ライカレンズの設計師マックス・ベレクが著書 (Grundlagen der praktischen Optik Analyse und Synthese optischer Systeme 邦訳:レンズ設計の原理) の中で説明しているトリプレットの設計があります。これがかなり興味深いので、製造してみようということになりました。これは後代に「トリプレット・エルマー」として出たものと同じかどうかわかりませんが、これもかなり鋭利な写りになりそうです。
ベレクによると、トリプレットは極めて多様な構成のつきることのない泉をなしている。2人の互いに独立な人間がたとえ同じ種類のガラスを選んだとしても、実際上全く等しい光学系を設計するということはほとんど考えられない。何となれば、既に示したようにガラスの種類は出発時の要素の指定に対しては取るに足らないことだからである。トリプレットは自由度が大きいので、たとえ選定したガラスが同じものであっても結果は設計師によって必ず違ったものになるだろうと言っています。そうであれば、ベレクがトリプレットを設計した時の結論はどうなるのか、実際にべレクの時代にトリプレットが出ていたらどんなものだったのか興味が尽きません。ベレクは最終的に貼り合わせがあるテッサーを使ってエルマーを製造しています。
口径はf4です。画角は50度ぐらいあります。そのため焦点距離は48mmとなります。図は画角50度を保ったまま、焦点距離50mmで出してみます。ベレクは一枚目の分散を50ではなく60とした上で9種のバリエーションも記載しています。表として載せていますが、その後に最終稿の設計の際に上記記載の50に変更して最終確定させています。たとえば初期値としてと前置きして50とし、そのまま完成させています。
テッサー(エルマー)よりもトリプレットの方が製造コストが下がりますので、似たものであればどちらでも良いと思うのですが、収差図を比較した感じは全く違います。トリプレットの方が鋭利で優秀です。かといって味がないというわけでもないので、これが出ていたらそれなりに高い評価を得ていた筈です。しかし中望遠で鋭利な玉というのは用途はどうなのでしょうか。何を撮影するでしょうか。存在意義が見いだせなかったことで販売されなかったのかもしれません。
ベレクは最後に、この系は球面収差が小さいだけでなく十分よいアイソプラナチックな補正 (注:非対称収差が補正されているレンズのこと) を有している。として十分に満足できるものであることを指摘した上で、それでも尚、補正が必要な場合のためにその方法を示しています。そして続いて、しかしこの収差の微少変化はもはや像には全然表れて来ないのである。と言っています。それでも調整法を示しているということは彼自身はその匙加減に気を配っていたのは間違いないと思います。最終稿は適当なところで中止したものではなく結論とみて良いと思います。
この時代、トリプレットは肖像用も多かったのですが、これは汎用として設計されているようです。べレクの肖像用はヘクトールがありますが、これは球面収差をアンダーにしています。それ以外の汎用レンズは僅かにオーバーです。
ライカAGが以前公開していた動画の中でベレク直筆のノートが登場しますが、ここにトリプレットが2種確認できます。その内の1つが本稿のレンズであるのは間違いなさそうです。
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