無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業




ライカに付けられた初めてのレンズ エルマー Elmar
「清麗」L12 50mm f3.5

2013.06.09

 以前紹介されていたライカAGの動画の中で、ベレクによって設計され販売に至った初めての「アナスチグマット」レンズ、後に改名され「エルマックス」さらに「エルマー Elmar」と名称変更されていったレンズのデータが記載されたノートが写されていました。これは後群の3枚重ねでテッサーの特許を回避していたものですが特許が切れてすぐに2枚に変更されたので短期間しか製造されず、非常に希少な幻のレンズとなっています。
Berek Elmax ガラスデータを示すスクリーンショット1 Berek Elmax ガラスデータを示すスクリーンショット2
 焦点距離は約50.08mmです。距離計連動以降はネジピッチの関係で50mmレンズの焦点距離は51.6mmでしたが、この頃はまだほぼ50mmだったようです。そのため微妙に画角が広かったことになります。口径は実際に販売されたものがf3.5ですのでそれに合わせました。第一ガラスの後面と第三ガラスの前面は平面です。デルフトや上海のテッサー型レンズもこのように設計されているようです。テッサー型のレンズでここを平面にしているレンズは良いものが多いような気がします。
Berek Elmax ガラス配置図 Berek Elmax 縦収差図

 エルマックスの貼り合わせを減らして量産されたものです(独特許 DE343086)。
Berek Elmar ガラス配置図 Berek Elmar 縦収差図
 べレクのトリプレットとエルマックスを比較しますと、収差の取り方の基本概念は同じなのですが、トリプレットの方は球面収差がオーバーです。肖像用途を意図していたのではないか、エルマックス、エルマーはスナップ用との考えだったと思われます。ベレクは肖像用のトリプレットを出したかったのかもしれません。しかし満足はできなかったのか、そのことがヘクトール73mmを生み出す伏線になり、タンバールでも貼り合わせを1つ増やすということに繋がったのかもしれません。しかし本当にそれで良かったのかは別問題、ベレクの3枚玉は結構良いのではないかと思います。オールドライカレンズはガウス型を使っての大口径化競争でボケ玉とのイメージが強いですが、エルマーは完成形で、そこにトリプレットもあったとすれば、印象がだいぶん違った筈です。




 テッサー型のレンズ構成は非常にバランスの取れたものとして多くの傑作を生みましたが、その原点とされる特許が1902年に出願されたこちらです。ツァイス社のパウル ルドルフによるテッサーの設計ですが、最初のものはf6.3なので少し改良されたものと思われます(DE142294 US721240) 。口径はf5.5指定、画角は64度ですが、焦点距離は50mm相当で出図しています。この後、f4.5、f3.6、f3.5と改良が進められ、多くの光学会社で作られた後、新ガラスが出てからは f2.8に挑戦されていきました。
Rudolph Tessar ガラス配置図 Rudolph Tessar 縦収差図
 ルドルフによるf3.5はトラオレ Turriereの本に記載があります。映画と肖像用に設計したとされていますので、これがキノ・テッサーであろうと考えられます。色収差が少し多い以外はほぼ無収差です。ですが中央部に限ってのことで、周辺はあまり良くないと思います。映画用35mmに対する提供だったと思われます。キノはプロ用ですのでモノクロのために少し色の滲みで柔らかくした以外は優秀なレンズを提供したのだと考えられます。同じ設計で大判にも提供しているようですが、そうだとすると肖像用だったと思われます。
Rudolph Kino Tessar ガラス配置図 Rudolph Kino Tessar 縦収差図
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