第四の
Kino **DE401630**
商標権が取得されている名称は使用できませんので引用元の「**DE401630**」ような形で表記することに致しました。ご迷惑をお掛けします。 - 2025.3.17
パウル・ルドルフの遺作です。最期のKino **DE401630**です。特許では計算値にてf1.0となっていますが製造は不可能で絞りはf1.2-2.8と独特、そしてかなりの巨砲です(フランジから前玉まで約6.5cmなので寸胴)。描写は、静かな佇まいのKino **DE401630**です。
1935年春のパウル・ルドルフ Paul Rudolph死去に関する死亡記事には、彼が最後に取り組んだレンズは「Rapid **US1833593**(米特許 US1833593)」だったと書かれていました。この設計はドイツ特許庁に認められませんでした。Zeissに保管されているMertéが個人で制作していたデータシート 858に記載されており、画角は約30度でした。設計はメイヤー在籍時で、メイヤーから8mm映画用で12mm f1.1が販売されたことがわかっています。これは70mm相当です。特許は米国で申請が通過しています。その記載では口径はf1ですが、Mertéはデータシート集の目次で、実際にはf1.2ぐらいと指摘しています。
ルドルフ博士40歳ぐらいのお写真です。ラピッドは晩年の作、ラピッドでの撮影ではございません。
これは小さなフィルムサイズ用の**DE401630**です。**DE401630**も8mm映画用に12.5mmからありますが、レンズが小さくなりますと味がなくなりますしフィルムも小さく映像が貧しくなりますので、そこを埋め合わせるような特化したものを作らなければならないと考えたものと思います。今後8mmカメラが普及するであろうとの商業的理由から最高のレンズを開発しようとしたものです。その意味で、強化された**DE401630**と言えます。小さいフィルム用ならレンズも小さいのですが、そこを手厚くしていますので、35mm判にスケールアップすると巨大となり、重いガラス、高価なガラスをたくさん使う合理的でないものになります。そういう意味で小さいフィルム用です。ですが、8mmでしっかりした濃厚な画を撮るために作ったものをもっと大きくして見るというのは、**DE401630**の素晴らしさを体感した後では、やはりこれも復刻したいとなります。
実際に製造する大きさで出図しています。絞りが入りきらないことがわかります。レンズは接触しています(製造では接触させない)。特許の説明では、途中までしか絞りは入らないので現代のタイプの回転型の絞りを使う必要があると書かれています。ガラスは圧着させてはならないとも注意があります(温度が上がると膨張して割れる)。f2.8まで可能です。f1.2~2.8というとんでもない玉です。これを白昼晴天で使用となると、相当な高速シャッターとなり、現代では可能ですが昔は不可能だった筈です。そのため、スチールでの使用は想定されていないことがわかります。しかし8mmのような映画では、小さいことから集光に難があり、どうも暗くなる。これぐらい明るくないと使えないということです。
院落 P3 60mm f1.2 356,000円
専用フード付き。フィルター径62mm。至近距離0.5m。絞羽12枚。直進ヘリコイド。重量は計算値で567g
ガラスの厚み、間隔、貼り合わせの位置こそ違いますが、レンズ構成は同じであることがわかります。貼り合わせるのは色収差の調整なので、それ以外の収差へのプレゼンスはかなり限定的、大筋では関係ないとみて構わないと思います。縮尺は合わせていますのでRapidのガラスが如何に巨大で分厚いかがわかります。濃厚でリッチな描写となりそうです。いずれも焦点距離50mmに合わせてあります。
製造は57mm(表記は60mm)ですので、ガラスはもう少し大きくなります。推奨が70mm(画角32.5度ぐらい)ですが(Kino **DE401630**はもっと狭い感覚があります)、長すぎるのではないかということで、画角39度は大丈夫だろうと、半画角で3度ほど角の方が広がりますが、これで製造といたしました。
Kino **DE401630**は他に2種類ありますが、これらも基本構成は同じです。Kino **DE401630**は特許のデータを参照すると3番目のKino **DE401630**でした。そうしますとRapid **US1833593**は4番目、ルドルフ博士最後のKinoでした。Kino **DE401630**の美しさを見るに感じられるのは、最後のKinoが世に現れていないのは悲劇。どれほど美しいのか大いなる期待を抱かせます。
Kino **DE401630**は焦点に関しては鮮明に写っていました。対してRapid **US1833593**は球面収差(図左)が約-1mmで、ソフトフォーカスの範疇と捉えることが可能です(近現代的なソフトフォーカスレンズはもっと本格的にボケますので、その観点からは全くソフトフォーカスではありません。イメージとしてはライカ・ズマリットが大口径にするために設計に無理があり、残存収差で僅かにソフトになってしまう。それを設計でオーガナイズして善用したものと考えれば近いように思います)。f1.7でかなり完全に色収差が消えますが、そこまでは球面収差が維持されており、そこから球面収差が減少してf2.8までで、絞り切るとスーパー・シックス Super Sixに近くなります。スーパー・シックスが使っているガラスの屈折率はすべてあまり変わりませんが、Rapid **US1833593**使用ガラスの屈折率は全て同じです。どちらの設計も、分散だけが違う2種のガラスしか使っていません。非点収差図(図中)のタンジェンタル線(点線)がKino **DE401630**のサジタル線と同じで、もう片方の線が反転しています。球面収差と同じ方向に合わせています。このことによって平面を得るのですが、しかし収差が多すぎるため平面にはなっていません。
Kino **DE401630**は焦点の幅が狭いのですが、Rapid **US1833593**では絞りが奥まで入らないぐらいガラスの間隔を詰めた結果、焦点が広くなっています。Kino **DE401630**はf1.5ではガラス間隔を広げているので、印象は変わりそうです。
口径はf1と指定されていますがメルテの指摘通り、f1.2が限界でした。44x33は覆いません。後玉がほぼフランジ付近で6cm以上出ている寸胴の巨砲です。フィルター径が62mmで(ズマレックスですら58mm)、ライカのレンジファインダーは使用できますが、ファインダーの右下は多くケラれます。
ガラスの透過率に関しては設計値は100%で考えています。コーティングをしても少しロスしますが、コート無しともなりますとf1.2のところ、透過率72%でf1.5(T1.5と表記)となります。しかし表記はf1.2のままにしてあります。なぜなら、絞り優先AFにおいては自動でシャッタースピードを調整するため考える必要がないということと、透過率と被写界深度は関係なく、ピントの薄さはf1.2のままだからです。とにかくf1.2はあまりに明る過ぎる上、絞ってもf2.8まで。コート無しでT1.5~3.5ぐらいとなり、この方がまだ使いやすい筈です。夜間でもT1.5は相当な明るさです。
Kino **DE401630**は、f2,f1.5,それからラピッドのf1.2、さらにf2の特許に記載されているf2.5はおそらくオールドライカのような柔らかさ、もう一つのf1.7はラピッドのアンダーに対してこちらはオーバーで5種類があります。Rapid **US1833593**の収差もf1.7を起点にしていますので、球面収差を活用するソフト・フォーカスにおいて、f1.7は重要なポイントだった可能性があります。
