淡い色彩が情緒を醸し出す グラン・アンギュレ Grand Angulaire
「古柳」R4 35mm 28mm 24mm
2015.11.25
巨大な前玉で拡大する広角レンズ
「写真レンズの歴史」にこのような説明が載っています。
20世紀の始め頃から幻灯用スライドの投影の時、スクリーン上の画像を大きくするため「拡大レンズ」を使うことがあった。これは投影レンズの前側焦点の前に置く大きい凹エレメントのことである。このエレメントによりレンズ全体の焦点距離が短くなり投影された画像が大きくなる。これは通常のレンズの後ろに付けて、その焦点距離を伸ばすための凹エレメントと全く逆である。- 「写真レンズの歴史」第10章 逆望遠レンズ キングスレーク著
虫眼鏡のような原理ですから光学初期の頃からわかっていたことだと思います。本格的に設計されたものとしては1929年に、ワイドスクリーンに近くから映写するために設計されたものがあり、大きい物の設計では1931年テーラー・ボブスン社のリー Leeが設計したものがありました。量産化されるようになったのも戦前で、当初は8ミリ用として作られ、エレメントを多用した極めて複雑な構成のもの、非球面さえ使ったものもあったと言われています。その後1950年代に一眼レフが出て、長いバックフォーカスのために再び逆望遠型が作られるようになり、そのうちの1つとしてパリのアンジェニュー Angénieuxによるレトロフォキュ Retrofocusがありました。この商品名は逆望遠型全般(他社製を含めて)の通称となり、英語読みで「レトロフォーカス」として知られるようになりました。しかしアンジェニュー社のフランス語の古いパテントを見ると「Grand Angulaire(グラン・アンギュレ)」とあります。ドイツでスーパー・アンギュロンと呼んでいるのと同じです。
アンジェニューのグラン・アンギュレは幾つか種類があります。パテントデータがあるのは以下です。
- R1 35mm f2.5
- R2 35mm f2.2
- R11 28mm f3.5
- R61 15mm f1.3(16mm映画用。35mmフィルムでは50mm相当)
- R61 24mm f3.5
- R61 24mm f3.5 改良
世の中で非常に評価が高いのはR1です。
アルパではこのR1以外にR11とR61も選ばれていました。パテントデータがないグラン・アンギュレでVadeMecumに載っているのは以下の通りです。
- R2 18.5mm f2.2
- R21 10mm f1.8(16mm映画用)
- R31 6.5mm f1.8(8mm映画用)
- R62 14.5mm f3.5
復刻はできればR1 35mm,R11 28mm,R61 24mmの3つで考えたいところです。パテントデータについては本稿で全て確認することにします。R1とR2については外国では同時に申請されたのですが、フランス国内ではなぜか先にR2が申請されています。1950/7/5でした。(仏特許
FR60430)。これはアリフレックスマウントで供給されたフランス語では「シネ(映画)」用です。アンジェニューのシネ用収差はこういうパターンです。
次はR11 28mm f3.5でした。52/6/29です。(仏特許
FR62932)。こちらはスチール写真用です。収差配置は同じなのですが量がかなり違っています。数値も掲載していますので比較してみてください。
次のR1 35mm f2.5ですが、申請されたのは50/2/17とこれが一番早いです。向こうの話なので審査を忘れていたのではないでしょうか。(仏特許
FR1013652)。これもスチール用だということがわかります。ST、2つの線が別れて合流しています。これだけで読み切れるわけではないのですが、背景に2線ボケが生じ、硬めの表現、これが絵画的な描写になりそうです。このあたりが高評価の理由ではないでしょうか。
次はR61 15mm f1.3ですが、16mmフィルム用なので35mm判に合わせ焦点距離を50mmに変えて出図しました。57/5/6と少し時間がたっています。(仏特許
FR1189915)。これは16mm映画用ですが、VadeMecumを参照しますと、35mm映画用レンズのリストがあり、R2とR62があるのですが、28,32,40,50mmではガウス型のS2、50mmに関しては明るいM1も、75mmはS3となっています。16mmフィルムとなりますとレンズの方もかなり小さくなります。ガラスも小さくなりますので味がもう一つよくありません。それでガウスを採用して手厚くしたのではないかと想像されます。
標準50mmでは、M1のデータはあります (
フランスの大口径 アンジェニュー M1「香箋」G4 50mm f0.95参照)。比較するとかなり近いです。ですから、標準レンズのシネはこういう配置と決まっていたのでしょう。或いはR2が特別多いのかもしれません。S2もこれぐらいで、これも広角からあります。2番系は収差が多いのかもしれません。
次はR61 24mm f3.5でした。57/9/23です (仏特許
FR1192221)。60年代に近づいてくると、はっきり右巻きにするようになってきます。これはドイツでも同様の傾向です。これに何か不満があったのか、1年後にこれを改良したとするデータも公開しました。
同じR61 24mm f3.5です。58/10/9でした (仏特許
FR1214945)。意図的に収差を増やしている感じがします。しかもそのためにガラスを1枚増やしています。これはシネ用設計だった可能性もありますが、シネにはR62がありますから違うと思われます。R1やR2のようなボケ味が欲しかったのではないでしょうか。アルパに供給されていたのはこの設計のようです。
参照できるデータとしてトリプレットもあります (
アンジェニュー Z「鼓灯」C4 50mm f3.5参照)。古典的なアンジェニューにおいては、この形で決まっていたのでしょう。
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