ゲルツ Goerz社のテナックス Tenaxというコンパクトカメラがあります。1920年頃のものですから100年以上前です。これにゲルツがラインナップしていたレンズ群が取り付けられ、どのレンズが付いてるかによってモデルと価格が差別化されていました。全て75mmでした。ダゴールもありました。しかし、どうしたものか?
分解して絞り以外は抜き取って軽量化しました。ダイヤルは上だけ活きています。f6.8だと絞りも要らない感はあるのですが、簡単に活かせたので残しました。鏡胴は四角の全体と完全に一体です。ですからこのまま使うしかありません。後ろにヘリコイドを接着せねばなりません。写真は置いただけです。フードも接着することにしました。ファインダーがケラれないようにと思って少し傾けましたがあまり効果的ではありませんでした。まっすぐの方が良かったかもしれません。別付けのファインダーを使うしかなさそうです。
19世紀までのエミール・フォン・フーフによる原典と、後任のワルター・ショッケの改良は、収差図を見る限りでは異なるものであるのはわかります。実際のところどうなのか。
色収差が消してあるということは白がはっきり出るということです。これが良いかどうかはまた別問題、フランスのレンズで多いように思います。ドイツ物ではあまり多くないような。エジプト大使館
白がはっきりすると光が仄かに灯った感じになります。これも良し悪しでしょう、デジタル時代では。Bistro Avanti
白がはっきり出過ぎると霞がかかったようになる傾向です。アナログでは出ないと思われます。Actress
夜になって白の割合が減ると安定した発色でしっかりしてきます。
色収差が減ると赤の発色が明確なのはライカだからだと思われます。他社のアルゴリズムでは違った感じになりそうです。中国菜館 敦煌
色彩ばかりに注目して申し訳ありませんが、デジタルなので後からコントラストを上げれば良いと思います。ですが、これは夜間使用と割り切りたい。ミラノ食堂 高田馬場店
これは後から調整などは何もしていません。少し日陰に入ると安定した写りです。
代官山あたりは夕焼けの綺麗なところですが、これはちょっと特殊な映像かもしれません。西郷山公園
近いものを撮影すると激しい二線ボケが顕在化します。これは収差図にも現れています。少し絞るだけで消えますが、美しいボケなので善用したいところです。
陽が落ちてくると、暗くなるに伴い、重さを感じさせますが、それをそのまま捉えたような描写です。ガラスの厚みと、距離を離した時に二線ボケが僅かとなり、その効果が特徴としてよく出ています。代官山 蔦屋書店
夜の白は、優しげです。
夜に見る赤と黄色。鮮やかに出ます。
夜でも光源が強いと難しくなります。コーティングがないのでやむを得ません。これもまた表現としては使い用がありそうです。
光そのものは白に近いですが、夜になると柔らかく捉えられます。
基本的に遠景は安定しています。
これにて3種のダゴールを確認致しました。いずれも基本的なレンズ構成は上掲の通りで、描写の方もコアの部分では変わりありません。そこから性能を高めてゆく努力がなされ、最終的にゴールデン・ダゴールに行き着きます。プロの広告写真にも使われる高解像度のものですが、単に硬くなるだけに留まらないのはガラスの厚みを使う独特の設計にありそうです。暗い玉になってしまっても利点はそれ以上ということです。
無収差と言っても考え方は様々で、工業的な意味での無収差というのは初期のダゴールのようなもので、特性は全て棒立ち、面白くない玉の代表のような特性図を出していますが、しかし消せなかったと思われる色収差は残っており、ガラスの厚みからくる天然のブレもあって、結局は品佳い画となり、現代の基準からも十分魅力あるものとなっています。当時でも評価はされていた筈で、それがf4.8も作ったことに表れています。ブレをもっと引き出してみようという方向です。
20世紀に入ってからは、ガラスの改良も一段と進み、徹底して色収差を消すことに成功しています。球面のガラスの無収差を定義づけるのは、まっすぐではなくナチュラルなカーブであるという考え方もあり、新たな研究も導入され、さらなる性能感を感じさせるものになっています。
個人的な印象では、f4.8は肖像、f7.7は昼間、f6.8は夜間というところです。