無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業




「良いレンズ」について

正しいレンズの購入方法 - 2022.10.01


 古いレンズをたくさん置いている店などに行きますと「レンズの描写がわからない」というおじさんが結構いらっしゃいます。店員さんとの会話で言っているので、こちらは横で聞くだけです。関東では何も言いませんが、関西では見知らぬ人同士でも会話は可能なのでこう答えることがあります。「悪いと思わなければ、どのレンズでも良いのではありませんか?」。そうするとこう言われます。「私は世間で名玉と言われているものがどうしてなのかわからないのです」「高価ですし、買う必要はないでしょう?」「私は自分がわからないということに苦しんでいるのです」。

アンジェニュー  Angénieux アレパー Alepar 50mm f2.9 赤い旗
 レンズの評価は人それぞれとも思えますが、実際には評価は決まっています。良いものは誰もが良いと評価します。ですが、難しいものもあります。有名なものではキノ・プラズマートです。晩年のパウル・ルドルフは自身のこの設計を非常に高く評価し、ライカの最初のレンズとして推薦しました。これには失敗しましたが、他のメーカーのカメラには採用された例もあります。ライツのマックス・ベレクが彼とこのレンズの設計から学び、オールド・ライカの諸レンズを作りました。べレクは設計に関する著作で、キノ・プラズマートについてかなり熱心に説明しています。ですがこの玉は、近年までそれほど評価されておらず、中国が経済発展、彼らが高く評価したので再認識された玉です。それでもこの稀代の癖玉を使いこなせる人はそれほどいないでしょう。ということは、とても悪い玉でもあります。ルドルフとベレクは撮影させても腕が良かったのでしょう。今なお、世界の常識ある紳士諸氏にとって、悪玉であろうと思います。

アンジェニュー  Angénieux アレパー Alepar 50mm f2.9 白い提灯
 そこで、先の質問「レンズの描写がわからない」なんとか解答を見出そうとして、キノ・プラズマートの特徴を紐解こうと様々な解説がなされてきました。よくある説明としては、ぐるぐるボケが出るというものです。画面全体に回転する輪のような収差が出るということです。これが素晴らしいと言う人もいます。もちろんその見解に反対はしませんが、一般的にはそういう収差は出ないように使うものではないかと思います。それでも出てしまうことがあり、商業映画でも稀に見られることがあります。出てしまったものは良いけど、出したものは良くありませんね、不思議なもので。着物の裏地だったらいいけど、表には使えない、そんな感じのものです。秘めていて出てしまうこともあるなら、設計で克服し消してしまったら良いのではないでしょうか。使わないのだから。だが、それではあの描写にはなりません。儚く消えていくような、あの感じは出ないのです。これに開眼すると、プラズマートばかりで撮影したくなります。それでルドルフがライカに採用させたかったのでしょう。ですが技術が必要、もっとわかりやすいものがエルマー、良かったのではないでしょうか。ルドルフはライツに対し、キノ・テッサーも送り込んでいたらしく、これが装着されたライカ・プロトタイプが見つかっているようです。これに手を加えたものがエルマーになった可能性は高いと思います。

アンジェニュー  Angénieux アレパー Alepar 50mm f2.9 黄色の提灯
 わからないものはしょうがない、だけど許せない、この場合はどうしたらいいのでしょうか。絵画や音楽などをやって素養を身につけるしかないでしょう。時間がかかるので、それまではどうしたらいいでしょうか。ツァイスはどうですか? いや、現代のレンズで悪いものは普通、そうないですよ。何でも良いのではないでしょうか。レンズは歴史があり、良いものも多いです。その中でメーカーが純正やサードパーティがシリーズでラインナップしているものは、当然適当なものではありません。十分考えて作られています。今時、携帯のレンズですら、もうこれで充分かな?と思うぐらいです。これで幸せになれるのに、何でボケ玉ですか? 強い意志を感じるのなら手を出す価値はあるのでしょう。何もないのなら不要ではないかと思います。

コラム

Creative Commons License
 Since 2012 写真レンズの復刻「無一居」 is licensed under a Creative Commons 表示 4.0 日本 License.