古典的ドイツ光学の源流地を辿る7にて、ゲルツの名玉ダゴールを撮影いたしましたが、かなり特殊なモデルであったことが明らかになりましたので、できれば普通のモデルを見ておきたいということで、最初期のこのレンズを試すことになりました。シリアルがNr.37551ですから、1895年ぐらいのものです。19世紀末のものです。フォン・フーフが最初にダゴールの特許を申請したのが1892.12.19で、販売はそれからしばらくしてなので、これがオリジナルになる筈です。最初期のダゴールです。120mmですから、大判での広角レンズです。f7.7です。
筆のタッチを写真で表現するダゴールに概要を掲載していますが、その資料をここにも転記します。掲載の写真がここで撮影しました現物です。その上にカタログがあります。No.0ですから120mm、当時の米国価格で$40だったようです。
120mm、古いものなのでこの正確性はどれほどのものかわかりませんし、この焦点距離では距離計連動はヘリコイドの入手が無理なのでf4.8と同じくヴィゾを使うことにします。無限から50cmぐらいまで寄れます。
描写はf4.8と同様の傾向です。ですが元は大判での使用を想定して作られたものなので、この画では中央を拡大して観察していることになります。大きなイメージサークルで見ると印象は変わってくるかもしれません。それでも詳細の確認となるこの画を見る限りやはりダゴールはダゴールです。
溶けるというほど柔らかくはなく適度な硬さもある不思議なボケ味ということで、この構図ではどうかと確認いたしました。風で揺れている葉を昼間とはいえf7.7で撮影するのは面倒です。本来のボケ味に動きまで加わり不明瞭さを増したのは良くなかったと思いますが、特徴は出ました。動くものは良くありません。当然でしょうね。
暖簾の中心線にフォーカスされており、その前後は少しボケています。後ろのボケは率直ですが前は使いにくそうな、この点は他の多くのレンズと変わりありません。麺屋
f7.7ともなりますと少し日陰に入っただけで手持ちではかなり撮りにくくなります。これぐらい明るくないとはっきり撮影するのは難しくなります。Salon de thé
建物の2階ぐらいの高さにあるもので距離は6,7mぐらいです。明るそうですが実際には日陰で、日中でもf7.7ともなると、しかも上ですから、なかなかブレずに撮るのは至難で、何回やり直してもダメだったので諦めました。三脚必須かもしれません。今福
ではこれはどうでしょう。実は明るいのです。自動露出が光を発するものに調整されているので暗く写っただけです。全体としてガラスの厚みがある設計独特の人工光の捉え方です。繊細には映るのだが角がない、そういう感じの捉え方です。この辺りが当時人気があった所以なのだろうと思います。N's Hair、パッション ドゥ ローズ、小滝野
では、ガラスを一枚挟むとどうでしょう。日照時間の短い北ドイツにおいて、こういう光が優しく写るというのは特に重要だった筈です。太陽より人工光の方が存在感があるからです。北欧も含め、この地域の人工光のイメージするところはクリスマスです。しかしこの店舗はバスク地方なので関係ありません。それでも北欧風の感じがあります。Maison d'Ahni Shirokane
ガラス・コーティングが入っていませんが、それでも色彩はしっかりと写ります。それでも時に薄まることがあります。デジタルのアルゴリズムとの相性でしょう。これをもう少し確認します。愛犬の宿らるご
これらも色彩が肉眼とは少し変わっています。パステル調の傾向です。これらは構図全体が暗いところを撮っているので全面に特徴が出ていますが、そうでないものもあります。例えば、上の例ではドラム缶は明るいところにあるので現物通りの色彩です。シャドーに入ったものはパステル調に変える傾向です。そして光量が多くなると原色より幾分濃く写します。しかし本質は同じなのかもしれません。
しかしこれはいろんな光の状況が混じっていますが、全体がパステル系です。
こちらは陰でも原色です。光より色へ反応しているのかもしれません。しかし色は光の反射です。この辺りの特徴にも当時人気があった理由を確認できるのかもしれません。同じベルリンのアストロ・ベルリンもパステル調色彩には拘っていました。ダゴールが源流なのでしょう。色収差はかなり足されているか、当時選べるガラスでは修正しきれなかったことで現れたものですが、後代にこれを取り除き、また足したりと、色収差に関しては設計者の考え方が表れるところの1つです。
明瞭だが柔らかい、収差ではなくガラスの厚みで表現しているところに独自性がありそうです。
しかし印刷物ではデメリットになります。物体そのものの質感を表現したことで不明瞭になっています。
肉眼で見ると角ばった硬質の樹木、ですがそれすらも絵画的に表現します。
繊細だが柔らかく、という特徴は花には最適かもしれません。
f4.8のダゴールと比べて大きな違いはないようですが、f4.8の方が収差が強い分、味があり、肖像にはこちらの方が良さそうです。これが後にドグマーに進化したものと思われます。f7.7はより安定感があります。f4.8を絞った時にf7.7と同じような描写が得られるわけではありませんので、それぞれだと言うしかありません。