東京光学 トプコンは老舗で軍国主義時代には陸軍から受注を受けていましたので、ニコンと同様かなりノウハウがありますが、現在は民生用には作っていないので我々の間では過去のメーカーになっています。東京光学がかつて製造した多くのレンズの中でRE.Auto-Topcor 58mm f1.4は傑作とされています。
そこで復刻の要望があり、コシナがトプコンからライセンスを受けて製造しましたが、この背景にはすでに中古市場などに出回っているオリジナルに大きな問題があったということもあったと思います。オリジナルのRE.Auto-Topcor 58mm f1.4はエキザクタマウントですので、どのボディを使うかという問題があります。それでM42に改造するキットが売っていますのでまずはこれを使おうかということになります。しかしこれがたいへんで自分で削らないといけないところもあります。これさえやればキヤノンEOSのボディなら使えますが、EOSのデジタル処理がこのレンズの描写と合わないと考える人が多いようです。フランジバックの関係でニコンには使えませんし、それで持て余しているユーザーが多いとされています。そのためコシナはニコンFとM42で販売したものと思います。しかしニコンFに合わせるなら忠実な復刻はできません。レンズの後端がミラーに当るからです。コシナ復刻は径が小さいですが、ニコンに合わせるために設計変更したと推察されます。今でもノクトン銘で販売が続けられていると思います。
先日、シルクロードの方に行きましたので、途中で撮影したものをご覧いただくことにします。
張液というかつて交通の要衝だった街があります。ウィグルに近いのでムスリムが多く住んでいます。その関係の料理屋もありますが、ここは有名ということで連れていって貰いました。対象は明晰に浮かび上がるが硬くもない、ボケも趣があります。必要な要素が十分に満たされバランスが取れていると思います。
光を艶やかに捉えています。この陰影の出方であればモノクロでも使えそうですが、カラーでの発色の魅力も捨て難いものがあります。
ボケが技術的に優秀という意味で綺麗、かなりはっきり遠くまで見通せます。
しっかり写るのですが柔らかい、穏やかな写りです。レンズ構成はガウスなので特殊なものではありません。58mmと少し余裕があるのが良い方向に作用したのかもしれません。
描写は十分に精細でボケの柔らかさと品も申し分ありません。これを「とろけるような」と表現するのは適切かどうかわかりませんが、そういう印象があります。
硬い石に彫刻したものですし、すでに色彩は相当失われていますので、冷たい印象の遺物ですが、触ってみたくなるような質感を以て捉えられています。本物より魅力的に写るレンズは、設計する上で当然の目標と思います。
建物の中も撮っておきます。灯とその光に照された部分を見ると、この表現は日本人でなければ表現できないものを感じさせます。暗くなった方が本性を現すのかもしれません。祭りを撮ると良さそうです。魔術的で幻想性に満ちています。
張液の郊外には丹霞というところがあって七色の大地が広がっている様子を見ることが出来ます。幾つもの映画が撮影されたところということで有名になりました。宣伝は色彩がデフォルメされていますのでもっと鮮やかで美しいですが、現物はこんなものです。
大陸での一般的に見られる観光地における撮影姿勢です。両足を広げて適度な脱力、対象を自然に覘き見るのがポイントです。ライカ撮影者のように脇を締めて固まることはありません。
見どころは多く、バスに乗って何ヶ所も移動します。美しいポイントにたどり着けるようにアスファルトで道も整備されています。
バスの運転手とガイドです。ポイントでは観賞時間が決まっていますので守らないと置いていかれます。しかし一定間隔で別のバスが来ますので1つ遅れになりますが、いずれは乗れます。この背景は分厚いバスのガラスを介しているので評価はできません。
遠くを見渡してもほとんど植物は生えていません。柔らかい表現が独特の描写を引き出しています。
植物はこの程度であれば生えます。これはかなり小さな植物です。幹は数mmしかありません。マクロ的に撮影しました。
逆光ではどうなるか、どんどん条件を厳しくしていったものです。現代のレンズであればもっと的確に写りますが、本レンズはそこまで至りません。コーティングを厳重にすることによって得られるものと失うものがあるので、何が良いのかはっきりした結論は出せませんが、ともかくマルチコートは一つの選択肢に過ぎないということは言えると思います。
張液から列車で敦煌に移動して鳴沙山というのを見に行きます。敦煌市内の端にあります。
防沙鞋套というものを貸出しています。靴を覆うビニールのカバーです。小姐のパネルに被せているのがわかります。
簡単に登れそうに見えます。しかしこれを見てよく考えていただきたいのです。特に上の方は60度ぐらいの凄い急勾配なのです。上から見ると絶壁に見えます。足はすぐにくるぶしまで埋まります。うっかりよろけると転落して相当下まで落ちます。しかもすごい暑さです。レスキュー隊が常時配置されているほど危険です。梯が置かれていますが、これがなければ上まで到達するのは無理です。
上まで登るとかなり平らになっています。
砂丘の下にはオアシスがあって、これを月牙泉と呼んでいますが、その畔に建物があります。瓦は砂を被って白くなっています。
昔の文人が使っていた建物で、天候の影響もあって老朽化が著しいですが、無理やり修復せず、保存に留意されているのは良いと思います。
敦煌と言えば莫高窟です。大きな駐車場があってそこから少し歩きます。こうして遠景から眺めながら近づいていきます。
入り口まで結構距離があります。
洞窟は番号で管理されています。ガイドが10ぐらいの見どころを紹介します。勝手に自分で見て回ることはできません。中は撮影禁止なのでカメラは預けます。
敦煌の郊外にある雅丹地質公園です。奇岩の宝庫です。シルクロードはこういうところを通過したようです。
特徴のある岩をバスで見て回ります。案内板もあります。
焦点をかなり手前に持ってくると奥はボケます。それでも写っているものは意外と明瞭です。発色がかなり独特なレンズでコントラストが強めに出る傾向もありますが、トーンも失うことはないし、不思議な感じはあります。
この描写の傾向であれば、自然を撮影するにしてもやはり日本の風景が合うのでしょう。
ここまでトーンが出るようであれば、モノクロでも試したかったところです。オールドライカに匹敵するぐらいトーンが豊かなように思えます。
約4名程は歩いていた方が良かったような気はします。
似たような風景ばかりですが、一応行ったのでついでに載せておきます。漢代の万里の長城です。
玉門関という万里長城の西の果ての方にある関所ですが、特に何もありません。文物管理所はエアコンのかかった休憩所です。クリームを混ぜたような微妙な発色です。
光の具合が変わってくると相当コントラストが強くなります。このあたりの法則性が今一つ掴めませんが、レンズに廻る反射光を完全に締め出せる角度であればこのように写るように思います。
敦煌市内に戻ると歩道を歩いているだけで歴史の勉強ができます。このように光が非常に強い環境では色彩が淡くなり、その代わり豊かなトーンが出ます。
さらに西へと移動してトルファンに達します。もうここまで来ると中華圏ではありません。外国です。
これら新疆の産物は北京にもたくさんありますが、ここは本場なので試さずにはいられません。だけど北京の方が安く質も良くておいしいと思います。
バス停は漢字とウィグル語が併記されています。
ウィグルというと特徴のあるものは幾つかありますが、このパンもその一つです。主食なのでバザールの入り口で大量に売っています。
実物はもっと色あせた汚いものですが、こういう名レンズで撮影すると味があります。
こういう薄汚れた街道も味わい深く見えます。現代のレンズは割りと見たまま正確に写り、それも良いのですが、こういうものを見ると必ずしも正確なものが良いわけではないとも思います。
汚いものばかりですが、これもそうです。こういう獣というのはほとんど洗って貰っていませんが、写真で見るとそういう感じは全くありません。
中国では麺というと既成品はほとんどないのですが、それはウィグルでも同じのようです。食べる前に必ずこうして処理します。保管は大きな塊の状態で、食べる直前に細くします。
葡萄干を買えとやたら絡んでくるお姉さんです。葡萄がかなり採れるのでワインも有名です。
葉を置くのは実際、どれだけ効果的なのかわかりませんが、中央アジアの文化は強く感じられます。やはりここでも色彩感の特徴は感じられます。
天然の高台に古代都市がありましたので見に行きます。これは模型です。模型で確認してから実際の都市に上がります。シルクロードは周囲が砂漠でオアシス毎に小王国に分裂していた時代もあったので防衛が非常に重要だったのだと感じられます。
今はこのように廃虚になっています。トルファンのように今でも人が住んでいるところがあるかと思えば、廃虚になったところもあります。不思議なものです。
考古学者が調査や補修をしています。
かつて貯水池だったところに、こうして下りていくことができます。
これは大通りです。ラクダの隊商が入ってくることもあることを思えば狭過ぎるような気がしないでもありません。土地が狭いので、通りにスペースを割く余裕がなかったのか、防衛を考えてのことだろうと思います。
昔のウィグル人は、山から地下道を使って砂漠に水を引いてくる機構を開発しました。これはその博物館で地下に下りていって本物を見ることもできます。
赤が少し強めのような気がするので、こういう布地は鮮やかに写る傾向です。
ベゼクリク千仏洞という敦煌莫高窟の小型のものを見に行きます。
ウィグル音楽を聞かせてくれる陽気な人たちです。
西遊記の中で玄奘一行が火焔山という火の燃える山に行く手を遮られ、その火を消すことのできる芭蕉扇を手に入れるため孫悟空が鉄扇公主(公主とは「姫」「王女」の意)と戦う場面があります。その題材になった山があります。ラクダに乗って西遊記の雰囲気を味わえます。
これがその火焔山です。確かに火が燃えているように見えなくはありません。天候によっては真っ赤になって燃え盛るように見えるようです。実際、この地域は気温が40度を越えることもあるようです。
砂漠のトイレもアラブの雰囲気があります。
イスラムはこういう幾何学の精緻な模様が秀逸です。今ではここまでのものは作れないので貴重なものです。
確かに美しいトーンですが、ライカのそれとは明らかに違います。やはりクリームを混ぜたような感じがあります。これもまた一つの個性で良いと思います。