ダゴールのような厚みのある表現はヘリアーでも得られる
英国で開発されたトリプレットは極めて優秀なレンズでしたが、それは英国の極めて優秀な製造技術を以て成し遂げられるという条件がありました。大量生産において若干の綻びが見られようとも、その構成の簡潔さから幅広く使われていました。コスト面が1つ、別の面はトリプレットの個性を弱点と見做すのではなく善用していこうという方向性があり、主に肖像写真に利用されました。トリプレットの性能を高めるために製造技術を向上することによって克服するという考えは最も選択の難しいものであったと思われ、その代表的なものはライカのトリプレット・エルマーです。しかし純粋に性能という観点から見ればレンズ構成に何らかの改良を加える方が実際的であり、この方向性はかなりの亜種を産み出しました。その一つがヘリアー型でした。開発者はフォクトレンダーの設計師 ハンス・ハーティング Hans Hartingでした。彼が最初に設計したデータ (独特許 DE124934)は特許申請されています。画角は60度で出してみました。口径はf4.5です。焦点距離は以下全て50mmに統一します。
レンズの曲率を1箇所逆にしてハーティング自身によって改良されたオクシン Oxyn (米特許 US766036)です。f4.5です。画角は50度です。
この後、ヘリアー型は様々な設計師によって利用されますが、特に評判が高かったものとしてダルメイヤーのペンタック (米特許 US1421156)があります。画角はそれほどありませんが口径はf3です。
もう一つ評判が良いのが米コダックのフレッド・アルトマン Fred Altmanによるエクター Ektar (米特許 US2279384)です。4種の設計が載っています。コダックが望遠レンズを設計するのにヘリアーで固めたのはどういうことでしょうか。しかもいずれも量産されていたらしいのです。これぐらいの望遠レンズに対してはテッサーとか、エルノスター系を使うことが多いと思いますが、ヘリアーとなるとガラスの厚みを増していって濃厚さを重視していく考え方になると思います。
1つ目はf3.3で、画角は60度です。
2つ目はf4.5です。
3つ目はf3.5で、画角は50度です。
4つ目はf3.5でした。
50年代にアサヒフレックスが出た時についていた標準レンズもヘリアー型でした。タクマー Takumar 58mm f2.4です。標準レンズですから50mmにしたいところを58mmです。そこで妥協しても使いたかった設計、58mmというのはそういうのが多いので名レンズもまた多いように思います。これは言われなければダゴールに見えるような写りで撮れます。厚みを稼ぎたい方向であればヘリアーの方が貼りも少ないし、理に適っているように思います。歴史的に見たらこのアサヒか、ライカのヘクトール 28mmがヘリアー型の傑作だと思います。最近のコシナもヘリアーに関しては幾つかラインナップしていますが、これもかなり考えてのことだと思います。日本文化にはこの種のレンズは好まれるような気がします。
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