アストロ・ベルリンの標準レンズのメジャーアイテムはおおまかにこの5種に絞られます。スピーディック型(パン・タッカー)、ダブルガウス型(ガウス・タッカー)、トリプレット型(アスタン)、テッサー型(アストラー)、ゾナー型(タホン)です。タッカー以外はほとんど市場に出ないので、メジャーアイテムというと本来2種とすべきかもしれませんが、アストロがライカマウントに提供したものが映画用のタッカーではなく、アスタンだったことを考えれば、タッカーをマストアイテムの位置に置いていたとしても重要性の点で他も劣るわけではないことがわかります。アスタンの素晴らしさを考えればアストロがこれをライカに提供したのは十分に納得できますが、ライカオリジナルレンズにトリプレット標準レンズがないことから、その他のメーカーもトリプレットを供給する傾向があったことを考えるとアスタンの提供についても同じような考えに基づいたものである可能性は高いと思います。アストロが製造したテッサー型のレンズであるアストラーは、テッサー型の重要性を考えればむしろアスタンより上位にあってしかるべきですが、アストロのリストの中ではそれほど目立った地位にありません。しかしトリプレット系の中でプロ映画用にはスピーディックを採用し、それ以外にはトリプレットとテッサーを採用していることから、それぞれの利点を考えて作られていたのは間違いないと思います。スピーディックとトリプレットで満足できるならテッサーを追加することはなかったと思うからです。
アストロ・ベルリン Astro Berlinのアストラー Astrarはテッサー型とそれにもう一枚追加した5枚構成のものもあります。そしてその前身と思われるアストラというレンズもあります。このアストラ Astra 50mm f2.8は入手できましたので、これを今から見ていきたいと思います。4枚構成のオーソドックスなテッサー型でした。
このレンズを昼間に使うのは諦めました。曇りか雨なら何とかなりますが、それにしても強い光源に弱すぎます。うちの近くにあるきらびやかな桂林料理の店ですが、滲みが出てまるで特殊フィルターを使ったようです。ある程度までは許せるものの、これはいささか度が強過ぎますので、昼間であればフレアから逃れるのがとても難しくなるのです。そこでAdobe Photoshopの「自動トーン補正」を1クリックして調整を加えます。
これだとかなりしっかりしていますが、根本的な問題は解決していません。しかしこれはモノクロフィルムで撮影するとかなり良さそうです。オールドライカレンズもカラーデジタルはパッとしないので、それと同類という感じがするのです。「桂林米粉」とありますが、これは桂林の有名な郷土料理です。釜ゆでうどんと理解すればだいたい近いというそういうものです。「老店」とは老舗という意味です。
暗い所と強い光源が混在した画です。これは「自動トーン補正」を使っておらず、使っても全く変化なしで、オリジナルのままです。光源はこれも星のように光っています。コーティングは入っていませんが、入れると改善されるかはわかりません。
さらに迫って、これも補正なしですが、光源のパワーで画面全体がやられるということはありません。それなら、昼間にフレア気味になるのはどうしてかということになりますが、光が多いと弱いのだろうと思います。かといって露出を下げられるというわけでもありません。古いレンズに多い現象です。
提灯は光源の強い対象かと言えば、そんなことはないと思います。しかしこうして寄り合うと全体で画面を白けさせます。調整後の作例を見た感じでは、やはりモノクロで撮ると凄そうなので、このレンズはこういうものと割り切ってデジタルは諦めるというのも1つの扱い方と思います。
ベルリンのレンズというのは、発色に共通の特徴がありますが、デジタルで撮影したアストロのレンズでは、艶やかな色彩を表現できるものがあれば、完全に荒れてしまうものと極端に2種類あるように思います。荒れるものが悪いかというとそうでもなく、ソフトで調整すると本来の味が出ます。さじ加減に拘りたい場合はむしろこの方が良いとも言えます。それでもアスタンの素晴らしさを考えるとアストラは劣ると思います。
ということで、一旦は結論が出たような感じになりましたが、どう考えても不自然なので問題を探ることにします。このレンズは前群の2枚が1つのハウジングに収められており、丸ごと回転して外すことができます。外した後、ネジが1条であることを確認しておきます。もし多条の場合は、前の所有者が外して違うところに嵌め直し、それが原因で狂っていることがあるからです。1条であればこの問題はありません。また収めて撮影しますが、全く何も変わっていません。また外して今度は奇麗にクリーニングします。ネジにはグリスが刺してあって古くなっているので真っ黒です。奇麗に拭って新しいグリスも刺さずにそのままはめ込みます。その後、撮影したものを以下に続けます。
これは何か意味があるのでしょうか。結果を見ると大いに意義があったようです。つまり細かいゴミがレンズの間隔を狂わせていたということです。それぐらいの狂いで大きな影響が出るでしょうか。それでビーリケがボシュロム時代に取得したテッサー型の設計で確認します(米特許 US1558073)。間隔を0.1mmぐらい狂わせても当たり前ですが大きな違いはありません。塵であれば間隔はもっと微小ですので、全く関係ないようです。この外した前群の後端は絞りに接近していますので、おそらく接着剤で鏡胴に嵌められたものを突き出しています。その部分は黒い塗料で覆ってあります。これがかなり剥がれています。これを塗り直すと問題が発生しなかったと思いますが、より接近したことで、パフォーマンスが安定したことは考えられます。これぐらいしか想定できませんが、古いレンズの場合は、こういう手入れが必要な事はあります。
北京の郊外には「村子」と呼ばれる集落が点在しており、徐々に取り壊されています。特に地下鉄の沿線は集中的に行われており、その後、近未来的なビルが建てられています。北京の土地は価格上昇が問題になっていますので、拡大することで供給を増やす考えもあると思います。昨日は取り壊し寸前の村子を見ることができ、村内放送で引っ越しを急ぐよう放送し続けていました。人は少なくなっており、ゴーストタウンになる一歩手前のような不思議な雰囲気でした。壊される前提なので、掃除をきちんとして出て行かないからです。撮影は憚られる感じでしたので撮っていませんが、そこからさらに新ビル群を抜けたところにある別の村子に行き、そこで少し撮影いたしました。
北京では市内からこういう郊外まで、バイクタクシーが結構走っています。しかし遠くに行く許可は出ていないようで、エリアが決まっています。価格は交渉で目安としては一般のタクシーの半額ぐらいです。4人は乗れますので、時には乗り合いでも良いかと言われることがあって、その場合は安くなります。話し好きの運転手が多いです。この映像を見る限り、完全にアストロ的描写を取り戻したと思います。
こういうカラーのペンキというのは売っているのでしょうか。混合していると思いますが、日本とは違う感じがあります。色が違うのではなく、塗料の種類が違うのかもしれません。鉄の門扉に塗装してあっても光沢がありません。このあたりは文化の違いを感じさせます。「福」の文字がひっくり返されたり、奥にも書いてあったりとあの手この手で幸福を呼び込む努力がなされています。熱望と言ってもよい、単に形式だけでやっているわけではない感じがあります。勘違いであれば、これは結婚式の時に作ったもので、以降もそのまま放置されているものだと思います。
瓦にも「福」とあります。こうして見ると、幸福というものは得難いものであると感じられます。当たり前であれば誰も気にはしないからです。人生には予期しえぬこともあるので、幸福と努力は関係ないこともあります。それが、福を呼び込むという祈願に表れているのかもしれません。
奇妙な設備です。住宅の壁から突き出しています。配水管のようなものがあります。冬は外が寒いのでその期間に食料を保管しておくためのものかもしれません。これは座って撮影したわけではありません。高さも不思議な感じがします。こういう日陰に入るとトーンが美しくなります。
恐らく車が入らないように鉄パイプを埋め込んでいます。手前のパイプに焦点を合わせましたので、奥の方にいる少年らがボケています。ボケは硬質です。アスタンとは個性が違いますが、近いものは感じられます。
焦点は手前の電線に合っています。しかし明瞭ではありません。かなりボヤッとしています。風で揺れていたからかもしれませんが、それだけではないような気がします。アストロの特徴として1つ指摘できるのは色収差の多さだと思います。ライカの1.6倍ぐらい多いと思います。それがこういう柔らかい表現を引き出している理由の1つだと思います。
住宅から突き出している煙突の煙を撮ってみます。まるで絵本に描かれている煙のようです。
地下鉄に乗り、望京というところまで戻ってきました。地下鉄付近はたくさんの売店や屋台が出ています。これはハルピンの冷麺です。冷麺ですから当地の朝鮮族のものだろうと推察されます。望京は韓国人がとても多いところでその数、20万と言われています。それでハルピン冷麺が出ているのだと思います。かつては望京も10年前ぐらいは村子だらけで、取り壊しを経て現在のようなビル群になっているようです。
北京韓国城というのもあります。食堂街です。ここに入って何か食べることにします。夜でも光が流れず、きちんと撮影できるようになりました。
このアストラとアスタンですが、どっちか片方あったら要らないと思います。違うといえば違いますが、それならアスタンの方が優れているような気がします。少々暗くはなりますが、それより描写の方が重要なので、そういう理由でアスタンがライカマウントにも供給されたのだろうと思います。アスタンとパン・タッカーであれば優劣は付けられませんが、パン・タッカーはイメージサークルが狭い弱点があるし、シネ用ということもあるので、アスタンの方が相応しいという判断があったものと思います。アストラも十分な魅力があることがわかったので、これ一本でも、アストロ・ベルリン独特のパステル調のメルヘンな味わいを楽しむには十分です。