無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業




ルドルフの遺作 ラピッド・プラズマート Rapid Plasmat
「院落」P3 60mm f1.2

2024.11.27

パウル・ルドルフ最後の遺作

 パウル・ルドルフ Paul Rudolphは傑作が多いですが、実際に販売された中でボケ玉と言えるのはキノ・プラズマート Kino Plasmatぐらいかもしれません。しかしこれをボケ玉というのは失礼で、特許を参照しますと映画用のソフトフォーカスとして作られたことがわかります。戦前の業務用ソフトフォーカスの概念は、現代のそれとはかなり異なります。ボケていてはいけないが、かといって女優を鋭利に写すわけにいかず、現実離れしたより魅力ある存在ともせねばならない、こう考えるとキノ・プラズマートの基本思想がソフトフォーカスだったことが容易に理解できます。そしてそこからさらに発展し、ルドルフ最期の遺作となった、そして当時は製造に至らなかったラピッド・プラズマート Rapid Plasmat(米特許 US1833593)がどのようなものだったのか、興味がそそられます。

 まるで現代AIが弾き出したような形状ですが、よく見るとキノ・プラズマートと同種です。キノのバージョンアップ版です。収差を見ますと、落ち着きあるキノ・プラズマートという印象です。これも明らかにソフトフォーカスです。口径はf1と指定されていますが計算上の設計値でもそんなにありません。f1.2が限界でした。焦点距離は57mmで、画角は39度です。もし50mmだったら像面が歪んでいるため、画角は42度で大丈夫です。そのため隅が1.5度ぐらい狭くなる計算です。
ラピッド・プラズマート ガラス配置図 ラピッド・プラズマート 縦収差図
 ラピッドでこれだけ明るい、またこの形状ですから、普通はプロジェクターレンズだろうと想像します。特許を見ますと、写真とプロジェクターとの用途が書かれているので、写真にも使うつもりだったようです。キノ・プラズマートが陽であれば、ラピッドは陰かなという印象ですので現代に残されていれば、これも高評価を得ていた筈です。過激なスーパー・シックスです。究極を追求するとどうしてもそういうところに行くのでしょう。スーパー・シックスが使っているガラスの屈折率はすべてあまり変わりませんが、ラピッド・プラズマート使用ガラスの屈折率は全て同じです。どちらの設計も、分散だけが違う2種のガラスしか使っていません。率直に透き通った感じ、そしてソフト、キノ、ある程度のイメージはできそうです。

 絞りが入りきらないことがわかります。レンズは接触しています。特許の説明では、途中までしか絞りは入らない、ガラスは圧着させるな、などと注意があります。つまり、絞りは入れなさい、だからプロジェクター用途のみで考えていたわけではないのは明らかと思います。工場に聞かねばなりませんが、f2.8まで絞ってギリギリガラスに当たらない、可能かどうかというところです。おそらくそれ以上狭くなりません。f1.2~2.8というとんでもない玉です。ですが、この玉に関してはf2.8でかなり普通になってしまいます(一般的な基準での普通ではなさそうですが)。だからそれで良しという判断だったものと思われます。

価格:??,000円 
まだ見積していません

専用フード付き。フィルター径?mm。至近距離も不明。絞羽?枚。ガラスコーティング無。重量は計算値で?gです。

 焦点距離は50mmでは製造面で問題があるので57mmとなり、わかりやすく60mmと表記します。44x33は覆いません。後玉がほぼフランジで6cmぐらい出ている寸胴の巨砲です。

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