シネ用の広角、25mmであれば標準画角として設計されたものですが、こういうものを使うと必ず暗角がかなり出ますから使用が躊躇われますが、それでもベルチオ Berthiot シノール Cinor 25mm f1.4の濃厚な味わいを楽しみたいということで無理やり使います。
SOM Berthiot Cinor 25mm f1.4 ガラス配置図
Cマウント用であればまだましなのですが、Dマウントですので、尚更ひどく暗角が出ます。レンズの前後のハウジングも光を制限していましたから可能な限り刷り、イメージサークルを大きくしました。それでもAPS-Hサイズで左右の端に届きません。端の方の描写もよくありません。それでトリミングが必要になってきますが、そうであれば25mmで撮影したことになりません。おそらく35mm見当ぐらいになるような気がします。25mmで撮影する意味がほとんどありませんが、パースペクティブの深さを利用した距離合わせ不要の撮影が可能になるだけです。しかしf1.4であればそれも困難です。フランジバックが非常に短いのでカメラの中に潜り込みライカの距離連動にも対応できません。こんな感じなので市場でほとんど価値が付いていない代物ですが、これを自分でマウント改造できましたので持ち出してどんな具合か見る事にいたします。撮影場所は円明園です。
具体的にはこういう感じで、ハウジングを削っていなければかなり真ん丸に近い状態になる程、大幅に蹴られます。上の例は可能な限りイメージサークルを広げる努力をした例でこれでもまだ暗角が多すぎますのでトリミングを掛けた例も掲載しています。写真がたくさんある場合は非常に面倒な作業です。しかし現代のソフトウェアには簡単にできる方法があります。このレンズの例ではトリミングの幅が決まっていますので、同じ調整を適用するだけで可能です。
Apple社のApertureで行う場合は、まずどれか基準になる写真を選んでトリミングします。
枠を動かして範囲を決めます。写真下のトリミングタブをクリックしても可能です。
左のトリミング欄が選択され白くなっている状態でメニューバーのメタデータから「調整をリフト」を押しますと、右の「リフトとスタンプ」というウィンドウが出ます。ここでも「トリミング」を選択(赤の丸で示してある)しておきます。その後、適用したい写真を全部選択して黄色の丸で示してあるボタンを押しますと適用処理が始まります。数が多いと少し時間がかかります。終わりましたら紫の丸で示してあるチェックが入ります。これは何らかの調整を加えると表示され、初期取り込み画像とは違うことを示すものです。Adobe社のLightroomの場合はヘルプを参照して下さい。
この処理の方法は一長一短で、意図によってはトリミングしない方が良い場合もあるし、トリミング範囲を変えたい時もあるので、元画像と比較しながら個別に見ていく必要があります。そのあたりを踏まえながら以下、作例を見ていくことにします。
この例では、手前の日陰と奥の明るい場所を比較できますが、明るいところはかなり苦手なようです。日陰に入ると色が深みを増します。そして独特の透明感があります。この特徴を活かさなければ本レンズを使う意味がないと言っても良いぐらい融通の利かないレンズです。爆濃型特有の守備範囲の狭さは本レンズについても言えます。
とにかく明るいところに出るとあまり魅力的ではありません。少ない光量の中で対象を色濃く描くレンズですから、この露出環境の下ではシャドーを深め過ぎてしまい、何が写っているのかもわかりにくくなってしまいます。
暗い部分で潰れたところもあるとはいえ、エリアが狭く重要な部分でもないので、まずまずというところですが、明るい光も結局は高コントラストで受けてしまうので、キラキラし過ぎてわずらわしい程です。中央の老人2名の衣服の質感の出し方は爆濃型特有のものがあります。
もちろん肉眼では決してこのように輝いては見えません。青年はこの遺跡の歴史を学んでおり書いてあるものを熟読しておられますが、これだけの輝きが実際に放たれておれば学習どころではありません。露出を下げ気味にしなければなりませんが、そうすると暗くなってしまいます。スナップではまるで使えないレンズです。
日当で白いものを強引に撮っていますが、これぐらい対象を絞ればまずまずです。しかし魅力はほとんどありません。
少し日陰に入るだけで、繊細な柔らかさが出てきます。これぐらいから、十分使っていけると思います。
これは日陰であればベストだったと思います。陽が当たるだけで特に周辺の収差が激しくなるのは気になります。太陽とはとことん相性が悪いようです。
間接的な日光の採取はどうでしょうか。これもいけません。お化けが出そうな松に囲まれていますが、日陰に入っている街灯の描写は良い感じです。
右側の白飛び部分はカットすべきですが、それと同時に気になるのは空です。昔の漫画の空みたいです。現像ミスという感じです。空というものは中身は暗ですが、こういう屁理屈は本レンズには通用しないようです。
これも光が当たっていますが、偶然に良かった方だと思います。水の中は暗いから? そうかもしれません。水と相性が良いようです。
暗い場所で少女が写生をしています。暗い? いえいえ、本当は明るいのです。ただ日陰に入って描いているだけです。この対称がデフォルメされてとても暗く感じるのです。まるで夕方から夜にかけての時間帯に見えますが、奥の方をみるとそうではないことがすぐにわかります。トーンとパステル調の色彩感が美しく感じられます。
北京では珍しくないタイプの門ですが、色彩感は中国にはないものです。レンズによって着色気味に振られた影響ですが、石は奇妙に青過ぎるし、昼間には見えないしで、夜に使ってくれと言わんばかりです。撮影者に自由を与えないレンズです。
さすがに映画用レンズらしい人物の浮かび上がらせ方です。太陽より月を愛するあまり、勝手に夜の帳を下ろしてしまった感すらある、けしからん代物ですが、この特徴ゆえ、f1.4にて限られた光量の下では驚くような描写を見せます。理解と譲歩が必要ながらこれもまた1つの個性と思います。