だいぶん前にキヤノン 28mm f3.5を持っていたことがありますが、どうもしっくり来ずしばらくして売り払ったことがあります。オールドライカの広角は弱いので、そのために選択したものでした。そもそも広角は味が出にくいので何らかの過剰な期待をすること自体が間違いですが、その後アンジェニュー 28mm f3.5を入手したこともあったので手放したのです。もしまだ持っていてデジタルで使えば印象は変わったかもしれません。広角はなかなか気に入ったものが見つからないので特にキヤノンがどう、ということはないのです。いずれにしても「キヤノンはもういいか」と思っていたのですが、日本の古風な写りがするレンズの捜索の過程で浮上したのが、セレナーの標準レンズでf1.8あたりでした。もっとマイナーなメーカーの方がおもしろかったのですが、セレナーは説得力があって、同じキヤノンでもこれ以降は味わいが減るような気がしていました。おそらくこのあたりがピークなのかなと思って、セレナー Serenar 50mm f1.9も調査するとどうもこれの方が良さそうなのです。品が漂っている感じがします。
「キヤノン」の名称は、"ヤ"が小さくなってはいけないようです。銀行の口座がそういう名義になっているからかもしれません。レンズ名に使われる場合も「キヤノン」です。全部、キヤノンで通した方がわかりやすいのかもしれません。ですからかつてはレンズの名称には「セレナー」を採用したのは一歩踏み込んだ感じがします。それでもセレナーは全部セレナーで欧州製のようにいろんな名称が採用されることはありませんでした。日本のメーカーはほとんどこういう方針です。どうしてでしょうか。おそらくメーカーが多過ぎて、いろんな名称を付けると販促の観点から求心力を保てない問題があったのかもしれません。ブランドはイコール信用ですから、信用を得たのであればそれを前面に出した方が分かりやすかったのだろうと思います。そして当時の日本人にとって国内ブランドは復興の旗印でしたから、ブランドの押し出しは喜ばれたということもあったのかもしれません。しかしこういう方針をいまだに貫いているのは日本ぐらいと思います。中国でも「紅旗」「上海」「東風」「東方紅」「珠江」「海鴎」「鳳凰」「華光」「紅梅」等々いろいろあるぐらいです。日本も戦中までリコーが「精華」「護国」「凱歌」「金鶏」など厳ついレパートリーで攻め、さらにドイツ語は敵性語ではないということで「ハイル」もありました。今はこういうことはなくなりましたが、少しさみしい感じはします。
セレナーは、シュタインハイルがかつて試作したレンズに付けていた名称で、この名称のレンズは販売されませんでした。それに気がついてキヤノンがこの銘を使わなくなったのかもしれません。消えたレンズの名前ですから。キヤノンは元々「観音」という意味で、そういう名称を選ぶぐらいですから、消えたレンズ銘は嫌だっただろうと思います。しかしセレナーの消え入りそうな儚い写りはいいですね。
このレンズをウィグルのウルムチに持ち込みましたので、数点撮影しました。大きな街ですが見どころはないのでイスラム教徒が住んでいる居住区に行きます。市場に行くとこんな搭が立っています。開放での撮影は明る過ぎて無理だったので、f5.6まで絞りましたら1/2000で切れたので、それで撮ってみました。もっとはっきり写ると思っていましたがフレアがかかっています。このフレアは絞りに関係なく出現します。
微妙な収差が周辺で泳いでるから、静止画でありながら動画のような動きがあります。これが良いか悪いかわかりませんが、こういった表現を追うことは可能と思います。ともかく、日本の強い個性のレンズをウィグルに持っていっても合わないなと思いました。でもトプコンとか、現代ではコシナのレンズであれば相性が良かったと思います。
ピントが少し後ろに逸れてしまっているということもありますが、何だか目がチカチカします。前ボケが奇麗なレンズは少ないですが、このレンズも同様だろうと思います。
光と影のはっきりした対称がある構図は駄目です。その上、光が強く当たったものがあるのも駄目です。曇りか雨でないと持ち味が出ないと思います。
動いているものを勘で撮ったのでこれもピントが後ろに行っています。前だと良かったのですが。全体的に色彩がぬるい感じなので見てると暑い印象があります。
これは串に合わせています。奥は味がありますが、撮ったものが良くないですね。これもこれまでと同様の問題があります。
ウィグルではパンの生地をこういうドームの内側に貼り付けて焼きますので、板金工がこういうものを結構作っています。硬くて冷たい質感の物質ですが、こういうものを捉えた時の独特の柔らかさは古いキヤノンにしかない味かもしれません。柔らかく写るボケ玉は他にもありますが、柔らかさの質はキヤノン独特です。
特に葡萄干が有名です。漢方のような扱いのものもあります。こうして日陰に入ると雰囲気が穏やかでいいものです。
屋根のビニールが赤いので赤くなってしまった料理屋です。左下を見るとまだ日差しが強いことがわかりますが、強い光がフィルターで緩和されて全体を覆っているので独特の環境です。一般生活では何ら独特ではありませんが、写真は光を扱うのでその観点から言うとこういう環境は非常に独特です。そしてこういう環境では意外とはっきり写ることがわかります。ライティングを使って撮影する時の参考になりそうです。
これがもし明確に写るレンズであればグロテスクだったと思います。
たぶんウルムチでここが最大の見どころです。新疆博物館です。無料ですがパスポートを持参する必要があります。水を持ち込めませんが、入り口のテーブルに置いていけば後で帰る時に回収できます。警備員に「そこへ置け」と言われるので従います。中は涼しいので水は要りません。
入ったら正面に新疆全土の図があります。中央に山脈があって、北疆と南疆に別れています。南北で気質も全く違うと言われています。この山があるために、ウルムチからカシュガルに抜けるのはたいへんです。飛行機でも時間がかかります。すごく遠いです。行きたかったのですが諦めました。
新疆博物館ですから、新疆全域の文化財が展示されています。新疆というところは、シルクロード交易路がありますが、古代より小王国が割拠し、中国が強くなると征服されるという歴史を繰り返してきました。これら古代小王国の出土品がたくさんあります。ショーケースは奇麗に磨かれていますが、それなりに人も入っていますので完全にクリーンではありません。ボケ玉の場合はそういった細いことを心配することはありません。佇まいが良い感じです。
ミイラが数体展示してあります。タクラマカン砂漠の乾燥のため保存状態が良いことで知られています。一番有名なミイラは「楼蘭の美女」で結構暗いところにありましたので、携帯でしか撮影できませんでした。