無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業




ルドルフによるソフトフォーカス Weich Plusmat
「院落」P6 65mm f1.7

2025.11.24

 Kino Plasmatの特許には3種のデータがあり、それぞれ大きく異なるものでした (独特許 DE401630)。最終的に3番目のf2が製造されました。2番目のf1.7はソフトフォーカスでした。球面収差がオーバーとなっている点で、ライカ Leitz・タンバール Thambarと同じで独特なので、ルドルフがライカに影響を与えた可能性があります。しかしライカはキノを避けましたのでルドルフの設計を取り入れることはありませんでした。ルドルフの本作は実際に製造されたことはなかったと思われます。そこでドイツ語でソフトを意味する「ワイヒ Weich」を当てました。これも強烈なKino Plasmatそのもので、その上でソフトフォーカスにしています。Rapid Plasmatはアンダー、Weich Plasmatはオーバーです。

 これは当時映画で使われていた軟調レンズの結論として提示されたものと思います。ソフト効果はf3.4で消えるともあります。f1.7~3.4の間での使用が推奨されています。このレンズ構成では、ダルメイヤーのスピード・アナスチグマットもありますが、絞りを挟んで内側の2枚は極端に薄くしています。厚くするとPlasmat独特の溶けるような表現となりますので薄くして引き締めたのだと考えられます。対してより厚度を増すと、さらにソフトも加わっていますので、それは世にも美しい蕩けるような表現になるのではないかと想定されます。

Weich Plasmat ガラス配置図 Weich Plasmat 縦収差図 Weich Plasmat 横収差図

院落 P6 65mm f1.7 0円


 50mmでも製造可能なのですが、ちょっと長い方が良いかもしれないと思い、65mmにすれば、44x33の標準画角にもなります。645は光量はありますが推奨範囲外です。図は全て65mmで出図しています。元よりガラスの厚みがあったところを65mmにするので、非常に濃厚になります。

 絞りはf3.4を起点に考えます。ですから、Rapid Plasmatと同じで、f3.4からにしても良いのですが、Weich Plasmatはわずかに隙間があるのでもっと絞れます。f3.4は目立つように表示します。基本的な考え方はRapidと同じです。開放で使うのは稀な例外になりそうです。厚いガラスや絞りの入りにくさ、大口径、ソフトフォーカスなど共通点があります。Rapidは8mm映画用、Weichは35mm映画用(デジタルではAPS-C)のどちらも標準レンズです(WeichはAPS-Cなら焦点距離35mmは可能)。

 後代のソフトフォーカスレンズは専用設計で特化している傾向ですが、アール・デコ期ぐらいまでの時代はそうではなかったことが、これらの設計を見てわかります。光の状態にも拠りますが、Rapidはf1.2→f1.4ぐらい、Weichはf1.7→f2.0ぐらいまで少し絞るだけでソフト効果はかなり失われます。1910年代より前ではレンズはハリウッド関係者が特注するものでした。映画は長時間視聴なので、初期には目への刺激を和らげるためにドライアイス?や香の煙?(タバコも?)、更紗などを使っていたようですが、やがてレンズの方で対策するようになりました。ソフトフォーカスそのものを求めるというよりも、硬さが取れれば良しという感覚でした。これら往年のキノはその量産型でした。そのため、露骨にソフトになってしまうのは、表現手法や狙いにも依りますが、本旨ではありません。

 単に描写が甘いだけでは陳腐化します。映像に永遠性を与えるために設計されていますが、キノは測定性能の観点では劣っているので、わからない人には全くわからない面があります。当時から評論家の中で意見がわかれて対立していました。それに対し、ルドルフ先生ご自身が「ばかやろう」的声明を出す程でした。そんなことを言われてもね。中高女学生が何かを見て「かわいい」と言います。我々はどこがかわいいのかわかりません。かわいいかどうか、彼女らに質問しないとわかりません。永遠にわかりそうにない。感性が鈍いのだろうか? 「あなた、どうしてわからないの?」と言われて爆笑されるという誹謗もあります。それと同じですから。しかしルドルフさんのこれまでの経緯を見ると、彼自身が相当な腕の撮影家だったのではないかと思います。本人が使いこなしているか、少なくとも周囲に腕の良い撮影家がいないと、このようなものは作れない筈です。


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