンズ毎に補正を掛ける方法で対処していますし、一眼各種も内部のソフトウェアで対応して問題を克服しています。レンズ個別で見た場合、割と時代が新しいレンズは古いものよりは問題が出にくいと思います。かといって新し過ぎるものも純正のカメラ本体を使ってソフト的にマッチングさせない限りは使えないと思います。その微妙な範囲で選択しようかと思ったらこれ、シュナイダー Schneider クルタゴン Curtagon 28mm f4はどうでしょうか。70年代ぐらいのものだろうと思います。
クルタゴン 28mm f4のレンズ構成図です。割とシンプルなレトロフォーカス型です。シュナイダーは分厚いエレメントを置くのが好きなので、いかにもシュナイダー的な感じはします。
本レンズは市場ではM42マウントで結構出回っているようで、以下に作例をご覧いただくのもその1つです。これならアダプターで簡単にM39に合わせられますが、距離合わせをどうするか心配があります。広角のf4なので何とかなるだろうと思って試してみますと十分目測で撮影できることがわかりました。開放でも無限から4mぐらいまでは深度の範囲に収めるので、すばやく撮影できて快適です。
東单の周辺は古い建築の多いところですが、その北側の東堂子胡同あたりはまだ行ったことがなかったのでついでの時に見に行ってみます。スタートは西の端の中華聖書会旧址です。最初見た時は廃虚かと思ったのですが、表に廻ると高級車が数台止まっていて柵がしてあります。人も出入りしていますが、今でも何かの事務所として使っているようです。政府機関の多いところなので特に珍しいものではありません。
まずこの画をご覧いただきましたら、周辺の不自然なボケが気になると思います。これは不良品を掴まされたかなと思ったのですが、家に帰ってネットで作例を検索しますとNEXを使っていても周辺のボケは感じられます。これで普通のようです。やはり広角をデジタルで使うのは難しいようです。レンズ構成がレトロフォーカスなのでセンサーに対して極端に斜めから光を入れるということはない筈ですが、それでもこうなります。絞れば消えると思いますが、開放ですでにf4なので実用的に夜間での使用は厳しくなります。(広角レンズは焦点距離が短いのでレンズの後玉からフィルム或いはセンサーまでの物理的間隔が小さくなります。このことはミラーを備える一眼レフにとって大きなデメリットです。しかしレトロフォーカス型はフランジバックを大きく取れる特徴があるので、一眼用広角レンズに多用されました。)
アンジェニュー Angénieux Type R11 28mm f3.5も同じレトロフォーカスですが、このような問題はありません。しかし目測の撮影ではピントを合わせるのが簡単ではなく、距離計の携帯が求められます。一方、クルタゴンは被写界深度が非常に深く、一般のスナップで距離を測る必要性は全く感じられない程ですが、これは大幅に収差を足していることによって実現したものと思います。これでもアナログでは問題は出ないのだろうと思います。デジタルでは使い方をよく考えないといけないレンズです。
胡同(老北京のローカルな通り)にある中国伝統建築と、遠くに見える民国期の西洋建築、それに画面全体を覆う枝です。枝は距離がだいたい一定ですので画面全体の収差状況がよくわかります。もうほとんど真ん中しか使えないという感じです。スクエアにカットしても厳しいかもしれません。
数mぐらいの距離で近いものを撮ってみますが、これもあまり変わりません。少し日陰に入ると、実物よりも色彩が濃く浮き出る感じがあります。
もっと迫って平面を撮るとこうなります。
家に帰る途中、バスで一回乗り継ぎますので、乗り換えの付近にあります五道営胡同に入ってみます。この画はあまり乱れが出ていません。実はこの撮影では数度撮直しをし、距離をいろいろ変えてみました。手前にピントを持ってくると結構はっきりしてくるようです。そうするとレンズのフランジバックが狂っている可能性があり得ますが、慎重に吟味するとそういうこともないようです。若干、手前から奥へという意識を持った方が良いようです。
五道営胡同は新しい感覚のカフェが並んでいる通りです。夜に賑わうところと思われますので、まだ人はほとんどいません。色彩感がシュナイダーらしい感じです。
中国に来てリサイクルショップというものを見たのはこれが初めてです。商品がレアかどうか以前に商店自体がレアです。そもそも中国ではいろんなものが安いのでリサイクルショップは成り立ちにくいと思います。電気ストーブが見えていますが、新品と価格が変わらないような気がします。夕方になってきて灯された看板のほのかな描写はシュナイダーならではの味わいです。
日を改めて五道口に行きます。先日は五道営でしたが全く違う場所です。五道口は北京・精華大学の門前町的な場所です。学生の多いところです。精華大学キャンパス内に見える風変わりな学舎を撮影します。ピントを手前に持ってくるという使い方ですが、無限遠は難しいようです。この画では明らかにおかしいのでポイントをうまく探らなければなりません。
五道口にある有名な和食店「ばんり」です。留学生が多数入っています。こういう構図であれば、周辺のボケは活かされます。
精華大学から林業大学に至る境界付近には、北京から北の方へ向かう列車が通過する踏切があります。北京市内には踏切はほとんどありません。地下鉄か高架です。郊外に出るとこういう踏切が出現しますが、北京の大きな大学は市の端の方なのでこのあたりまで来るとようやく踏切を見ることが出来ます。人口の多いところですから大渋滞します。マナー等々の問題がありますので鉄道職員が線路を封鎖して警戒に当たります。
色彩感はどことなくアンジェニューに似ているような気がしないでもありません。レンズ構成が似ているからかもしれません。エレメントを分厚くした効果は確かにあったと思いますが、そのことによってイメージサークルが小さくなった弱点が克服できなかったような気がします。それでもシュナイダー的な美意識は譲れなかったのかもしれません。