映画というのは見る人々に夢を与えるものなので、その映像は現実的であっても、やはりどこか超越したようなところが欲しいものです。映像用のレンズはそういうことも考えて魅力的に作ってあります。
ナチス・ドイツ時代に国策的に作られたと思われるレンズ群にアストロ・ベルリン Astro Berlinのものがあります。その望遠レンズに関してはミュンヘン・オリンピックのテレビ放送に間に合わせるために作られたことはよく知られていますが、その他の動画用のレンズも、幹部の演説の映像を制作することもあったことを考えれば、国費を投入して相当力を入れて作ったのではないかと考えられます。ナチスはネガティブな点が多いですが、芸術的な工業製品を作ることに関しては非常に優れていました。30年代のドイツの多くの製品、とりわけ音響関係は今でも驚きの高額で取引されていますが、レンズについてもアストロ・ベルリンのものは映画レンズの中でも最高ランクの評価を得ています。(確立されたリストを持つアストロ・ベルリンも参照)
それでもアストロ・ベルリン Astro Berlinのレンズを研究しておきたかったことから、研究できれば何でもいいからということで安価なものを物色していたら、何らかの理由で捨て値で売っていた怪しい個体を発見し、購入に至りました。パン・タッカー Pan Tachar 50mm f2.3でした。4群4枚、スピーディック型です。マウントがどの撮影機のものか不明、改造困難、絞りリングに傷が多いとか、マイナス面が多いにしても安かったので、どうにかなるだろう、と思って買っておきました。確かに厄介なものでしたが、これを何とか自力で距離計に連動させて改造いたしました。
北京は年に1回は雪が降ります。多くてもせいぜい3回ぐらいで、冬は氷点下-20度に達することがあるとはいえ、雪に悩まされることはほとんどありません。それゆえに写真を撮るには、雪が降った時を逃すと次の機会は一年先になるかもしれません。それで遠出したいところでしたが、あいにく風邪気味で近所で少し撮影するに留めました。夜間は猛吹雪だったようで、と言っても風が強くて雪は少なかったようですが、木の葉が道いっぱいに散らばっています。雪の上にも葉がたくさん載っています。ただそれだけの画ですが、描写は鮮烈です。キレがあります。
色彩感の分離も特徴的なようですので、薔薇を撮ってみました。白と赤のコントラストが艶やかです。風がまだ強くブレていますが、もし静止していれば浮き上がるような描写も見れたかもしれません。
火鍋です。火鍋でも辛くないものもあります。肉を入れて出汁が出ますので、これを汲んで飲む事もあります。北京ではここ数年、給料は上がっていないようですが、物価はインフレです。牛肉価格が最近1年で1.4~1.5倍に上昇したということで問題になっています。ビールは07年は0.7元(10円)でしたが、今は2.3元(30円)です。ビールが飲めなくなった人はたくさんいると思います。光の具合によっては描写の切れ味が影を潜めるようです。
まるでギリシャの彫刻のように見えます。ショッピングセンターの街灯としては特に特別なものではありませんが、造形美が強く感じられる写りです。彫刻は立体感とエッジの鋭さを材料の持つ質感が包み込むような独特の表現がありますが、そういう描写を狙ったような気がします。硬いのか柔らかいのかよくわからない写り方です。これが最大の特徴だと思います。
中間色の多い画ですが、1つ1つの色彩にあいまいさが感じられません。シュナイダーとは違いますが、美しいパステル調に表現されている点では違うところがありません。思うにこの表現はベルリンの光学会社の特徴のように思います。シュナイダーは本社をベルリンに置いていた時にこの特徴を習得した可能性が高いと思います。アグファにも共通した色彩感があります。アグファのフィルムと言えば、好相性とされていたロモ LOMO LC-Aですが、これもベルリンを源流としていると仮定すれば、パステル調の色彩感を持っている理由が得られると思います。
夕方になり、だいぶん暗くなってきていますが、まだ西日が得られている、そういう時間帯です。中途半端な明るさですが、ネオンがついているのは、はっきりわかります。ネオンの文字や壁、背後のドームなどの色彩感はアグファのレンズと見紛う程です。
日本にも同種のものがある、歩道のブロックです。まるで精密な鉛筆画のようです。そこに置かれたように落ちている落ち葉の佇まいに品が感じられます。
夕方の強い光を受けた時の赤と黄が混じったような色彩感が出るのはアグファと共通しています。北ドイツのメルヘン趣味が感じられます。
先ほどから夕方に燕沙方面をうろうろしているのはなぜでしょうか。はい、ここへ来るためです。麦子店にあります北朝鮮国営レストランです。北京に着たばかりの頃は、ここの焼き肉はすごく高いと思いましたが、これだけのクォリティは北京の他の店では望み得ないので、むしろ安いかもしれないと思っていました。それからしばらくたち、北京の物価がどんどん上がっていく中で、いまだに価格改定していない当直営店は今ではまあまあの値段と感じられる店です。最近の外食の価格は日本と変わりませんが、ここも日本の水準と同じぐらいです。
なぜか、繁体字で書いてあります。たぶん香港的な雰囲気を醸し出そうという演出と思われます。芸が細かいです。「平壌館餐庁へようこそ。毎晩8時、平壌の美女たちの見せ物があります。」と書いてあります。入り口はこちらです。本当にレストランでしょうか。それにしても凄いコンセプトの国営レストランです。非常に怪しいですが、子供連れの客も結構入っています。
まず「朝鮮の酒はありますか」と聞きます。中国では北朝鮮を「朝鮮」と言います。「日本人なのでよくわからないのですが」と言ったら「日本人やてわかってる」とのたまわります。「冷蔵庫を見に行ってよろしいですか」と言ったら「持ってきてあげるから待ちはって」みたいな京都人風のしゃべり方です。そこで選んだのがコリョと書いてある酒です。コリョとは「高麗」の発音でコリアの語源です。伝統的な酒なのでしょうか。たぶんジンですが、英国物みたいに舌に刺してくる感じはなく、飲みやすいです。1/10ぐらい飲んで持ち帰りました。150元です。
店内の絵画は北朝鮮のものだということがすぐにわかりましたが、シャンデリアもそんな感じがしたので聞いて見ました。うれしそうに「そうどす」と言います。かなりたくさん同じものがあります。レンズの評価の方を忘れて関係ない話に移ってる感がありますが、夜の室内になるとわりと普通になるようです。特に言うことはなさそうです。
歌あり踊りありと盛りだくさんです。普段給仕をして下さる皆さんで、着替えてから20分ぐらい、いろいろ見せて貰えます。
さて、ポートレートの一枚ですが、これだと現代レンズと変わりません。周辺の流れていた収差もほとんど出ていないようなので、この会場は理想的な光の環境だったのかもしれません。先ほどのシャンデリアが天井にたくさん吊ってあり、切れた球もきちんと交換してありますから、光が多く重なりあい安定していたと思われます。(切れた球を交換するのは当たり前ですか? こちらではそうではありません。すぐに切れるし。)本レンズはパステル調に出る傾向があるので、その効果はあるかもしれませんが、はっきりとわかりません。
美しい朝鮮舞も鑑賞できました。音楽は録音でしたが、朝鮮鼓という太鼓が入っているのが朝鮮風の感じがして良かったです。
伝統音楽だけではありません。西洋音楽もOKです。
京都風に話されるお姉さんも活躍されました。この人らは、一人で一応何でもできるようです、歌とか楽器とか踊りとか。やっぱり芸者なのでしょうか。レンズがどう、以前に、北朝鮮レストランが桃源郷的ということで次に行きたいと思います。
帰り際に北京料理の?店がありましたが、入りませんでしたが、玄関だけ撮ってみました。「酒を飲んで麺を食う」と書いてあります。それだと天ぷらも欲しいところです。写真を拡大して見ますと、この手前の黒い額ですが、ボケたような見苦しさがあります。しかし奥の「一碗居」あたりははっきりしています。さらに奥の光の重なり具合は幻想的な感じもありますが、全体としては安定を欠いています。奥のボケはこれまでに撮影したものを見ても、結構味があります。これをうまくコントロールするのが鍵になるかもしれません。
また別の日に本レンズを持ち出しましたが、今度は世界的に有名な台湾の在る小籠包の店です。
服務員は中国とは思えない質の高さです。何も言わなくても気を利かすぐらいで、怒鳴らないと来ない他店とはまるで違います。適当なところで「アンケートへご記入をお願いしてもよろしいですか」と言って紙を持ってきますので応じます。変な日本語の翻訳も付いています。質問の内容はありきたりのものです。おいしいのはどれでしたか、とかそういうものです。しかし最後の質問には驚きました。「あなたが推薦できる服務員がいたらご紹介下さい」というものでした。これは意味がわかりませんでしたので、中国語と日本語の両方を見ましたがそれでもわかりませんでした。つまり、店内でこれはと思う人物の名札を見てプッシュするのか、外部の人材を紹介するのか、どっちかということです。どうも両方の意味をあいまいに含めているようです。私は「興味深い質問だけれど、見い出し難いね」と書いておきました。今から思ったら、なぜ北朝鮮美女の皆様をプッシュしなかったのかと悔やまれます。
一押しは上海蟹のようです。うまいのは確かですが、身が少な過ぎます。今まで一回しか食べた事がありませんが、今回もパスします。中国人の中でも同じようなことを思っている人が多いようで、上海蟹は全体的に価格が下落しているようです。最近はスーパーにもたくさん売っています。
ここでも「台湾の酒はありますか」と聞きます。お兄さんにお勧めいただいたビールを行ってみます。フルーティーで甘い感じです。台北で作っているものを輸入しているようです。これは意外と当たり前ではありません。朝日(中国語では漢字なのでこう表記します。アサヒのことです。)は中国で作っているので味が違います。ちなみにリンク先のビールの裏側の写真はマクロで撮影です。このレンズが本来マクロかどうか知りませんが、この解像力であれば十分使えます。元々ヘリコイドがなかったので買ってきて付けていますが、それが結構伸びるのですごく寄れるのです。本レンズのマクロも上品な描写で良いと思います。ちなみに本コラム欄で結構酒が出てきますので、私が酒好きな奴という誤った見方が生じかねないことから、ここで一つ釘を刺しておきますが、普段はほとんど飲んでいませんが何でも飲めます。この「何でもOK」ということがどういうことかについても深読みは誤りと強く申し上げておかねばなりません。ただ、桃源郷的飲料は何かについては皆様と意見を共にするところであります。
本レンズの立体的表現は、湯気にまで影響があるようです。おいしそうに見えます。描写に一歩控えた品があるのが何よりです。
そしてパステル調の色彩感が、実は厳しいものを持っている描写力の印象を緩和しています。
マクロで3枚です。30cmぐらいまで寄っています。シュナイダーであれば、広告的に写る傾向があって、これもまたいいのですが、アストロは料理の本に収録されている写真のようです。桃源郷の食べ物みたいに撮れているでしょうか。
帰りに外から雍和宫というチベット仏教の寺院を見ます。たまたま通っただけですが、いつもはこの界隈を通る場合は地下鉄なので見る事はほとんどありません。2号環状線の駅の1つが雍和宫です。アナウンスは「下一站。雍和宫 ラマ・テンプル」とわざわざ英語も加えます。なぜでしょうか。市民の英語教育のためでしょうか。こんな駅は多分北京に100はある地下鉄の駅の中でここだけだと思います。
描写とは関係ないのですが、このレンズを使って1つ気になることがあります。よくよく角を見ると僅かですが暗くなっている画があります。これはR-D1のセンサーでギリギリのイメージサークルということを示しているのかもしれません。このこととレンズ千夜一夜ブログの270番の記述を比較してみますと、ライカM9でもR-D1同様に角まで収まり、一方フィルムで撮るときっちり暗角が出るようなことが書いてあります。しかもフィルムは大きく蹴られるとあります。R-D1の写りを見ると確かにフィルムの範囲はカバーできないだろうことは容易にわかりますが、M9はどうでしょうか。持っていないのでわかりませんが、もしかするとR-D1と同じセンサーサイズの可能性があります。それとも隅の方はかなり強い補正を掛けているのでしょうか。