ズミクロン Summicronには他にも望遠では90mmというのがあります。これもf2ですが望遠ですのでかなりの巨砲です。何に使うのでしょうか? そう思ってしまうぐらい使いどころがあまりありません。ポートレートぐらいしかないと思います。人物であればかなり良い感じに撮れそうです。ヘクトール Hektor 73mm f1.9やタンバール Thambar 90mm f2.2であれば意図が明確なのですが、ズミクロン Summicron 90mm f2は、もう少し汎用的な位置づけのように思います。90mmはエルマー Elmar 90mm f4もあり、これは軽いので外へ持ち出すにはちょうど良いものです。
その中間もあります。ライツ Leitz エルマリート Elmalit 90mm f2.8です。これこそ何に使うのでしょうか? 見たところ、アルミ胴で軽そうな外観ですが、中身は真鍮を使っており結構な重量感があります。これは外への持ち出し用とボケを使った人物撮影の両方への対応を考えたものと見ても良いのかもしれません。望遠と言っても90mmであればそんなに長いわけではなく、標準レンズより幾分長い程度です。標準レンズであれば、屋外でスナップを撮りますが、もし中望遠を使った場合はもっと対象を絞り込んで撮影したい場合に使うものと思います。そういう観点から撮影してみたいと思います。
ということで、撮影場所に選定したのは「古観象台」です。王朝時代に天文観測を行っていた場所です。
敷地内に角形の城壁のような塔が立っていて、その上に観測器が置いてあります。非常に精密な彫刻が施してある立派なものです。周囲は高層ビルに囲まれていますが、その中で観象台の存在は独特のものがあります。高いところにあるので、外からもはっきり見えます。
物体の捉え方は特に個性を主張する感じではないようで至って自然です。かといって平たい印象もなく、手堅く仕事しているという感じです。色彩は抑えていますが魅力はあります。
結構柔らかく良い感じに写っています。このボケはポートレートで有用かもしれません。
しかし太陽が普通に当たっているだけの一般的な環境では普通に写るだけです。もっともそれは、どのレンズも同じだとは思いますが。
天体観測機器はたくさんあるので、地上にも設置してあります。飾りではなく、本当に使っていたようで、しかも相当精度の高いもののようです。背景のボケは自然でかなり明瞭ですが、うるさくもなく、やはり後代の優秀なレンズという感じがします。
天文機器を無断使用?してのパースペクティブ検査です。1mだったと思いますが、近い所を撮っているので合焦する範囲はとても狭いです。前後のボケの特徴はほぼ同じのようです。
このカットのみf5.6と2段絞りました。太陽の光を受けて一点を指す計測器ですが、開放では何が写っているのかわからないのではないかという恐れからです。背後のボケはもしかすると堅く絞まっているかもしれません。
アップで撮影すると、物体の陰影が美しく捉えられます。
距離を空けるとパースペクティブが広がります。デジタルなので実際に確認しながら絞りを調整して作画できます。
ポートレート的なものを2つ撮ってみました。距離が違い、下の方が近いですが、物体の大きさはどちらも実際の人間と変わりません。上は少し距離を離していますが、もう少し柔らかい描写を求めていく場合はピントを少し外せば良いと思います。前に置くのが良さそうです。
こういうレンズで遠距離の撮影は似つかわしくありませんが、合焦点は手前に持ってきていますし、これぐらいだったらいいでしょう。なかなか雰囲気豊かに仕上がりました。
思うにこのレンズの位置づけは、まずエルマーが旅行など持ち出し用で、せっかくの中望遠ではあるけれどもボケが足らないので、もう少し明るいレンズが欲しいということになった時に2種用意した内の1つだろうと思います。つまりズミクロンとこのエルマリートですが、レンズ構成が違います。ズミクロンはダブルガウスですが、エルマリートはトリプレット(ヘクトール)系です。好みでどちらか選んで欲しいということではないでしょうか。f2.8であればボケの深さでf2に劣るかもしれませんが、エルマリートの被写界深度の狭さはすでに十分です。描写の好みだけで選択して良いように思います。