ドイツには重要な光学会社が幾つもあり、それらの重要性が光学会社の数によって埋没しなかった理由はそれぞれが特有の個性を持っていたからでした。ミュンヘンには特に多くの光学会社があってそれらを支えていたのは大企業だったシュタインハイルとローデンシュトックでした。小さな光学会社の思想を製品にして具体化したのは主にこういう大きな会社でした。彼らは後にシュナイダーとも提携して前進し、欧州レンズ芸術の結論と言えるものを提示しました。この3家にツァイスとライツを加えた5家はそれぞれ影響を与えながら発展しました。その後、日本製が勢力を増したので衰退しましたが、価格で後塵を拝したのは確かであるものの、それでもかつて最も栄光に満ちた時代のドイツレンズの芸術性が後代のレンズよりも劣っているということはありません。むしろ、これほど味わい深いものはもはや作られなくなってしまったと言っても良いと思います。ミュンヘン派の多くのレンズはコーティングがあってもせいぜい単層で、レンズ構成も簡潔なものですが、いずれも妖艶な色彩感覚を持っており、特に夜になると毒が染み出たような妖しげな表現を見せるあたりは他に変え難い強い求心力があります。美の極致の1つだと言っても過言ではありません。そのミュンヘン派のレンズを探すために必要なリストを以下に列挙します。
シュタインハイルのレンズ・ラインナップの特徴は、ライカマウント(L39)のリストが特殊だということです。これについてはすでに欧米ライカマウント・ノンライツレンズリストで扱っていますので、ここではそのライカシリーズも含めて、ラインナップの全体を見渡したいと思います。
シュタインハイルのシリアルナンバーは非常に不明確で研究者のよって調査された2種類のリストがあります。
年 | シリアルナンバー | |
---|---|---|
1930 | 50,000 | |
1931 | 100,000 | |
1935 | 300,000 | 300,000 |
1939 | 480,000 | |
1940 | 500,000 | |
1950 | 650,000 | 700,000 |
1955 | 1,000,000 | 1,500,000 |
1957 | 2,000,000 | |
1960 | 2,000,000 | |
1963 | 2,260,000 | |
1967 | 2,400,000 |
ローデンシュトックに比べてシュタインハイルの方が幾分収差が大きく採られている傾向があるので、レンズ特有の独特の味わいを楽しみたい場合はシュタインハイルの方がおもしろい筈ですが、どうしてか、ローデンシュトックの魅力にも抗し難いものがあります。ローデンシュトックは大判用レンズも作っており(シュタインハイルにも大判レンズはありますけれど)技術が高いので小さいレンズを作っても非常に優秀で現代でも十分に通用しますが、だからといって没個性ということは全くありません。本当に洗練されたものの美しさとはこういうものなのか、と気付かされます。
ローデンシュトックの大雑把なシリアルリストです。
年 | シリアルナンバー |
---|---|
1910 | 50,000 |
1920 | 200,000 |
1930 | 400,000 |
1935 | 700,000 |
1938 | 900,000 |
1940 | 950,000 |
1945 | 2,000,000 |
1952 | 2,500,000 |
1954 | 3,000,000 |
1957 | 4,000,000 |
1961 | 5,000,000 |
1966 | 6,000,000 |
1971 | 7,000,000 |
1973 | 8,000,000 |
1974 | 9,000,000 |
1977 | 9,500,000 |
1979 | 10,000,000 |
1984 | 10,500,000 |
1991 | 11,000,000 |
1993 | 11,500,000 |
1994 | 11,231,713 |
1995 | 11,294,073 |
1996 | 11,358,165 |
1997 | 11,407,513 |
1998 | 11,468,541 |
1999 | 11,521,123 |
2000 | 11,588,264 |
2001 | 11,649,679 |
2002 | 11,678,274 |
2003 | 11,724,136 |
2004 | 11,767,376 |
2005 | 11,805,455 |
2006 | 11,860,241 |
2007 | 11,926,199 |
2008 | 11,944,338 |