次にライツ Leitz ヘクトール Hektor 28mm f6.3をご覧いただきます。作例は漢民族以外の居住地からの取材が続いていますが次はどこにしましょうか? 故宮に行きましょう。ちょうど100年前まで蒙古族の王朝の所在地だったところです。
ノンコートのレンズはライカ以外のものもそうですが、赤優勢の傾向があります。紫禁城の壁は赤を基調としていますので、コーティング有りのレンズよりも見栄えが良いことがあります。
赤から始まりましたので、続けて赤い他の場所もご覧いただきます。赤が引き立つのは白い部分もあるからで、グレーの壁や地面、白い衣服などパステル調の柔らかい発色が赤の鮮烈さを引立てています。現物との乖離はありますが、現実よりも美しく撮れることもあるのがノンコートレンズです。
白やグレーの出方についてもう少し見てみます。白は汚れが目立ちます。中国は人口が多いし、その上外国からも訪問者が絶えない故宮博物院のような場所は常に清掃員が巡回しているとは言え、常に全体が清潔とは限りません。人の量を考えると驚異的な奇麗さですが、それでも浦安程のクォリティはありません。そこを極めて優秀なレンズで撮影するようなことがあれば、観賞に堪えない写真になってしまうことがあります。ヘクトール28mmも実用上十分に優秀なレンズではありますが、弱点までも暴き出すようなところはありません。いろんなものを優しく包み込む包容力に満ちています。
シュルレアリズム全盛期のレンズですから、こういう画も合うのかもしれません。右の紳士は、子供用のバギーを携えた、大陸における模範的なおじいちゃんです。ここで使ったのは28mm広角であって(R-D1での撮影故、実質35mmぐらい)自分が写っているとは思っていなかったかもしれません。広角は広い範囲が写り過ぎるので散漫な画になりやすくなります。このように近い距離ならまとめやすいですが、少し距離が空くと気をつける必要があります。
遠景と至近距離の人物が写った構図です。ヘクトール28mmはf6.3と真っ暗なレンズです。確かに夜や室内では難しくなります。しかし屋外で開放で撮れるという見方をすれば弱点にはなりません。空を見ると天気が悪そうですが、北京の空は年中たいていこの色ですから、天気と関係がありません。開放で撮らなければ、このタイプのフレアは出ないかもしれません。もしこの図をヘクトール50mmで撮ったなら少年の輪郭はツルツル感を伴っていたと想像できます。貼り合わせを1枚減らしただけでずいぶん違うようです。
遠景を撮ってみます。建物が巨大ですが、広角なので大きく写せます。もし空が青ければ、雰囲気も違ったものになりそうです。これは蒙古から飛来した砂ですので、明清代より変わらない風景なのかもしれません。黄砂の多い4月の撮影でしたので、尚一層暗い空ですが、しかし北京としてはとても快晴の一日ですから、太陽光の強さもそれなりにあってフレアが目立ちます。
今日ではフレアは有害とされており、確かにそうですが、ベレクは必ずしもそうは思っていなかったようです。対象だけでなく、光と影をも捕らえようとすれば、こういうレンズが出来上がるのかもしれません。とはいえ、さじ加減は重要です。ライカオールドレンズで雨の日や夕方に撮影すると美しいのは、光の量の調和が保たれているからです。