トーマス・エジソン Thomas Alva Edisonがキネトグラフ Kinetographという世界で初めての映画システムを作った時、装填するフィルムを作る必要があったので、友人のイーストマン・コダック Eastman Kodakに頼んで作って貰ったのが、現在135とかライカ判と言われているフィルムのフォーマットです。コンパクトなので写真用としても利用されるようになり、最初に成功したのがオスカー・バルナック Oskar Barnackによるライカでした。当時は暗室でマガジンにフィルムを切って入れていましたがたいへん面倒なので、アグファ Agfaがパトローネ Filmpatroneを開発し、あらかじめフィルムを詰めた状態で販売しました。1932年のことでした。これが一般に写真用フィルムとして多くの人に知られているものです。アグファはさらに36年にカラーネガを開発し、39年にアグファカラー・ノイ Agfacolor Neuとして販売を開始しました。
これがおおまかなセルロイドフィルムとそれに続くカラーフィルムの歴史です。アグファは最初の開発者として、フィルムに感光された "色" がどのように記録されるのかを熟知していました。そしてアグファのフィルムに写された写真をみるとその鮮やかな発色の中に独特の美学も見て取れます。さらにそのフィルムに焼き付ける光はどのようなものが望ましいのかについても明確な考えがありました。それゆえ、アグファが設計した写真レンズはいずれも同社の色に対する理想が反映されています。コンパクトカメラに装着されている小さなレンズに至るまで・・・
本コラムでは基本的にR-D1で撮影するという統一原則がありますので、アグファのレンズを買ってきて作例を用意しようと思っていました。人気がないようで、中古市場ではとても安く見つかります。フィルム会社の作るレンズですから、すべてにおいてスタンダードを追求するところがあり非常に優秀なものです。その上で個性も十分にあります。これを好むか好まざるかということになります。一方、同じフィルムメーカーの作るフジノンはかなり人気があります。こだわり方には共通点が少なくないのですが。アグファのコンパクトカメラは持っていますので、これで作例が幾らかあります。アグファのレンズには厳格な基準があるのか、コンパクトカメラと言えどもアグファの個性は十分に有しています。そうすると安価なレンズを付ける他社のコンパクトカメラとはクォリティに開きが出てきます。しかも1万円ぐらいで買えます。まだデジタルがそれほど発展していなかった頃にフィルムはライカ、デジタルはこれで撮影していました。コンパクトカメラなので絞りは自動となり、これまでの作例とは違った条件になります。
発色が、と言い過ぎたので作例をどうしようかと悩みましたが、特徴的なこの2点をご覧いただくことにしました。コンパクトカメラの場合はレンズ交換がなく、完全に最適化可能なのでパフォーマンスが安定しています。色がしっかりしているということは白がきちんと出るということを意味しているということがわかります。
白繋がりでもう1つ。景徳鎮。
現代レンズであれば何てことない図ですが、オールドレンズにとってはやっかいな対象です。もちろん21世紀のアグファはきちんと写ります。シャープさと柔らかさと繊細な光の捉え方、いずれも満たしており申し分ありません。
雨が降りましたので、濡れた通路を撮ってみました。あまりに普通に撮れ過ぎて面白みがないと感じられるようなら、古いレンズに戻ってゆくのでしょう。
近い物も撮ってみました。階調が豊かですが、ライツあたりの階調とはいささか性格を異にしています。"正統" というものへのこだわりが感じられます。
強力な光を正面から受けている図ですが、全くフレアが出ていません。ノンコートのレンズを使っていると絶対にシャッターは切らない角度です。この位置に夕日はファインダーを覗くのが怖いという別の事情もあります。オールドライカユーザーであれば、こういう影絵のような図を獲得すること自体が難しいですが、その代わり、白と黒の境目が曖昧な夢のような画像を期待すると思います。そこで角度を変え、さらに寄り、全く違った作画を狙うことになります。この写真を見たら、新しい写真だなという感じがいたします。