中国でかつて作られていたライカ・コピーに「上海58-II」というのがあります。バルナックライカのコピーには多くの場合、レンズも外観がそっくりなエルマー50mm f3.5のコピー「上海」が付けられていました。中国のライカコピーには他に「紅旗」というのもあります。こちらはたいへんレアで入手は非常に困難です。M型のコピーで、レンズの方もズミクロンのコピーが付いているようです。
上海58-IIはコレクターアイテムです。しかしレンズの方はコレクターでなくても気になります。ある時、中国のオークションを見ていましたら上海のレンズのみというのが安値で出品されていましたので早速入手してみました(中国のオークションはほとんど即決なのでオークション形式になっていません。業者がほとんどなので簡易ショッピングモールと言った方がいいかもしれません)。レンズだけというと、要するにボディから外されたレンズということになりますので、後玉の状態が気になります。やはりかなりひどかったので、山崎光学に相談しましたが「玉が1.5cm以内だから研磨できない」ということで妥協せざるを得ませんでした。それでも前玉は研磨できたので、かなり状態は改善された上、バックフォーカスも調整していただいてR-D1にしっかり使えるようになりました。(注:上海はライカで使うと無限が出ませんので注意が必要です)。
上海 50mm f3.5は一般に、水墨画のような写りと形容されています。どうして中国で作ったら中国の描写になるのか不思議なことです。独特の滲みを表現するのは簡単にできるものではありません。まだシャープなレンズを作る方が分かり易くて簡単だろうと思います。それゆえ、狙う表現によっては貴重?なレンズと言えなくもありません。そこでしっかり使いこなし方を考えてから撮影してみたいと思います。
中国の水彩画と言えば、山水画です。山や川を描きます。北京市内は全体が平地で山なんてありません。川はありますが人工の堀です。しょうがないので自宅近くの旧北京城の堀をまずは撮ってみます。まるでソフトフィルターを使ったような画像です。コーティングが入ってはいますが、逆光には非常に弱いようです。取り扱いには、かなりの困難が予想されるということがわかったところでスタートです。
积水潭から南に下りますと新街口に入ります。知り合いの韓軍の楽器店へ行きます。店員兼琵琶老師の小姐が琵琶の練習をしています。レンズがソフトっぽい描写なのですから、これを逃す手はありません。早速撮ってみますと柔らかい独特の描写です。エルマーに似ているのは外観とレンズ構成だけのようです。全くの別物という感じがいたします。尚、撮影は危険を伴う作業で、こういうこともやってきますので注意が必要です。
新街口の南にある護国寺小吃街に行きます。衣服の質感の出方が良さそうということで、光の廻り具合に注意を払いつつ1枚押さえます。水墨画の様と言われるとこの被写体ではどうかなとは思いますが、髪を見ると確かにそういう雰囲気はあります。
柔らかい描写というのは皴を目立たなくします。水墨画というと仙人と思っていたので、ちょうど良い対象です。
護国寺小吃街は北京有数の有名な食堂街です。街の保全に力を入れており、古い景観が保たれています。北京の風俗画があちこちにあって趣があります。撮ってみますと絵画らしい雰囲気が引き立ちます。背景のボケ具合も独特の雰囲気があります。
夜の光を撮るとどんな感じか、积水潭の北側にある小西天へ行ってみます。毎晩、西直門方面に至るまでの広い範囲で賑わっています。祭りのように明るく、人工光がたくさんあります。いろんな照明がありますので撮ってみますと、東洋的な雰囲気を捉えることができました。
上海はボケの激しいレンズではありますが、それにしてもこの画はボケ過ぎではないかと思えます。光が強いとボケが強くなる傾向です。強い光は苦手です。
様々な照明が複雑に絡み合うこのような環境ではシャープな繊細さと消えていきそうなボケが同居し、確かに「水彩画のよう」と言われるのも納得できます。
特定の照明が強くなって支配的になるとボケが増します。強い光は天然、人工に関わりなく、周囲を損ないます。この味わいがこのレンズの持ち味のようです。
もっと近い対象を撮ってみます。やはり強い光を受けると簡単に潰されています。しかしそうでない部分は割とシャープに写ります。もしポートレートでこのレンズを使うのであれば、照明の強さによって画を操作しやすそうです。
ホラー映画の広告です。実物より怖く写るかと思いきや、そんなこともありませんでした。昔の古い広告に見えてしまいます。
"絵画的"ということですから静物は撮らないといけません。光の強弱によるボケ具合の変化も確認できます。