歪みなく広い画角が取れるオルソメター
今でもそうですが、昔から広い画角を得るというのは困難で、よく知られているのはライツ Leitzが広角レンズの設計に苦労していたということです。また、アンジェニュー Angénieuxがレトロフォーカス Retrofocus型を採用して一眼レフ用レンズの広角に一定の結論を与えたこともよく知られています。戦前には、ハイパーゴン Hypergon、トポゴン Topogonがあり、このあたりのレンズ構成を見ると広角レンズの設計と製造がいかに難しかったかわかります。ハイパーゴンはいろいろ問題があったので、これに代わるものとしてトポゴンが出るまで採用されていたのがオイリプラン Euryplanで、ダゴールに空気間隔を入れたものでした。1903年にポツダムのシュルツ&ビラーベック Schultz und Billerbeck社のエルンスト・アーバイト Ernst Arbeitによって発明され、特許 (独特許 DE135742)も取得されていますので確認してみます。画角は54度あります。口径はf7.5です。以下統一するために焦点距離は全て50mmです。軍事・航空用に使われる類いのレンズだったということですので味がないレンズであることが収差配置を見てわかります。ほぼ無収差です。
このレンズが作られて10年ぐらい後に第一次世界大戦があり、その頃すでにツァイスを退職していたパウル・ルドルフ Paul Rudolphが戦後にツァイスに復職します。在籍期間はだいたい3年ぐらいと思われ、その後フーゴ・メイヤーに移籍します。理由は様々言われていますが、キノ・プラズマートが生産可能な会社を見いだすためだったなどとも言われています。ツァイスという会社はいわゆるボケ玉の類は作らないからです。キノ・プラズマートを設計した頃に、ザッツ・プラズマート Satz Plasmat(仏特許 FR506486)も設計しており、販売不振に苦しんでいたオイリプランに代わって投入されました。口径はどちらもf4.5です。違いは色収差の量ぐらいだと思います。
このレンズ構成は英国ロス Ross社でもエクスプレス Xpres銘で製造されました。ジョン・ウィリアム・ハッセルカス John William Hasselkusによる設計 (米特許 US1777262)です。エクスプレスも色んな構成がありますが、このタイプは広角エクスプレスと呼ばれています。第二次大戦の偵察用として使用されたことで有名です。歪曲が無収差です。それは用途を考えてのことだったと思われます。画角は70度、口径はf4です。
ルドルフがf6.3のテッサー Tessarを開発した時に、それをf4.5、f3.5と改良を重ねていったのは、ツァイスのエルンスト・ワンデルスレブ Ernst Wanderslebとウィリー・メルテ Willy Merteの二人でした。メルテがこの設計の改良に着手し、画角を65度まで高めましたが口径はf4.5のままで英国物より劣っています (米特許 US1792917)。メルテの方が10ヶ月早く特許を申請していますが、どういうわけかハッセルカスの方が早く審査が下りています。メルテのこの設計はオルソメター Orthometarとして販売され、以降この設計はこの名称が使われています。現在でも大判の広角では主要な構成です。
オルソメターはツァイスの歴代のレンズの中でも特に傑作と言われています。カーブがどの設計もほとんど同じですので、これはオルソメター型の特徴だと考えて良いと思います。
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