ライカのようなレンジファインダーカメラにとって、接写と望遠は使いにくいものです。ビゾフレックスというパーツを足して一眼レフのように使うか、それだとかなり大掛かりなので、接写の場合は各種メガネを付けてファインダーの倍率を変えるなどして対応することもあります。一眼レフを使うのが普通です。
もしDRズミクロンをR-D1に付けていたら接写はファインダーが対応しませんが、レンズの方は接写可能です。ということは、目測で撮影しようと思えばできるということです。デジタルなので数度撮り直せば撮影できます。器材を余り持ち歩きたくないこともあるし、あまり接写を使う機会がないのであれば、この方法で僅かの撮影を済ませてしまうことに、ほとんど問題を感じないこともあるぐらいです。(注:ライカM8,M9,エプソンR-D1はいずれもDRズミクロンに対応していません。実際には使って問題ありませんが、メーカーが推奨していないので扱いには注意を払って下さい。)
レンジファインダーカメラは最短でも70cmまでしか測距できません。しかし一眼レフ用レンズのマウントを改造して使う場合はレンズ自体がもっと近くに寄れるものもあります。そういう場合でも目測撮影はできます。本稿ではこの方法で、幾つかのマクロレンズを撮影していきたいと思います。
まず最初に世界で最初に作られたマクロレンズと言われるミュンヘン・キルフィット Kilfitt社製マクロ・キラー Macro-Kilarから40mm f3.5Eを使ってみたいと思います。
マクロ・キラー40mmにはマウントが数種あり、M42、アルパ、エキザクタ、アリフレックス、Cマウントなどがあります。一部はネジを外してマウントが交換できるようになっています。タイプは以下の3種です。
・A - 映画用。他の2タイプよりかなり小型です。3色補正アポクロマート Apochromat仕様であることを示すため、3色のドットがレンズ前面に入っています。
・D - スチール用。倍率1:1。最短撮影距離0.17m。ダブルヘリコイドで高倍率を得ています。
・E - スチール用。倍率1:2。最短撮影距離は数種あるようで、一番短いもので0.1mからさらに回る。(それでもせいぜい0.09m)シングルヘリコイド。
マクロ・キラーには他に90mmもありますが、こちらはビゾ用に改造できますのでしっかりファインダーを見て撮影が可能です。描写の傾向が異なり、40mmは柔和で90mmは峻烈です。
ここで使うマクロキラー40mm f3.5Eは、中国でマウントを付けてもらいM39距離計連動無の工作をしてもらっています。フランジバックを合わせるために筒を足す比較的簡単な工作でしたが問題がありました。このレンズはマクロなので、0.1m,0.11m...と目盛りが打ってあります。それで0.3mの時にレンズの前面から対象までが0.3mになるように作ってしまったようです。そうすると5mあたりに合わせると無限が出ます。0.3mに合わせると0.4m付近が撮れてしまいます。最短撮影距離は本来0.1mですが、ここは少し長くなりますがあまり変わりません。とりあえず差し当たっては影響ないので撮影を開始します。まずは古いレンズを撮影してみたいと思います。
これは最短ギリギリで撮ったものです。0.1mぐらいです。開放F3.5での撮影なので被写界深度がすごく狭くなっています。中央部分がぼけていますが、両端の文字は鮮明です。これぐらい撮れれば、マクロレンズとして実用十分です。
次は0.4m相当(目盛りは0.3m)で撮影後トリミングしています。十分、物体の撮影には使えることが確認できました。しかしそれだけでは不十分です。ボケ味も確認してみましょう。
何度か撮り直す過程でピンが少し奥に行き過ぎた画です。アイロン台の先の方にピントが合っています。ボケは率直で美しく、対象が浮かび上がるように撮れています。
撮影距離は0.4mぐらいですが、合焦部とボケの境が非常にはっきりしていることがわかります。
合焦部に近いボケは奇麗ですが、距離が離れると若干汚れます。薔薇のディテールの浮かび上がり方は見事です。
壁のような平面ではボケの境界が明確に出ますのであまり良くありませんが、このような複雑な構成物の場合は持ち味が活かされます。絞りを開けるともっと深度が稼げますから、そのあたりで作画意図に沿ったものに仕上げることができます。
あまり良くないということだった平面の図をもう1つ撮りましたが、カメラを接地せず幾らか浮かしましたのでボケがなだらかになりました。細かい花びらが明瞭に浮いているこの特質はマクロレンズにとってとても重要かもしれません。
今度は夜間も撮ってみたいと思います。南鑼鼓巷界隈です。
視線が右に向かっていますので、その方向をぼかしてみました。
人工光を柔らかく捉える傾向です。マクロはライティングがあるので強い光で硬くならないようにしているのかもしれません。
提灯は内部に強い光源を持っています。間に1枚入っているとはいえ、これだけ近いと写真にとって扱いやすい対象ではありません。正面に持っていかず、角度を外したらうまくいきました。墨の具合とボケが相まって良い感じです。
ブラスの浮き出た文字に光が当たると金属的な質感になり、確かにそれは表現されていますが、しかしそれよりもディテールの優しさを大事にしているようにみえます。ピントは右上方面にずれてしまっていますが、本来は「唐」に合わせるべきでしょう。
これは0.7mだったので一般にはマクロ撮影と言わないかもしれません。距離計が使えるなら測距できる範囲です。
白と黒の対比です。明確なコントラストでフォントの特徴を表現したものですが、その通りにコントラストのメリハリをはっきり感じさせつつ、柔らかみも失っていません。