無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業




ヴィンテージレンズの画角についての論考

焦点距離の選択について - 2012.07.10


 ズームレンズ自体はだいぶん昔からあったのですが、実際に使用できるような水準のもので一般の人でも買えるようになったのは日本製が出てきた頃ではないでしょうか。それまでは基本的に単焦点ばかりでした。最初は大判からで、シャッタースピードが遅いので撮影対象が限られ、写真館での肖像なら望遠も使うし、屋外なら建築風景なので広角が主だったと思われます。昔のカタログを見ると、標準レンズという概念はなかったように見えます。しかし映画では焦点距離50mmが標準との認識でした。大判が重すぎると感じたオスカー・バルナックが映画用フィルムを転用したライカを開発しました。映画でフィルムを縦に使っていたところを横にしたため、フィルム面積が変わりました。それでも標準は50mmとし、当初はレンズ交換無しでカメラ本体に固定されていました。

 数学的な意味での標準画角は、映画では焦点距離35mm、ライカ判では43mmぐらいでした。ですから50mmは少し望遠になります。どうしてこのように決まっているのでしょうか。おそらく最大の理由は、焦点距離50mm以下になると光学設計が難しくなり、昔の技術では特に、無理が強くなるからと思われます。現代では43mmは簡単に作れると思います。そういう画角のレンズもあります。それでも主流になっていません。実際に使ってみると、このど真ん中というのが感覚的に理由のない違和感を感じさせます。ちょっとズレている方が良いです。不思議なことです。映画の標準50mmが安定しているのであれば、ライカ判では60mmぐらいの方が収まりの良い画になる傾向があります。ですが、ライカは静止画で風景も撮るので同じ50mmにしたのでしょう。

焦点距離の違いを示す図
 上の古い図をご覧いただきますと、左にフィルムのような図があります。これは映画用の16mmフィルムです。右にレンズが全部で6本あります。下から2つ目が「1"」と表記されていますが、これは1インチという意味で25mmです。16mm映画ではこれを以て標準レンズとしていました。35mm映画規格の半分です。望遠レンズは基本的に1インチずつ足していく形で作られていました。

 ライカの標準レンズを「2インチ」としなかったのは意味深長です。おそらくですが、1なら基準になりますが2では誤解を与えかねないからかもしれません。ライカ判で1インチは当時は設計できませんでした。届いたのは28mmでこれなら1インチに近かったのですが。望遠の方は、73mmはほぼ3インチ、90mmは4インチより少し短いが、105mmもあった、5と6インチの中間の135mmというものが作られていきました。レンジファインダーで135mmは限界です。

 ライカの望遠レンズ、そして広角レンズについて、そしてその構成ラインナップについては、マックス・ベレク設計のレンズを整理するにありますが、この焦点距離の布石は後々までスタンダードとされました。唯一異なるのは、90mmが変更され、多くのメーカーで採用されたのは85mmになったことぐらいでした。ですが、これはどちらもほぼ同じで距離計連動のカムに合わせるネジのピッチが9mmだったら焦点距離85~90mm(50mmは3mm、73mmは6mm、135mmは24mm繰り出し)、光学設計の方をこれに合わせていたのではないかと思います。

 ここで映画用に戻ってみてみます。インチ表記をやめてmmに換算しますと標準は25mm、そして50,75,100,150mmとこのように並んでいます。これら映画用のレンズのマウントを改造するなりして35mm判のカメラで使いますと標準としては50mmを選択することになります。望遠は75,100mmというような感じになります。25mmは広角になります。しかし元々小さなフィルムサイズのためのレンズですから、暗角は出やすくなります。標準、望遠は暗角が出にくいので好んで改造して使われています。これら映画用のレンズの中から2~4インチあたりのものを探して使ってみると一般の写真用のレンズとは違った描写を楽しむことができます。

 デジカメはセンターフォーマットがいろいろあるので、標準レンズが50mmとは限りません(メーカーが標準焦点距離を明示しています)。ユーザー側の撮影用途が様々なので、最初から標準レンズを選択せねばならないことはないと思います。そこで「よくわからないからズーム」という選択は小店からはお勧めしません。まずできれば標準レンズから始めて欲しいと思います。構図の枠の大きさが固定なので撮影しやすく、こういう単焦点の方がむしろ初心者向きです。望遠はどちらかというと特殊撮影とも言える分野で、特化した用途がないと使用しません。標準よりもう少し広い画角が欲しいという場合ならあり得ます。室内撮影は広角の方が良いです。ですが広角レンズは高価なのでズームの方が圧倒的に安いです。しかし高価なのは理由があり、そこを安価な、しかもズームというのは品質が格段に落ちることは理解していなければなりません。そして単焦点広角(標準も然り)はf値の暗いもので十分です。その方が描写も良いです。いわゆる高性能なものは、あの手この手で限界突破しているので、自然からは離れてしまい飽きやすくなります。産業的な用途なら問題になりません。

 現代のレンズはほとんど例外なく優秀なので、お手持ちのカメラに純正レンズがあるならそれ、或いはサードパーティのレンズでも性能に対して何の問題もない筈です。ですから、それにも関わらず古いレンズを探すというのは、その時点で特殊ということになります。しかも古いレンズは高価な場合が多いので、そういうものをわざわざ探して買うというのは理解し難いと考える人は多くいます。そう思われる方々は現代レンズを評価できるということなので、それは幸せなことです。幸せになれない人が古いレンズを探します。それらの人々はガラスの塊に人間味(「欠点」とも見なされることがある)を訴求します。味わいがあれば何でも良いわけではないので、個人によって好みも違いますし難しいところです。

 しかし一般にどんなメーカーのものでもはっきり言える事実としては「50mm以下の焦点距離のレンズは味わいがないことが多い」ということです。実際には古い広角レンズには癖が強いものが多いのですが、素晴らしい描写と思えるものはだいたい50mm以上であるとされています。現代のデジタルカメラで広角を使うのは暗角が出やすいという事情はありますが、もし暗角が出ても50mmの範囲にトリミングすれば、50mmレンズと同じことになりますし、もし安く買えるならその方が良いかもしれません。しかしこれが同じにならないのです。50mmレンズの描写とは違うものです。これが中古市場で50mmに達した途端に価格が急騰するレンズが多い理由です。75mmになるとさらに一段上がる銘柄もあります。光学は自然界の法則で成り立っていますが、焦点距離60~90mmぐらいが理想的で良いものが多いです。

 この事実は多くのオールドレンズマニアがフルサイズセンサーに拘る最大の理由です。センサーがフルサイズなら50mmレンズは標準レンズとして使用できますが、センサーが小さいなら望遠になってしまいます。現代レンズを使うならセンサーが小さくても構わないかもしれませんが、古いレンズを使うなら大きなセンサーを求めることは切実な問題なのです。

 レンズの構成は描写に大きな影響があるので、オールドレンズ愛好家はレンズ構成に注意を向けます。種類が豊富なのは50mmです。豊富であれば良いということは必ずしもないですが、試された例が50mmに多い傾向です。それは50mmがレンズ設計の上で無理がない限界の下限だからだと思います。

 写真機はハッセルブラッドなどの6x6以外は長方形に画像を写し取ります。それでカメラを立ててフィルム(或いはセンサー)を縦に使って撮影することも出来ます。この時、腕の状態が不安定になってブレやすくなります。ライカのようなレンジファインダーで撮影する場合は普通、一眼レフとは逆に持ちます。

縦の撮影方法。一般的な向き
 このようにシャッターボタンを下にして右手でしっかり握り、脇を絞めます。一眼レフは逆で、上にシャッターボタンが来ます。いずれの場合も下の手でホールドします。ライカは小さいので握るようにボタンを押します。

縦の撮影方法。左利きの場合
 左利きの場合は逆に握ることを好む人がいますが、いずれにしてもボタンは右手で押します。そしてこの場合もライカをしっかり握る必要があって、下の腕はしっかり脇を締めます。手のひらでライカを覆うように撮影します。通常の撮影の向きでは両脇を絞めますので安定しますが、縦の場合は不安定なのでより力を込める必要があります。

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