アンジェニュー AngénieuxのZ2ですが、ノンコートの方、アルパー Alpar 50mm f2.9も見つけたので、ライカ距離計連動に自作で改造し試しましたところ、やはりノンコート、魅力がありますね。ある日、あまり雪が降らない北京で珍しく少し積もったので、これを逃す手はないということで早速、什刹海に出向いて撮影して参りました。前稿同様、調整済みの画を掲載します。
まず散景からです。遠方は肉眼で確認しても霧で霞んでいますが、レンズの方も白膜が出るので、両方の特徴が混ざり合って絵画的な情景が得られています。繰り返しますが、調整済みでこの状態です。以下も同様です。もちろん改造部分の内部反射は完全に処理してあります。
霞具合は距離と関係ありません。明るさで表出度合いが変わってきます。
明るい部分の霞と暗い部分の明瞭さは、かなりの落差がありますので、混在する画はなるべく避ける必要があります。
遠景でもその特徴は同じで、この3枚の画はすべて下の方が暗くなっていて、上は明るく絞まりがありません。この対称が活かせるなら良いですが、それはなかなか難しいと思います。普通、屋外では日当と影が混在していますから構図選択が厳しくなってくるのは間違いありません。
暗い部分と明るい部分が混在し、明るい部分は天然と人工光の両方がある複雑な環境です。しかしこれはピントさえ合えば成功した構図だったかもしれません。
こちらも右が明るく霞み、左の室内は比較的明瞭です。この画は構図のバランスが悪いと思います。
極端な明暗の使い方としては、これは有りかもしれません。
室内の人工光は金平糖のような輝きがあります。
光量が少なければ、明瞭な画を得るのも可能ではあります。しかし描写に硬さはなく、独特の表現があります。
傘の下に光源が見受けられます。明瞭ですが、傘より上は霞んでいます。夜は結構はっきりと写りそうです。この二面性はポートレートで使ったらちょうど良いのではないかと思います。基本的には光を構図全体で一定に保ち、明るめにしてソフト・フォーカス的に使うのはどうでしょうか。なかなか良いような気がします。顔に暗い部分を作って陰影をつければより印象的な画になりそうな気がします。
アルパのリストの中でこのレンズが特殊な位置付けではないかというお話は前稿でいたしました。初期アルパのラインナップの中では、ポートレート用のレンズとしては同じアンジェニューの75,90mmが使えましたからそれでいいんじゃないかとは思いますが、エルノスター Ernostar型を採用したこれらのレンズはシャープです。アルパ4型以降はキノプティックを加えるなどの動きからポートレート用のレンズには一定の関心を払っていたと思われるので、軟調が欲しいという意識は始めからあったような気がします。それがどうもこれのような気がするのです。しかしソフト・フォーカスは(いつの間にかZ型をソフトと決めつけてますが)すべての写真家が求めるものではなく、一部の撮影家は撮影対象が決まっているゆえに必要とし、或いは興味本位で裕福な人が買う程度に留まると思います。ただでさえ高価で販売が伸びなかったアルパにおいて売り上げリストの最下位あたりを彷徨うことになれば、100本も売れなかったのではないかという気がします。それがアルパ4型以降に消えた原因であれば残念です。
このアンジェニュー アルパー或いはアレパー Z2 50mmを「50mm」ではなく「ソフト・フォーカス」と位置付ければアルパ4型の境目前後で50mm標準レンズは3種とすることで方針が統一されていたことになります。4種から1種減らしたわけではないことになります。初期型アルパでは、アンジェニュー S1が高級標準レンズでこれが4型以降にマクロ・スウィターに入れ替わり、シュナイダーとデルフトは残留ということになるだろうと思います。そしてアンジェニュー Z2はキノプティック100mmに入れ替わったのかもしれません。キノプティックはソフトフォーカスではありませんが、ポートレート用になると思います。こうしてどこのメーカーもソフトフォーカスはラインナップからすぐに消えていく傾向があるような気がします。(このアンジェニューのトリプレット型のレンズをソフトフォーカス、或いはポートレート用と見なす見解の補足として"3枚玉" は何の為にあるのだろうかもご覧下さい。)ベルチオのレンズでも1本だけトリプレット型を見ましたが、これもたいへん濃厚な霧に包まれていましたので、フランスレンズにおいては確立されていた設計論だったのかもしれません。
そこで前稿のコーティングタイプに戻ってみますと、コート有りの方がより明瞭な画が得られています。それでもこれを標準の50mmと見なすのは苦しいように思います。デルフト、シュナイダーとは比較できません。ノンコートのレンズは求心力が強い代わりに融通が利かない弱点もあります。撮影パターンが制限され、様々な撮影状況に対応しにくいところがあります。そこを改善する方向になったのが、コート有りのZ2であって、その脱皮を象徴するためにレンズの名称も変更した可能性があります。そうであれば、キノプティックに至るプロセスがZ2コート有りということになります。改良が進んで一段ずつ高められていった、その過程を見渡した後にノンコートのZ2を振り返っても、その強い個性には、ただ古いというだけで切り捨てられない、換えが効かないと思わせる程の十分な魅力があります。