幾何学計算に基づく世界最初のレンズ
ペッツバールレンズについての概要は、幾何学計算に基づいた世界初のレンズ1を参照して下さい。本稿ではこのレンズの幾つかのバリエーションを見ます。
この図では使われているガラスが示されていてフリントガラスをクラウンガラスで挟む形になっています。製造可能なガラスのデータはあらかじめフォクトレンダーから提供され、それに基づいて設計されたようです。クラウン、フリントはそれぞれどちらも同じガラスが使われます。
これは、ペッツバールが計算によって導き出したと言われる数値です。曲率しかありません。これ以外にガラスの間隔とガラスの種類がわからないといけませんが、適当と思われる代数を放り込んでも結構きちんと結像しますので驚きます。そういう理由でこれだけのデータで十分だったのでしょうか。ともかく、最初はここからスタートしたようです。その後、様々な光学会社がこのレンズを製造するようになりました。図は全て焦点距離50mmに統一しています。
ロアー Rohr著、Ueber åltere Portråtobjektive, Zeitschrift für Instrumentenkunde, XXI, 1901, S. 40-52に記載されている設計値です。ロアーはツァイスの設計師ですが、著作が多いので論文で主に知られています。ガラスの間隔も明記されています。口径は指定でf3.4です。
ロアー Rohr著、Theorie und Geschichte das Photographischen Objektivs, 1899, 250pに記載されている設計値です。第3,4レンズの間隔をほぼ消しています。口径は同じです。収差が増えています。レンズの間隔を顧客毎に調整していた可能性があります。
ライカレンズの設計師マックス・ベレクの有名な著作(Grundlagen der praktischen Optik Analyse und Synthese optischer Systeme 邦訳:レンズ設計の原理 3章 三角追跡することにより補正状態をしらべること)に、このレンズの分析が出ています。引用は赤で示しています。古い表現もありますが修正していません。
Fig.31には歴史的に興味のあるレンズ、すなわち老大家のペツバールが1840年頃肖像写真用に設計し、今日でなお実用上の意味を失っていない最初の明るい対物レンズに対し、この系の最初の構成データに対応する収差が描かれている。これは横収差図ですので、対応するものを出してみます。画角は0,6,12,18度の4種ですので同じように出します。
直ちに、このレンズの本質的な収差は像面湾曲だけだといういうことがわかる。対応するザイデル和の大きさから実用上も邪魔になるのである。球面収差は非常に小さく、全く顕著なのはコマの補正である。歪曲は厳密に言えば大きな画角に対して存在するが、実際上は認められない。ペツバールの肖像レンズでは像面湾曲に対するザイデル和がすべて正であるから、すべての像面はレンズに向かって凹であり、球欠断面に対する曲線を書いたとすると、子午的曲線よりももう少し横軸に対する傾きが大きく、傾きの向きは同じになるはずである。大きな像面湾曲のことを考慮しても使用できる画面の範囲内では、非点収差と歪曲は、開放絞りでも全く認められない。したがってこの対物レンズは確かにアナスチグマチックで歪曲の無い状態に補正されているが、像面湾曲がひどいためにこれは決して「アナスチグマット」とは言えない。肖像用レンズはペツバール自身によって種々の変形が与えられ、非点収差と歪曲の補正を無視して平均像面湾曲を非常によく補正したようなものも作られた。これらの変形を考えに入れると、ペツバールが収差の関係についてどんな洞察をもって彼の仕事を遂行したかを理解することができる。