無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業




シュナイダーによる幻のスーパー・アンギュロン Unreleased Super Angulon
「清麗」L1 25mm f2.8

2014.10.10

設計は完成されたが製造されなかった幻の25mm

 ライツはベレクの時代から広角と大口径の設計に苦しんでいて、初期には大口径、後に広角レンズの設計でシュナイダー社の援助を受けていました。それらのレンズは、ライツ社の設計によるレンズに採用されていた名称ではなく、シュナイダー社の銘が使われていました。実際に販売に至ったものとして、クセノン Xenonとスーパー・アンギュロン Super Angulonがありました。1958年からライカM型へビオゴン型のスーパー・アンギュロン Super Angulon 21mm f4、後にf3.4を供給していました。65年からはライカフレックスにも同じSuper Angulon 21mm f3.4、68年にレトロフォーカス型のf4、88年からアオリ付きのPC Super Angulon 28mm f2.8を供給していました。ここでの特許はライカフレックスSL用で、21mm f4はワルター・ウォルチェ Walter Woeltcheによる2つの設計が66年10月に独特許 DE1497596に記載され、その一方が使われました。この特許にはもう一つ、25mm f2.8も載せられていました。66年に申請されたデータでした。

Super Angulon 25mm f2.8 ガラス配置図 Super Angulon 25mm f2.8 縦収差図  これがスーパー・アンギュロン2つと併記されているということは、この25mmに関してもライツに提案されていた可能性は高いと思います。しかしスチールの場合、28mmの次は21mmで、その中間はあまり求められないかもしれません。映画の場合は、50mm以下は40mm,35mm,28mm,24mm,20mmぐらいで、こういう並びになって長い焦点距離のものも含めてセット販売されます。スチールは50mm,35mm,28mmとあったら、どれか1つ選べば良い感覚ですが、映画はカットを繋いでいく時に同じ焦点距離だけでは作品が作れませんからレンズの販売段階でセットになっています。そう考えると標準の50mmは必要として最低限35mm,24mmがあればカバーできるという考え方もできます。荷物を軽量化させたい時などにあり得ることです。シュナイダーでは25mm,21mmですが、25mmで明るくなるのであれば、その方がいいかもしれないという提案だった可能性があります。それに対してライカではより広角の方がインパクトがあるという判断だったものと思われます。28mmもあるところに25mmでは如何なものかという感じにもなりますので却下されたのではないかと推測されます。しかし現代ではどうでしょう。あまりに広角寄りというのはデジタルは弱いので少しは長い方が良いです。手持ち目測で撮ったりしますので明るい方が良いです。28mmとの比較というのも必要ありません。21mmは周辺減光がありますが、25mmはなさそうです。21mm f4が傑作とされていて同じ設計思想で計算された25mmは、もし出ていたらこれも広角を代表する名レンズだった可能性はあります。

 レトロフォーカス型の場合は、前群の大きな傘から後群の間に距離があります。その間は大きな空気間隔でした。薄い儚い写りでこれも良かったのですが、現代ではここをガラスで埋めるようになっています。埋めたもの自体はかなり昔からあったのですが、概念としての先駈けはこの設計だったものと思われます。分厚いガラスで空間を埋めています。もっちりとした描写になります。デジタルになってこの傾向が加速しているのか、ほとんどの設計でこうなってきています。かといって繊細さも失わない、その概念の最初期のものだと思います。大きさもフランジから6cm程と小型で結構なものです。

清麗 Seirei L1 25mm f2.8 ?円

専用フード付き。フィルター径?mm。至近距離も不明。絞羽?枚。重量は計算値で?g。距離計連動無

 これだけガラスの枚数が多いとコーティングの是非についても考えないわけにいきません。コート無しの場合、透過率は52%となりf2.8がf4(T4と表記)となります。半分の光量を失うこと自体は気にしなくても、ここまでともなると描写に影響がないかと心配になります(問題ないと思います)。コーティングがあるから8枚も使えたとも言えます。そこで本作は少なくとも前後にはコーティングを入れ、内部も反射リスクがある面に入れることでコート無しガウスと同じぐらいの透過率にしたいと考えています。コートを使うにしてもヌーディな描写は失いたくないからです。本作は完全コート無しでもかなりのコントラストで逆光にもそこそこ強い設計です(強過ぎても良くありません)。そのため全面コートはデジタルでは硬過ぎるのではないかと懸念されます。



 スーパー・アンギュロン 21mm f4の方も確認します(独特許 DE1497596)。2つの設計が記載され、貼り合わせの有無で1箇所の違いがあります。特許の記載によると改良されているとのことです。ライカフレックスSLに採用されていたのは貼り合わせを増やした方です。
Super Angulon 21mm f4 1つ目 ガラス配置図 Super Angulon 21mm f4 1つ目 縦収差図
Super Angulon 21mm f4 2つ目 ガラス配置図 Super Angulon 21mm f4 2つ目 縦収差図

 設計者のワルター・ウォルチェ Walter Woltcheは、64年にも同様の設計で特許を取っています。独特許 DE1447270は3つ所収されています。35mm f2.8、28mm f4、25mm f2.8です。25mm以外は一眼レフ用に販売され、スペックは同じなのですが、設計は少し違っていたようです。

Super Angulon 35mm f2.8 ガラス配置図 Super Angulon 35mm f2.8 縦収差図
Super Angulon 28mm f4 ガラス配置図 Super Angulon 28mm f4 縦収差図
Woltche Super Angulon 25mm f2.8 ガラス配置図 Woltche Super Angulon 25mm f2.8 縦収差図

 改良された66年2月の独特許 DE1497588では、非球面が採用されていますので収差図を出していません。




 ライカLM型へは2種類のSuper Angulonを供給していました。バックフォーカスの制約が厳しくなかったため、ビオゴン型を採用していました。最初は21mm F4 (米特許 US2897725)でした。焦点距離21mmで出図しています。
Super Angulon M 21mm f4 ガラス配置図 Super Angulon M 21mm f4 縦収差図
 60年代に入り改良f3.4を供給しました (米特許 US3209649)。初期のR型にも採用されましたが、ミラーを跳ね上げてから使用する必要がありました。
Super Angulon M 21mm f3.4 ガラス配置図 Super Angulon M 21mm f3.4 縦収差図
 f4の設計は、このf8、大判用と思われます設計の改良でした (米特許 US2781695)。
Super Angulon 21mm f8 ガラス配置図 Super Angulon 21mm f8 縦収差図
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