フランスにはエルマジ Hermagisというかなり古い光学メーカーがあります。エルマジ社の成立と経緯は謎で、1860年頃に肖像用レンズを発売したということはわかっていますので、少なくともそれより前から存在していたことになります。ペッツバール肖像レンズは1840年でしたので、当時の法規で20年後、特許が切れてすぐに製造販売したと推測されます。パリではベルチオが1890年頃から製造を開始しましたが、以降エルマジと関係がありそうな製品も見つかりながら関連性については確証となるものはなく、やがて全てがベルチオに引き継がれたのではないかとも推測されていますが根拠は見つかっていません。エルマジ製品は1935年頃までカタログに載せられ、以降は姿を消しました。記録が残っていない一方で製品は現代に現存しており、そしてその独特の描写も確認できる、そこでフランス最古のレンズメーカーの製品はどうだったのか確認してみようということで、なるべく焦点距離が短い玉を物色し見つかったのは、エルマジ Hermagis アナスチグマット Anastigmat 85mm f4.5となりましたのでこれにマウントを付け撮影することになりました。
85mmということでビゾを使うとギリギリですが、やむを得ません。ヘリコイドに薄いものを使い無限を出しますと最短撮影距離が約3mになってしまい、近いものは撮れません。
個人的な印象ではエルマジはテッサー型のものが良いように思います。パリは年中曇りの日が多く、設計は地元の天候の影響を受けますので、フランス製レンズで日差しの強いところでの撮影はあまり良くないことしばしばですが、しかし影に入ったり透過光のあるところでは繊細な描写が得られます。テッサーはシャープな画が撮れるので、他のレンズ構成よりも繊細な描写への指向が活かされやすい傾向です。
この85mmは大判の風景用です。ですから、イメージサークル内の大部分を失っていることになります。風景用は基本的に無収差に近いので、全面均一な描写であるところを中央のみ切り取って拡大して見ていることになります。繊細というのも、切り取り拡大で繊細であれば、大判では鋭利になりそうです。このような問題があるので、果たして味を観ることができるのかどうか難しいかもしれない前提で確認することに致します。
日差しの強い日に外に出てしまったので、エルマジらしい描写があまり撮れていませんが、これはある程度特徴が出ていると思います。柔らかいのか、より実在感があるのか判別し難い、というと向こうの菓子でマカロンというのがありますが、ですがそれとは違う質感の、なのにマカロン、そういう感じの描写です。
光の差し込み方が似た2枚です。こういう描写はオールドライカも得意ではありますが、それともまた違うような、ライカは霞ですが、エルマジはそれよりも肉感があります。
写真には光は必要不可欠ですが、それが豊富でない、日照が足らない件が問題になる、挙げ句の果てに全裸でビーチという、そういう感覚の地域で作ったものですから、光が足りてない環境では実力を発揮するように見えます。2枚目は屋外ですから明るいようにも見えますが、上は首都高ですから、大きな日陰なのです。
軒先に椅子を出して店内への呼び込みの表示と販売しているものを並べています。建物に近い側は光量が少なく、外側に向かって光量を増しますが、その時の描写の違いが明らかになっています。
現実ではここまでパステル調には見えません。青に対して若干反応が強いように見えます。アンジェニューにまで至るパリの伝統なのでしょうか。
青が強いので黄色が薄まります。古いガス灯をイメージさせるような見え方です。仏モノ独特の感性でしょう。
光が強くなりすぎるとこうなります。想定されていない写り方ではないかと思います。
想定外も承知で天に向けます。色が少し抜けた感じになるのか、よく言えばパステル調、そして無風です。風で動いてはいません。しかし近いものは流れる傾向があることがわかります。
1枚目では手前にピンが合っていて、奥へ柔らかくボケています。2枚目は手前がほんの僅かですがボケています。前ボケが綺麗なレンズというのは少ないですが、これも例外ではありません。
後ボケは若干の2線ボケ傾向です。単に2線ボケと言ってもなかなか難しいもので、これだけ品のあるものはそれほどないのではないでしょうか。
いずれも背景が明るいものです。1つは太陽光がビルに当たったもの、もう一つは人工光です。同じ明るいものですが、捉え方が変わってくるのか、人工光の方が温かみを以て表現されています。
また少し違う環境、室内でも描写を確認したいところです。最短距離が3mでは厳しいですが。