無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業




写真の中に桃源郷は見いだせるか3

人は時に現実より美しいものを見る - 2013.02.12


シュナイダー ラディオナー 50mm f2.9
Schneider Radionar 50mm f2.9

 シュナイダー Schneiderが20年代頃に販売していたトリプレット型のレンズでラディオナー Radionarというものがあります。年代から考えて、ポートレート使用を考えて作られたものと思いますが、戦後には用途を変えて、カメラとレンズが一体化した安価なコンパクトカメラに付けられるようになっていきました。本稿でご覧いただきますものも、その内の一つで50mm f2.9ですが、他にはf3.5 f4.5もあります。(トロニエ Albrecht Wilhelm Tronnierによって取得された2種の特許はどちらもf4.5でした。DE501068 GB438671 US1987878)

 コストダウンを図ったレンズですが、今どき高級版のクセノン Xenonが安く買えるので、わざわざ安価版を入手する意味がないように思えます。事実、それは大いに正しい見解で、クセノンのパフォーマンスを見れば、これ以上何を望むのかと思える程です。しかしラディオナーが安価版だったとはいえ、かなり力を入れて作ったものであれば、別の見方も可能です。ガウス型のクセノンに対して、テッサー型のクセナー Xenarが劣ったものではなく、個性の異なるものだという見方ができるなら、トリプレット型のラディオナーについても同じ基準で評価できるかもしれません。クセノンの方が圧倒的に優秀なのは間違いありませんが、ポートレートを撮るならクセノンよりもラディオナーの方が良く、どんな効果を求めるかによって選択肢が変わってくることになります。

 トリプレットは多くのメーカーで作られていて、その内の一つにローデンシュトック Rodenstockのトリナー Trinarがあります。後にこのレンズとラディオナーは生産が一本化され、レオマー Reomarという銘で生産されました。ローデンシュトックとシュナイダーは設計思想が近いと思うのでこういうことも可能だったのだろうと思います。これらはいずれもドイツのトリプレットに対する最終的な結論と言えますし、パフォーマンスは素晴らしいので、ただ安価なカメラに付けられていたというだけで切り捨てるのはもったいないと思います。安価どころか、十分に高級な雰囲気すら漂わせています。描写だけでなく、外観も。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 凍った湖面  近所の西海、夏は釣り場ですが、冬はこんなそりを持ち込んで遊びます。背景のチリチリ感がいかにもトリプレットであることを感じさせます。シュナイダー独特の品もあって絵画的に見えます。まるで印象派のようなタッチです。少し距離は離れていますが、人物の表現の仕方がポートレートに適したものであることが感じられると思います。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 老北京ヨーグルト  酸奶はヨーグルトのことです。老は伝統的なものであることを示していて、これはつまり宮廷ヨーグルトのことを指しています。この五文字を見たら中国人は宮廷レシピを使ったものであることがすぐにわかります。だけどこのヨーグルトは安価で市内に結構出回っているものですが、宮廷レシピではない筈です。味がぜんぜん違います。でもこのあたりに来る人は観光客なので、わからないから適当に表示しているのだと思います。北京人が見たら「?」と思うでしょう。描写の落ち着いた佇まいが何とも言えません。もしこのレンズの後群をダブレット(2枚張合)にすればテッサー型になりますが、そうするともう少しくっきりした感じの描写になります。テッサー型の方が傑出していますし、味わいが失われることもありませんが、だからと言ってトリプレット独特の味も否定できません。これはテッサーには求めえないものです。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 炙烤  これは何の料理かわかりません。店は春節のため閉店していました。何かを炙って焼くものなのは間違いありません。こういう看板の出し方は中国的です。北京的と言った方がいいかもしれません。なかなか洒落た感じがあります。素材の表面の質感の捉え方は柔らかく、優しげな感じがあります。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 三番地  屋敷の壁に「3」とあります。3番地という意味ですが、こんな巨大な住所表記は初めて見ました。わかりやすさを通り越して、かえってわかりにくくないか?と心配になります。この感覚も古い中国の芸術的感性だろうと思います。違和感が全くなく、見ごたえすらあるのは、さすがだと思えます。もしこのレンズがたいへんシャープなレンズで、しかも絞って撮影すれば全体が明瞭に写りますが、それなら単なる記録写真になってしまうような気がします。ボケ味がこの壁の芸術性を一層高めているように思います。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 京料理  観光地なので、臭豆腐も3個で10元もするようです。「京味」ともありますが、北京の味付けということを示していて、対観光客にとてもキャッチーです。汚い店という要素も伝統を感じさせる意味で説得力があります。さっきのヨーグルトの件もあったので、本当に京味かは甚だ疑問ですが、場所がいいので人が絶えることはありません。ピントはどこに合わせたのかはっきり憶えていませんが、今一つはっきりしない、曖昧な作画になってしまいました。もっともこういう構図を選択するなら絞るべきでしょう。それでもトリプレットには適さない構図だろうとは思います。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 人力車  春節だから中国の旗が掲げてあるのかと思いましたが、よく見るとそうではないようです。これは景点(観光スポット)があることをわかりやすく示すもののようです。古い町並みを見て回る界隈なのですが、勝手にどこでも入っていくわけにはいきません。入っても良いところには国旗が4本ぐらい立ててあります。それで人力車や観光客が群がっています。こういう構図でも一部に奥行きのある部分があれば、ある程度見栄えがするように思います。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 そり滑り  什刹海まで出てきました。今年はたいへん寒く、例年以上にしっかり凍っています。それで全域が開放されていますが、暖かい年であれば、市当局の検閲を経て開放区域が決まりますので、柵が時々縮小拡大を繰り替えし、その範囲で遊びますけれども、今年はそういう制限がないようです。中国式のそりは、上品に椅子に座るようです。棒を2本持ってそれで氷を掻いて前進しますが、割と簡単に前進できるようです。老人から子供までたいへんな人気です。ピントが合ったところは柔らかいのですが、外れたところは硬くなるというトリプレットの特徴からこういう構図では全体に硬めのボケが出ますが、これが意外と趣があります。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 不要盲目 シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 黒い猫と瓶  近いところを撮るとシュナイダーレンズらしい雰囲気が出てきます。落ち着いた発色のノスタルジックな表現です。でもクセノンの方が艶やかです。同じDNAを受け継いでいることは感じられます。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 21家庭料理 シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 12㎡バー  「21家庭料理」と「12㎡バー」です。21の方は日本料理屋で何回かお世話になったことがありますが、12㎡の方は入ったことがありません。その名の通り非常に狭いバーで、07年の工事中の時に見た時、白人のオーナーが人夫にいろいろ指示していました。結構長く続いていると思います。トリプレットは基本的にソフト系なので光は滲みがあります。それが暖かい雰囲気を醸し出していて良いのではないかと思います。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 東堂  暖かく写るのであれば、黄色い光は尚一層映えます。クセノンで撮影しても見事だろうとは思いますが、少しユルい感じもまた別の魅力があります。ほんのりした雰囲気です。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 レストランのランプ  光がきつくなっても絵画的味わいを失うことはありません。光にコクというものがあるのかどうかわかりませんが、そういうものを感じさせる描写です。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 タイの像  紫が強く出る傾向のあるシュナイダーレンズの美点が活かされやすい画です。ポートレートに適するものであるということもありますので、タイ料理店の人形も魅力的に描かれたかもしれません。赤と紫の光というのが、ちょっと怖い気はしますが。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 南锣人家  ピントが2つの提灯の間に入ってしまったようです。そのためどちらもはっきり写っていませんが、手前の提灯は柔らかく、奥は硬めに締まっています。もっとピントを引きつけて奥はぼかして飛ばす方が好ましかったと思います。これは火鍋の店のようですが、祭りのような雰囲気が捉えられたと思います。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 徳勝門  夜の徳勝門です。もちろん肉眼ではこのように滲んでは見えません。写真というより絵画のようです。滲んだことによって華やかさが際立てられたと思うので、表現の一つのオプションとして良いのではないかと思います。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 鼓楼  こちらは夜の鼓楼です。鼓楼のライトアップは周囲から大きな電燈を浴びせているだけなので、徳勝門のように美しくはありません。今後の奮起に大いに期待したいところです。しかし鼓楼東大街沿道は幻想的に仕上がりました。鼓楼が艶やかであればパーフェクトですが、ここは期待を込めて減点としておきます。車のライトの方が見栄えがするようではいけません。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 金龙远宾馆  光はほんのり滲みますので、こんな画はどうかと思って撮っておきました。ここは年中、こんな風に輝かせています。肉眼で見た感じでは単に派手なだけの印象ですが、こういう滲みが出るレンズで撮影すると幻想的で良いものです。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 TAMAYAKI  たこ焼き店です。もちろん日本食として売っています。しかしそれにしてもこのゆるキャラ(?でもない)をふんだんに用いた演出は何なのでしょうか。日本的なものをてんこ盛りという演出なのですが、日本人が見たら絶対にわからないと思います。中国人は日本に対して、漫画とかそういうところから入りますので、こういう演出はすごくわかりやすいのだと思います。中国人が抱く日本のイメージが盛り込まれています。キャラは「かわいい」ということが重要という認識も十分にありますが、中国人が作るとどうしてもかわいくないのです。キティーちゃんをコピーさせると、なぜ痩せこけた猫になるのか、甚だ疑問なのです。オリジナリティを折り込むのは結構ですが、それは違うやろ?という疑念が払拭できないのです。インド人にコピーさせるともっとえげつないので、それよりはましですが、そういうふうに見ていくと大和人の感覚の方が独特なのかもしれません。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 中国の赤いランプ  滲みが出るとは言え、距離を引きつけて撮れば、それなりにしっかり写ります。だけど少し泳いだ感じはあります。この揺らぎが大きな魅力だと思います。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 窓  シュナイダーはパステル調に発色する傾向がありますので、こういう構図ではメルヘンチックに写るだろうと予測しましたら、確かにそのように写ったように思います。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 バー  背景のボケを見ていますが、やはり硬めのチリチリした感じで写っています。ポートレートを撮影する場合は、すっきりした背景を選択した方が良さそうです。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 鞋の広告  このポスターは写真だと思いますが、かなりエフェクトして絵画調にしたものを大きくして壁に貼り付けています。そして前面にガラスがありますが、そこを構わずに撮影しています。こういうものをラディオナーの天然エフェクトを掛けたらどうなるかをご覧いただいています。僅かな荒れ具合がノスタルジックで良いと思います。

シュナイダー Schneider ラディオナー Radionar 50mm f2.9 鞋  これもガラス越しですが、あいまいにフラフラした感じのボケ味がメルヘンチックな情緒を感じさせ、この店の雰囲気を引き立てていると思います。

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