無一居

空想のレンズを作ってしまう「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

ロシアレンズには氷のような透明感がある

いろんな理由で手元に来たロシア製レンズを試してみます - 2012.05.21


インダスター Industar-61 53mm f2.8
ジュピター Jupitar-12 35mm f2.8
インダスター Industar-69 28mm f2.8

 ロシア製のレンズは安くてツァイス的な写りがするとか、トイカメラ風というものなどいろんな評価で親しまれています。私はレンズの収集僻はないのですが、とにかくネット時代以前はレンズを自分で買って使うまで、どんな描写かわからないということも多分にあり、特定のレンズについてよくわからないのに購入したものなどあります。この時に「安い」ということが決め手になることはあります。しかしロシアレンズに関してはそういう理由で買ったことがありませんでした。なぜなら、カメラショップに行くといろんなお客さんがプリントを見せてくれたりするので、だいたいわかったような気になっていたからでした。ユーザーが多いので情報も多かったのです。それで自分で試さずに買わなかった数少ない例外がロシアレンズでした。冷たくて寒い描写が嫌いでした。同じ理由で英国のレンズも嫌いでした。有名なクック・アモタールという50mmレンズがあり、当時は今の1/10以下の価格でした。安いので買って試し、後に高くなったのでヤフオクで売りました。全く同じような状況でニッコール50mmも売り、これは報道写真のように硬過ぎるという理由でした。他にはイタリア製の50mmもあり、これもレア扱いとなったのでヤフオクで売りました。あらゆるものがフェラーリのボディのように金属的な光沢を以て写り、繊細感に欠けているという不満がありました。ここで国柄ということに気がつき、スペイン製を探しましたが見つかりませんでした。そしてフランス製へと向かいますが、この点については別項に譲りたいと思います。

 このような経緯なので「ロシアレンズを買う」となると明確な理由があることになります。最近購入できて作例もあるのが53,35,28mmの3本で、もうすべて手元にありませんが、順番に見ていきたいと思います。

 最初に53mmのレンズですが、フレームが歪んで怪しげだが、まともに撮影は可能というインダスター Industar-61 53mm f2.8(テッサー型)を購入しました。価格は2,500円でした。これは無一居から工場にレンズを発注した時に機械工作の設計者から分解できるライカマウントのレンズを求められ、そういう要求から購入して撮影後に送ったものです。今はバラバラになっていると思いますし、全面が歪んでいたので戻ってくるかわかりません。

インダスター Industar-61 53mm f2.8 北京北堂
 とりあえず、西洋風建築を撮ってみます。無難にきちんと写ります。

インダスター Industar-61 53mm f2.8 西洋風事務棟
 今度は左を向いて近い建物を撮ってみます。特に際立った特徴は見受けられませんが、ロシアで撮影している感じはしないでもありません。物件自体は中世にフランス人宣教師が北京に建てたものなので、ロシアとは関係ありません。ここにはバロック音楽と中国音楽が混じり合った珍しい音楽が残っているとのことで現在でも研究され録音も出ていますが、そのいずれもがパリで行われており、ここにはそういうフランス風の薫りも全くありません。国籍不明の微妙な違和感が感じられるエリアです。

インダスター Industar-61 53mm f2.8 北京北堂内部
 日曜日ですので聖堂は開いています。進入してみます。安定したパフォーマンスで、特にこういう暗い室内へ強めの光が入ってくると、輪郭のような分厚いボケが窓に出るレンズがありますが、そういう問題もありません。コーティングが新しいからだと思います。

インダスター Industar-61 53mm f2.8 北堂の中で祈る人々
 さらに寄った図を撮りにいきます。普通に撮れるのでぜんぜん問題ありません。しかし距離連動が合っていないのは気になります。この画では2人目の人に焦点を合わせたのですが、焦点はもっと奥に行っています。強く打ち付けた形跡のあるレンズなのでずれていると思います。光の表現の仕方がロシア風のような気がします。

インダスター Industar-61 53mm f2.8 北堂側面の通路
 外から差し込む光を撮ってみます。これは美しく出ました。物質の重厚感が感じられます。東欧のレンズであればこういう表現は出そうですが、それ以外の地域のレンズにはない特徴と思います。

インダスター Industar-61 53mm f2.8 北堂の扉
 出口に戻って扉を撮影します。光の捉え方ですが、重みがある感じなので、これを見て左から入光している様子は感じられにくいものがあります。このあたりにツァイスの名残が感じられます。これで終了し工場送りと致しました。

 次に35mmのレンズ、ジュピター Jupitar-12 35mm f2.8を使ってみます。これもかなり安いものを購入し、フランス製シネレンズを嵌め込んで全く別のレンズとして再利用しています。元の光学系は抜き取られていますが、その前に少し撮影した作例があります。このレンズは後ろ玉の飛び出しが激しくフランジバックの調整が危険なので近接撮影しかできません。仕事に行った時に持ち出したものの、近接しか撮れなければどうしようもありません。それで帰りにむりやり寿司屋に寄って撮ってみました。

ジュピター Jupitar-12 35mm f2.8 寿司
 これは気に入りました。非常に精密に写る優秀なレンズです。ボケの美しさも申し分ありません。残念なのはマウントがL39ではなくM39なのでライカにそのまま付けられるだけで、遠景が写せないということです。少しづつ距離を離して撮ってみます。

ジュピター Jupitar-12 35mm f2.8 湯飲みと皿
ジュピター Jupitar-12 35mm f2.8 ソファー
ジュピター Jupitar-12 35mm f2.8 日本料理屋
 単にシャープなだけでなく、穏やかな感じが良いと思います。ロシア物は結構冷たい感じの描写のレンズが多いように思いますが、これは少し違う見方をした方が良さそうです。レンズ構成は以下のもので、ツァイス Zeissのビオゴン Biogonのコピーとされています。本物のビオゴンはそれはそれで魅力はありますが、価格が10倍はしますので、ロシア物がこの写りであればこれで十分な気はします。

ジュピター12のレンズ構成図

 続いて28mmのレンズ、インダスター Industar-69 28mm f2.8を撮影してみます。これは自分で積極的に使ってみようということで撮影目的で購入したものです。ヤフオクでウクライナ人から入手し、やはりこれもM39マウントなので改造してフランジバックを合わせたものです。28mmなので調整はそんなにシビアではありませんが、割と削る必要があります。

インダスター Industar-69 28mm f2.8 国士館
 どのメーカーのものもそうですが、やはりデジタルで広角は難しいと感じられます。本来のポテンシャルを発揮しているか疑問です。しかし独自の個性を宿しているらしいことも何となくわかってきます。

インダスター Industar-69 28mm f2.8 大学と書かれた門
 周辺光量落ちが見受けられるので、この扱いが1つのポイントになります。うまく使えば対象が引き立ちます。やはりこのレンズも描写に重みがあります。

インダスター Industar-69 28mm f2.8 北京の古い邸宅の門
インダスター Industar-69 28mm f2.8 隙間とピンクの帽子の女性
 手前のボケの扱いはうまく処理すると有用なこともあります。印象的な画にすることも可能です。柔らかい光が得られるところで使うと良いようです。

インダスター Industar-69 28mm f2.8 国士館遠景
 奥へ向かうボケはどうでしょうか? 非常に重々しい感じです。ごちゃごちゃといろんなものがない、すっきりした背景を選べば意外といいかもしれません。

インダスター Industar-69 28mm f2.8 水道
 光の扱いにも独特なものがあります。このような難しい光の状態ではトイカメラ的な性能の悪さが露呈しますが、この特徴が活かされる構図を選べば良いかもしれません。もっともこのレンズは安価な所謂トイカメラ用レンズなので過大な期待はできません。

インダスター Industar-69 28mm f2.8 龍の彫り物
 近いものを撮った時は、かなりの立体感を表現できます。遠景での立体感は潰れますので、距離が短いものの撮影においてはこのレンズはかなり使えます。それでも広角だからか白濁が漂っている雰囲気は拭えません。

 本レンズは安価なコンパクトカメラに付けられるものですが、レンズ構成はテッサー型で結構きちんと作っています。トリプレットに安易に逃れることはなかったところをみると、まじめに設計されたものだろうと思います。以下に設計図を掲載しておきます。よく考えると28mmのテッサーというのは珍しいような気がします。

インダスター69のレンズ構成図
 ロシアレンズもうまく個性を掴むと、面白い作品が作れそうです。ドイツやフランスのレンズのような強烈に惹きつける魅力はないものの、この価格でこのパフォーマンスであれば確かに1つの選択肢になりそうです。狙う表現によってはオプションの1つになり得る個性も持っています。

 総評として全体的に言えることは、素材の捉え方が冷たいものを見ているような感じになるということです。暖かに差し込む光ですら硬く写ってしまいます。ロシアには柔らかな光というものがないのかもしれないと思わせる程です。厳しい自然を対象にするのであれば、他の国のレンズよりより本質を捉えるかもしれません。

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