無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業




クック キノ・ペッツバール Cooke Kino Petzval
「花影」S4 62mm f1.8

2021.03.07

 キノ(映画)にどのレンズ構成を使うのかは難しい問題です。スチールであればガウスが最もバランスが良いようですが、キノでも同じなのかもしれず、英クックでは31年にスピード・パンクロでガウスを採用しています。しかしその前の29年にはペッツバール型でキノに設計しています (英特許 GB329144)。これはおそらく販売されていません。スチールでも使えるとありますが、特にキノと書かれています。このレンズ構成を見て俄にペッツバールとは思われませんが、特許にそう説明されています。収差配置はゾマーのペッツバールに似ています。色収差は反転しています。口径はf1.8で指定されています。画角はおそらく36度が限界と思われ、焦点距離は62mmになります。収差図は以下全て焦点距離50mmで出しています。プラズマートのペッツバール型という感じのものです。ガウスでこの収差配置は採用していないので、クックとしてはガウスでは合わないという考えだったものと思われます。

クック キノ・ペッツバール ガラス配置図 クック キノ・ペッツバール 縦収差図



 ペッツバールというよりエルノスターに近いのですが、エルノスターも出たばかりでこれもペッツバールからの発展だった筈です。これがキノに合うという感覚があったようです。英特許 GB258092では、同じ設計者 ウォーミシャムが1925年に申請したペッツバール型を使っての写真撮影用、及びプロジェクターレンズについて2つの設計が示されています。いずれもf1.5です。画角は45度ですが、実際には40度が限界です。
クック・ペッツバール25年1 ガラス配置図 クック・ペッツバール25年1 縦収差図 クック・ペッツバール25年2 ガラス配置図 クック・ペッツバール25年2 縦収差図

 1929年にはさらなる改良型が英特許 GB333065で示されています。f1.48で、画角はおそらく40度、そこを42度で出しています。
クック・ペッツバール29年 ガラス配置図 クック・ペッツバール29年 縦収差図

 すぐに1930年に続く改良型が英特許 GB342889で申請されています。f1.5で、画角は48度ですが、やはりこれも40度ぐらいなのだと思います。
クック・ペッツバール30年 ガラス配置図 クック・ペッツバール30年 縦収差図

 1936年に枚数を減らして明るくした改良が英特許 GB477424で申請されています。f1.4で、画角は30度です。
クック・ペッツバール36年 ガラス配置図 クック・ペッツバール36年 縦収差図

 1938年には明るさを犠牲にして画角を増した構成を英特許 GB517386で公開しています。f2.0とf2.1です。画角は40度。この2種の違いは色収差の量ぐらいです。
 同年に英特許 GB523218で高屈折率ガラスを使った新設計を3つ発表していますが、屈折率がどれも2.0を超えるものを使っているのでこれは検証していません。
クック・ペッツバール38年1 ガラス配置図 クック・ペッツバール38年1 縦収差図
クック・ペッツバール38年2 ガラス配置図 クック・ペッツバール38年2 縦収差図

 戦中の1940年には明るさを増した構成を英特許 GB542508で公開しています。どちらもf1.4です。
クック・ペッツバール40年1 ガラス配置図 クック・ペッツバール40年1 縦収差図 クック・ペッツバール40年2 ガラス配置図 クック・ペッツバール40年2 縦収差図

 1942年の設計ではどちらもf2と暗くなって複雑になっています (英特許 GB556402)。肖像用ではないかと思います。
クック・ペッツバール42年1 ガラス配置図 クック・ペッツバール42年1 縦収差図
クック・ペッツバール40年2 ガラス配置図 クック・ペッツバール40年2 縦収差図
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