次にローデンシュトック Rodenstockと並んでミュンヘンの大光学会社だったシュタインハイル Steinheilのレンズを見てみたいと思います。この2つの会社のレンズは青、或いは藍色が強く出る傾向があります。そして非常にシャープで繊細です。たいへん優秀な性能ですが、独特の味もあってこういうものもなかなか良いものです。
シュタインハイルのレンズ群の中で特に高く評価されているのは、マクロの55mm f1.9です。たいへん高額で取引されていますし、確かにそれだけの価値はあるのかもしれませんが、マクロは他にも良いものはあるということと、マクロ専門で撮影するぐらいでないと買う価値はあまりないかもしれません。とにかくヴィンテージ市場では(現代レンズでも?)ボケ玉であろうがなかろうが明るいものが評価される傾向がありますので、スタインハイルでも最も明るい玉、その上、高精度が要求されるマクロとなると、それだけで評価が上がるのかもしれません。
L39マウントはたいへん珍しいレンズ構成を採用したものがあるので、気になるところです。しかしこれもプレミア価格がついているのは残念です。製造個数もそんなに多くはないと思われ、そのことはレンズ構成という選択肢が意外とライカユーザーには受け入れられなかったことを示しているのかもしれません。
シュタインハイル Steinheilには、ライカには付けられるけれどフランジバックが合わず、距離計にも連動しないM39マウントのものもあります。ここにキノン Quinon 50mm f2というレンズがあります。キノンはf1.9が有名でf2となると一般的にはL39マウントのものを指しますがこれは構成がゾナー型なのでM39とは違います。M39はその他のマウントのf1.9のものと同じダブルガウス型です。こういう事情でM39マウントの50mm f2となると結構安く見つかります。それでこれを改造、距離計連動として使ってみることにしました。
北京市内から1時間のところにある明十三陵、明代の皇族の墓ですが、雪がかなり降りましたので見てきました。早速この画で気になるのは前後のボケ方です。ピントは文字に合っていますが、開放f2でこれだけ近いところを撮れば普通は前後ボケます。しかし後ボケはないように見えます。
さらに距離を離してみます。ピントは奥の柱です。これだけ離れても特徴は変わりません。レンズの無限や距離計連動などの改造工作は自分でやりましたので、急に自信がなくなり、急遽確認実験を行いますが、全く問題ありません。ボケの特徴はマシュマロのようです。この特徴を活かすか否かでピントの置き場所を決めた方が良さそうです。
古代中国の貴人の墓石の底には亀の彫刻が配されますが、ここにもあります。この頭にピントを合わせてやります。耳より後ろはボケていますが、やはり奥は比較的明瞭です。
要所に古代のゲートがあって、それをくぐりながらまっすぐ進んでいって、最終的に墓に達します。この様々なゲートを近景、中景、遠景と撮ったものです。すべて距離は無限に合っていますので手前がボケています。これぐらいの大きさの写真で見ている分には気になりませんが、拡大すると溶けるようなボケは気になってきます。もっとピントを引きつける方が良いようです。とはいえ、遠景の手前にある樹木は良い雰囲気と思います。
墓に至る「神道」と言われる通路です。この天気ですから人はほとんどいませんが、ここまで来ると写真を撮りにきている人が少しいます。道の両側には神獣などと呼んでいた中国以外の地域の動物の大きな彫刻があります。さらに進むと大きな官吏の彫刻が並びます。この彫刻群は一定間隔に並んでいますので、この間の空間に人々や楽隊が並び、皇帝崩御の際に棺を通したのだろうと思います。描写は細やかで繊細な感じです。
官吏エリアまで来て3mぐらいの距離から見上げて顔を撮影します。樹木までは大きく離れていませんが、この場合はボケています。5mぐらいまで離れると背景は鮮明になるようです。とはいえ、この独特のボケ味であれば、どの距離でも歓迎したいところです。しかしながら、パースペクティブはヘリコイド上の間隔で決まっているので、5mまで達すると無限遠を焦点範囲に収めてしまうのだろうと思います。50mm標準レンズにしてはいささか範囲が広いように感じられます。
おそらく1mぐらいの距離です。これぐらい近づくと後方の収差が目立ちます。微妙にチリチリした描写を含めているのがこのレンズの特徴なので収差は混ぜていますが、その調合具合は興味深いと思います。出口のプレートの質感も滑らかで好感が持てます。
少し撮っただけではありますが、見た感じでは、f1.9のものと描写は変わらないか同じのように思います。この繊細感とボケの儚さはこのレンズの大きな特徴だと思います。この印象は青が強調されていることとも関係があるかもしれません。青を撮ったものは今回はないのでわかりにくいですが、じっくり見ると微妙に青優勢なのは感じられます。どことなくクールです。本来の古典的ミュンヘン派のレンズはこういうものだったのだろうと思います。
万里の長城も北京郊外だけで見どころが幾つもありますが、最近さらにもう一つ「水長城」という新しいスポットが開かれました。英語で「レイクサイド・グレートウォール」です。日本語だと「湖畔長城」でしょうか。東直門バスターミナルから直通バスが出ているということで行って参りました。
バスを降りて一枚撮ってみます。フードが自家製だったのですが、長過ぎたようで角が落ちています。そこらの中国人から「お前のフードは明らかに長過ぎるだろう」と言われ「問題ない」と平気で回答していましたが、よくよく見ると落ちています。しょうがないので気にせずに行きたいと思います。霞がかかっていますがこれは肉眼でも同様です。
西門から入って200mの地点に案内板があります。行き先はそれぞれにそそられますが、長城に来たわけですから「明長城」に向うことにします。天気の良い日ですが、描写は白が基調になっている感じの映りです。
左手が蒙古側ですが、険し過ぎて旗など立てずとも攻めて来ないであろうと思える程です。断崖絶壁です。
背景がまるで絵画のようです。
眼下に湖を見下ろしますが、これだけの高低差を移動しますので結構たいへんです。湖はダム庫ですので、その辺は勘違いしないように気をつけつつも、率直に風景を鑑賞することにします。
こういうところに来ると、長城そのものの険しさがどう、というよりも子供の世話がたいへんです。平地でもたいへんなのだから、こんな急斜面にあってはなおさらです。ほっておくと何をしでかすかわかりませんので監視が必要です。
長城は補修されています。元々はボロボロなので、そういう崩れたところも保存して見れるようになっていますが、登れるところは組み直しています。だから過去の遺構ではないですが、それでも極力残せるところは残していますし、実際にどんな様子だったのか体験できます。険しいところこそ見ごたえがあるということで、そういうところを補修していますからたいへんだっただろうと思います。
湖から長城を見ることもできます。こういうボートを借りたり、遊覧船で出口まで戻ったり、水陸両用車で乗り出すこともできます。
写真とは真実を写すと言いながら実際には如何様にも撮れたりしますので、本映像はいささかおおげさな感はありますが、それでもこれだけ奥深い山々に城を築いた様子を鑑賞できるのは感慨深いものがあります。
ボチボチ帰りかけますと、トイレの横にこういうものが雑然と並べられています。祭りをやるのか、やったのか? 中華的感覚の範囲内における所謂「かわいい」人形が大量に野ざらしで保管してあります。コンピューターというものが普及してからこういったものの様態にも変化が出てきましたが、そういうものも含めて文化というものを感じさせる1つの要素です。