以前紹介されていたライカAGの動画の中で、ベレクによって設計され販売に至った初めての「アナスチグマット」レンズ、後に改名され「エルマックス」さらに「エルマー Elmar」と名称変更されていったレンズのデータが記載されたノートが写されていました。これは後群の3枚重ねでテッサーの特許を回避していたものですが特許が切れてすぐに2枚に変更されたので短期間しか製造されず、非常に希少な幻のレンズとなっています。
焦点距離は約50.08mmです。距離計連動以降はネジピッチの関係で50mmレンズの焦点距離は51.6mmでしたが、この頃はまだほぼ50mmだったようです。そのため微妙に画角が広かったことになります。口径は実際に販売されたものがf3.5ですのでそれに合わせました。第一ガラスの後面と第三ガラスの前面は平面です。デルフトや上海のテッサー型レンズもこのように設計されているようです。テッサー型のレンズでここを平面にしているレンズは良いものが多いような気がします。
エルマックスの貼り合わせを減らして量産されたものです(独特許 DE343086)。
べレクのトリプレットとエルマックスを比較しますと、収差の取り方の基本概念は同じなのですが、トリプレットの方は球面収差がオーバーです。肖像用途を意図していたのではないか、エルマックス、エルマーはスナップ用との考えだったと思われます。ベレクは肖像用のトリプレットを出したかったのかもしれません。しかし満足はできなかったのか、そのことがヘクトール73mmを生み出す伏線になり、タンバールでも貼り合わせを1つ増やすということに繋がったのかもしれません。しかし本当にそれで良かったのかは別問題、ベレクの3枚玉は結構良いのではないかと思います。オールドライカレンズはガウス型を使っての大口径化競争でボケ玉とのイメージが強いですが、エルマーは完成形で、そこにトリプレットもあったとすれば、印象がだいぶん違った筈です。