次に淡調型のレンズの例として、ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 50mm f3.5を見て参ります。4群4枚、スピーディック Speedic型です。大种寺の鐘博物館です。
まず室内の撮影ですが、爆濃型のレンズ程、際立った特徴があるわけではありません。この図では色濃いように見えますが、爆濃型では線をもう一回上から引いたような表現になります。パースペクティブもこちらの方が50mmですから狭い筈なのですが、実際にはあまり変わらないような気もします。動画用のレンズなのでピントが掴みやすいようにこのように作ってあるのかもしれません。トーンは若干淡いものの、こちらの方がシャープです。
元々おそらく8mmムービー用のレンズなので(購入時にすでにCマウントに改造してあったのでCではないのは間違いありません。Dマウントだと思います)。本来使う感光範囲はもっと狭いですからほとんど破綻のない望遠レンズだったのだろうと思います。これはAPS-Hの範囲なのでさすがに周辺は多少の問題があるようですが、気にする程ではありません。
このレンズはライカ判換算で本来映画で使う場合、焦点距離200mm換算というところです。こういうレンズを映画で使うということは人物のアップを考えているのは想像に難くありません。それで木にだいぶん寄ってみました。これだけシャープに写るのは女性は嫌がりそうですが、女優さんだったら問題なかったのでしょうか。
屋外の公園内を撮影してみます。もはやアジアの雰囲気はありません。前後のボケ味が非常に上品です。それに微妙なフレアの出方が独特です。この表現は淡調型の土壇場です。このような構図はライカも得意ですが、モノクロでなければ真価は発揮しない違いがあります。
夜に撮影するとかなり様子が違ってきます。割と暗いところでも繊細に写ります。ライツのオールドレンズではこのようには写りません。暗い部分がもっと不明瞭になります。とはいえ、絵作りの違いの方が顕著です。
ライカM9にて南青山~千駄ヶ谷界隈での撮影です。二胡奏者のチェンミンさんに呼んでいただきました。
ライカに変わるとしっかり色は出ますね。
ライカM3にてアナログフィルムで撮影してみます。
メリハリがあって縁取りは明確ですが、どこか儚さも漂わせています。デジタルとは印象が違います。
露出が減るとこうなってデジタルの描写に近くなりますが、これだったらデジタルの方が魅力あるような気がします。光をほんのり捉える様はまさにフランスレンズですが、この秘密はベースにトリプレットを配していることなのかもしれません。一枚追加して表現を控えたところに見られる美は、フランス人にとって明るさを稼ぐ以上に価値があったのだろうと思います。
「毛首席万歳」あたりに焦点が合っています。奥の方へはボケていますが、ファットではありながら、なだらかで安定しています。
逆光のアブノーマルな環境では内に秘めた本質が現われたのか、回転するようなボケが見られます。
ソン・ベルチオのレンズが捉える人工光は、どれもほのかです。色彩もパステル調ですが、彩度はそれほど高くなくぬるい雰囲気です。このあたりにフランス独特のバランス感覚が感じられます。