無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業




ピンカム・スミス Pinkham Smith ダブレット Doublet
「花影」S7 ?mm f4.5

2015.11.15

アメリカ人の感性で作られたソフトフォーカスレンズ

 1901年、英国帰りの写真家 ホランド・デイ F.Holland-Dayという人物がボストンのあるレンズ製造会社を尋ね、持ち帰った1つのレンズを見せました。それはダルメイヤーDallmeyer ベルグハイム Bergheimだったとされています。

ダルメイヤー Dallmeyer ソフトフォーカス SoftFocusレンズの広告 Dallmeyer Bergheim ガラス配置図  そしてピンカム・スミス Pinkham Smith社に、これと同じ物が作れないか、と持ちかけました。しかし同社はダルメイヤーのレンズに納得せず、アメリカ人が好む描写に変更することを勧めたようです。ピンカム・スミス社の設計師 ワルター・ウォルフ Walter Wolfeにホランド・デイが助言して完成させたのが、シリーズI でした。

 やがてソフトフォーカスレンズにダブレットが使われるようになってきたので、ピンカム・スミス社でも製造することになり、1909年にシリーズII Semi-Achromatic Doubletが発売されました。しかし翌年にはf6だったシリーズIIをf4.5に高めたシリーズIIIを販売し、これはアルヴィン・ラングドン・コブラン Alvin Langdon Coburnの助言を受けて絵画的写真を意識したものに設計変更されました。1915年には、シリーズIV Visual Qualityをウォーレス・ギリス J. Wallace Gilliesの指導で完成し、これがピンカム・スミス ダブレットレンズの最終決定稿となりました。

 1920年にはシリーズIを改良し、f6からf5へ変更したシリーズV SyntheticをJ. W. Newtonの指導のもとに、さらにFloyd Vailの助言も受けて開発しました。シリーズVIは、シリーズVをグラフレックス Graflex或いはその他のレフレックスのためのものでした。このメインシリーズ以外に映画用の75mmレンズも見つかっていますが、これもソフトフォーカスなので、ピンカム・スミス社は写真レンズ分野ではソフト専門だったようです。おそらくオプティカルは自社生産、鏡胴はウォーレンサック Wollansak製だったとされています。そして1930年頃には製造を停止したようです。以下に全ラインナップをリストしておきます。


参考としてピンカム・スミス社のカタログ ,,もご覧下さい。

 現在、ピンカム・スミスのレンズは非常に高い評価を受けており多くの写真家が探していますが、製造個数が非常に少ないため購入は困難です。シリーズVIでもシリアルナンバーは2000番台です。ウォーレンサックに販売も委託すると当然自社のベリート Veritoを優先して販売すると思いますので不利になりますが、他に方法がなかったのかもしれません。

 50年代半ばにフランク・ペックマン Frank Peckmanという肖像写真家がピンカム・スミスを復刻することを思い立ち、ピンカムの息子を発見して14インチ f4.5(8x10)のレンズを限定販売しました。この「Bi-Quality」レンズの製造個数は100余りでコダックの製造ではないかと言われています。現在では英クック Cookeが「PS945」という製品名で復刻しています。光学機器のディーラー クライブ・ロス Clive Rossがクックの社長に持ちかけ、12インチで復刻しました。しかしコーバルのシャッターが入手難となり製造停止、これに替えて、4x5サイズに合わせた9インチ(約229mm) f4.5を販売しています。下の写真は9インチを開発したピンカム・スミスの孫(左)とクックの設計師 Mark Gershman(右)です。
ピンカム・スミスの孫(左)とクックの設計師 Mark Gershman
 これがピンカム・スミス レンズの歴史のおおまかな流れです。各レンズは標準よりも少し長いぐらい、クックがPS945で復刻したシリーズIV No.1では35mm換算で焦点距離65mm相当です。印画紙サイズには各種用意していますが、焦点距離の選択肢を用意していないのは1つの特徴です。レンズ構成は2枚か4枚ですが、風景用と肖像用という区別は多少意識はしているものの厳密には分けていないらしいというのも興味深い点です。

ピンカム・スミス Pinkham Smith社広告から取材した写真1  同じカタログから取材したものですが、2枚構成と4枚構成のものが混じっています。上の表紙の写真はおそらくシリーズ Vのものです。後方のボケは霜が付着したような感じです。焦点が合わせられた幹もかなり柔らかい感じがあります。

ピンカム・スミス Pinkham Smith社広告から取材した写真2  シリーズ IVの作例で絞り開放です。絵画調の表現を意識しているようなので、その表現を開放付近に求めたのだろうと思います。

ピンカム・スミス Pinkham Smith社広告から取材した写真3  シリーズ Vの作例です。

ピンカム・スミス Pinkham Smith社広告から取材した写真4  シリーズ IVの例で、焦点はかなり鮮明ですが、同時代のその他のソフトフォーカスレンズと比較すれば相当なボケ玉です。ガラスを4枚に増やしたので2枚玉より性能は増していますが、基本的な収差の傾向は変えていないようです。

ピンカム・スミス Pinkham Smith社広告から取材した写真5  再度シリーズ Vに戻っています。絞ればより鮮明になっています。


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