ということでズノーレンズの入手を計りましたが、驚くほど高額で手に負えません。よくよく見ていくとDマウントであればかなり安価です。1万円というものまであります。そこで2本ほど入手できましたので、撮影に及んで見ていきたいと思います。まず1つ目は、ズノー Zunow 38mm f1.1をご覧いただきます。
上の設計図はアストロ・ベルリン Astro Berlin タコナー Tachonarのもので、f値は1.0です。25,35,50,75mmの4種ありました。おそらくズノーはここから参考にしたのではないかと思います。ksmt氏がズノーを分解し、図面1、図面2を公開していますので比較できます。3枚目と4枚目を貼り合わせた以外はだいたい同じのようです。
北京市内の端("端"というのは5号環状線になるらしい)にあります「世界公園」に行って参りました。世界の有名建築のミニチュアがあるところです。ぎりぎりのところで暗角が出ており周辺は流れています。
屋外は光が多すぎ、f1.1で撮影するのは困難です。あまりにも真っ白になるのでさすがに諦めました。それでこの写真以外は全部f2.8で撮っています。そんなに絞って撮ると個性が出にくくなりますが致し方ありません。そこでこの後、帰ってから夜にも出て行きますが、そこでは全部f1.1で通していますので開放は改めてご覧いただきます。ズノーが持っている味「儚さ」は開放でしか十分に出ないように思います。
映画用らしい人物の浮かび上がり方ですが、欧州のレンズにはない雰囲気は感じられます。と言われてもわかりにくい方もおられると思いますので、少し想像していただきたいのですが、もしこの3名が着物を着ていたらどうでしょうか。この質感の出し方だったらすごく魅力的だと思うのです。同じ映画用でもフランスレンズだと微妙な違和感を伴うところです。日本の生地とか色彩感覚にぴったりだと思えます。
日本独特の色彩感覚の特徴は「あいまいな色」にあると思います。灰色や藍色など中間色のバリエーションが豊富でありながら、その1つ1つのバリエーションに確立された概念があります。ちょっと違うぐらいどうでも良いというようなデリカシーに欠けた感覚は持ち合わせていません。日本には少しづつ違った色彩の妙を味わえる繊細さがあります。紅葉の色の移ろいを味わう希有な民族です。淡い色と原色は対称的なのに、無限に広がる淡い色彩の重なり合いの中からしか表出しない艶やかさを知覚できます。結局は優秀なレンズなんてものは世界中にあります。しかし日本の色彩感覚を味わえるレンズは日本にしかないのでしょう。
このレンズは爆濃型でしょう。(「三態」についてはフランスの品格が導き出した3つの表現を参照して下さい。)フランスシネレンズの多くの大口径が爆濃型であるのと同様、本レンズも爆濃型です。はっきり艶やかに写っています。もっと消え入るような東洋の感覚を味わいたいところですが、f2.8では無理でしょう。
本レンズは大口径で大きい上、ライカにマウント改造するなら17mm程カメラ内部に潜り込みますので、距離計連動が難しいのです。外付けの距離計で間に合わせています。距離が狂い、ピントが奥に行くと中央がボケます。これは「WORLD」あたりがボケています。爆濃型特有の、しかしフランスレンズにはない色彩感覚があります。
色彩と輪郭が明瞭なため、ミニチュアに見えます。
暗角が出ていて、そのギリギリで使うものでもありません。ですから周辺は本来使われない部分です。しかしそのあたりのボケが好きという人は結構いそうです。
世界公園は建物のミニチュアを置いているところです。アフリカ・サハラ以南だったら何でしょうか。これといってないみたいです。外すわけにはいかなかったようで、これ「アフリカ現代生活実録」です。実録ですから具体性が伴っているのでしょうか。そこで目の当たりにしたものはすでに皆さんの予想を超えています。これとこれです。
中東の遺跡の柱廊のようです。これはできればf1.1で撮りたかったところです。柔らかい光の重なり方が見られた筈ですが残念でした。
赤茶色の壁に青銅色の床です。それに、赤い服にジーンズの青という対称です。中間色は品があって美しいですが、それに対して真っ赤というのはいささか色褪せた感じに見えなくもありません。フランスは青を強くする傾向がありますが、日本は赤を下げるようです。両民族の違いが感じられる部分です。
比較的平面に近い筈ですが、中央が少しボケています。収差の影響と思います。
中央はかなり高精細です。しかし周辺はよくなってきません。この種の映画用の玉は、少し絞るとこのようになる傾向があります。
上の2枚はスクエアにトリミングしています。だいぶん小さくしていますがそれでも周辺は流れています。周辺劣化が気になる使い方では難しそうです。
家に帰って、南鑼鼓巷の「逆旅」に電話するとライブをやるということなので見に行きます。中央がボケています。
狭いところで無理やりやっていますので、ギター奏者は客席に座っています。さすがにf1.1だとピントが彷徨います。
本レンズはとりあえず無限遠が出るように作っており、どんどん廻すとレンズが外れますが、かなり幅がありますのでマクロで使おうと思えば可能です。これは50cmもなかったと思います。しかもf1.1なので何度もやり直すとようやく合焦しました。それでもパースペクティブは思ったよりもあります。
フランスレンズであれば、赤はもっと艶やかに出ると思います。この抑えた感じがいかにも日本的です。どうしてフランスレンズばかりと比較するのでしょうか。もし英国のレンズであれば、同じ島国ということで、個性が近いと思います。英国は戦勝国ということでポンド高から戦後は影響力を縮小させたので、中心は大陸の方へ移ってゆきました。その中でズノーと好対照と思えるものはフランスレンズのような気がします。収差の取り方が非常に似ているように思います。ズノーはおそらくフランスのレンズを研究していますが、それでも自分たちの感性を重視している姿勢が窺えます。
f1.1でこれだけ解像力があるのには面食らいましたが、トリミングしても結構使えるかなと思うぐらいシャープです。ボケも率直ななだらかさを持っていて使いやすいと思います。
対象が中央に限定されていますので、周辺が流れても気にならない図です。しかしこういう西洋の素材を撮るならフランス物の方が合いそうです。
蝋燭の光は、東洋と西洋では違うでしょうか。そんなに変わらないと思います。炎が同じであったとしても、その炎を取り巻く環境は違いますから印象は変わってきます。仏壇の蝋燭を短く切ってこういう西洋ガラスの入れ物に入れれば、西洋の光になるだろうと思います。しかしこの画に見られる炎は東洋のものです。取り巻く環境が西洋であるにも関わらずです。西洋の雰囲気であればもっと燃えるような赤が欲しいところです。しかし仏壇の蝋燭がそんなに赤かったら違和感が有ります。ここにも東洋と西洋のバランス感覚の違いが見て取れます。
光の輝かせ方が日本の祭りのようで、何とも場違いです。淡い感じで捉えています。アンジェニューを持ってくる方が冴えたと思います。日本とフランスのレンズを使い分ける上で考えておくべき相違です。
外へ出て周辺も撮影して見ます。こちらは雰囲気がぴったりです。肉眼で見るよりも淡いイエローの光です。表札の赤い文字も黄色が混じってノスタルジーを感じさせます。こういう図はフランスレンズに任せるわけにはいきません。
アジアの色を表現すると日本のレンズ、とりわけズノーの右に出るものはないだろうと思います。表現に迷いが感じられません。
手前にガラスがあり、ボディの少し奥の上部から人工光が落ちてきているアブノーマルな条件です。そして西洋の強い影響を感じる東洋のチャイナドレスです。ズノーで撮るのも違う感じ、どっちつかずではありますが、このディスプレイの演出意図と合っているという見方もできないことはありません。
中国というより日本の明かりになってしまっています。そもそもこの明かりは中国のものではありませんね。日本から持ち込んだもののように思います。
光の反射の仕方が独特です。畳や襖がある環境だったら、うまく雰囲気が出たように思います。
ここまでズノー Zunow 38mm f1.1の作例を見てきましたが、ズノーを使う一番の理由は古い日本の古色然とした儚い雰囲気を味わうためですから、これではちょっと見当違いだったという気がします。デジタルとは相性が悪いのではないかと思えます。確かにそれなりには表現されているような気がしますが、ビビッド過ぎるようにも思うのです。かといってアプリを使うのも躊躇われますが、参考程度に見ることにします。
例としてこの画像を使いますが、いろいろ試した結果、DxO FilmPackというソフトの「パステル」がイメージに近いような気がしたので、それを適用してみます。
画像に程よく粒状感が出て荒れるし、古色風は増したと思いますが、それでもぜんぜん足りません。悩んでもしょうがないので、これぐらいにしておきます。
夜は調整不能で手に負えません。ぬるい感じでありながら、ガツっと来るので、思い切ってエフェクトしてしまいます。
HDR EffexProのプラグインを適用した一例です。こういう画像は全く以てズノーらしくありませんが、しかし別の意図でこういう画を得たい場合は有用です。