院落 P1 50mm f1.9 作例
キノ・プラズマートの復刻 - 2021.07.27
仕様についてはこちら、院落 P1 50mm f1.9を参照して下さい。
作例は澤村徹氏のブログ、Facebook内でも紹介されています。
動画はBellami Beginner様が開設されたvimeo内の
「Bellami Beginner」(望遠になります)
ツァイスのパウル・ルドルフは、プラズマートの設計を同時に3種発表しています(
天下の宝玉 キノ・プラズマート「院落」P1 50mm f1.9参照)。実際に製造されたものはこのうちの1つで、f2のものですが、少し設計に余裕があったのでガラスの直径を少し大きくしてf1.9で復刻いたしました。(すべて写真をクリックしたら拡大します)。
東京の池村様から作例を1つ送っていただきました。キノ・プラズマートの特徴がはっきり出ています。テストなのではっきり出していますが、作品作りの場合は少し絞って抑えた方が良さそうです。背景のボケが汚れていますが、少し抑えると水彩画のようになります。これぐらいはっきり強めに出した方が合う画もある筈です。ライカM9です。
Facebookの方でも作例をご紹介くださっています。
小店の方でも完成して受け取ってすぐの2021.7.27に少し撮影いたしました。撮影場所は、銀座〜有楽町〜丸の内界隈です。ライカM9です。

開放です。ピントが来ている位置の描写はプラズマート独特のものです。しかし光が付帯しているあたりでは柔らかくなっています。光源がそこにあるか、或いは外光が当たっているかで描写は異なります。

前ボケが美しい玉はほとんどないですがこれも同様で、左に歩いている人物の白いバッグはフレアで包まれています。反射しやすいものはこうなる傾向です。一方、後ボケは品がありますが、これも名玉はほとんど同じ、個性は異なりますが。

撮影できる至近距離でf2です。ボケの汚れ方がプラズマート独特のものがあります。

映画用の玉なので中央の主題を如何に引き立たせるかということに主眼を置いています。そこでこれですが、上からf1.9、f2、f2.8です。やはりf2が業務仕様というのはわかる気がします。

ある携帯店の置物ですが、上がf1.9、次はf2.8です。ここでは描写の違いを見ていますが、どちらが良いのかは何を撮るかによります。多くの場合、少し絞って抑えた方が良さそうです。

これも同じく上がf1.9、次がf2.8ですが、開放はあまりにボケがはっきりしません。しかし夜なら良い筈です。

室内のような太陽光の少ない環境では美しくボケが活かされそうです。

使いにくい前ボケもこういう環境では活かされます。太陽光も間接的な光であれば良いですが、直接光は難しそうです。もっともどのレンズもこういう傾向はありますが。それでもプラズマートの出図は独特です。

屋外ですが夕方ということもありますし、光源が多くても弱いので、溶けるようなボケが表出しました。

ショッピングセンターのエントランスなので光は柔らかくとも光量は十分です。絵画調で撮れそうだと思ったので開放で。

対象を独特の柔らかさで捉えるのでガラスも肉眼で見るよりも柔らかい膜のように写ります。

映画用レンズは主題を引き立たせますが、しかし背景の人物を無にしてはいけません。やはり必要な素材であることには代わり有りません。主役を喰ってはいけないが、背景もまた語る必要があります。そこでこういうボケ方になったのでしょう。アール・デコの影響を感じさせます。

ドイツで設計されたドイツの玉には違いない。それでもオリジナルのプラズマートも布の質感は柔らかく捉えます。絹はシルクロードを通じて欧州にも運ばれていたので違いはないのでしょう。

水もガラスと同様ですが、ここでの水は動きがあるので輪郭が少し溶けた感じになっています。

プラズマートというと一般に知られているのはこういう周辺が流れた画です。特殊効果を狙う以外の作画では好ましくないものです。動画なら幻想的に映りそうです。
2021.8.12 六本木界隈

写真家の使うライティングは限定されたエリアを照らす場合が多いですが、撮影対象にのみ光を当てて背景には当てないということもあります。背景のこのボケ方であれば、印象としてはモナリザの背景のような感じがあります。明るさに落差があるのでもう少し詰めた構図であればより自然かもしれません。

光学設計は数学的に結果が出るので理論上の性能は製造前からわかる筈ですが、微妙な味ともなるとなかなか難しいことで、フランスのアンジェニューが試作を複数作って調べていたのが、背景のボケ方でした。全く自然にボケているところから、硬質のボケ方に変わってゆくところで、どれぐらいがちょうど良いのか、これは好みもあるので容易に結論が出せるものではありません。そこでアンジェニューはおおまかに2種類で出していました。プラズマートはその中間、というのも適当な言い方ですが、収差を残してどれぐらい絵画調にするのかというところで、1920年代頃の芸術的感覚が反映されていると感じられます。

f4です。周辺は流れるのですが、中央は非常に深度が深くなっています。しかし特許データの焦点距離は守っているので不良ではありません。古いキノでは結構よくある収差配置です。動画の撮影では動くのでどのような深度でも中央の主題に注意を向けようとすればこれが良いのでしょう。

主題が中央にある時に、そこへフォーカスする傾向です。それも決して硬く捉えようとしていません。

石のようなタイルを使って伝統の恒久性を、淡い色合いを使うことで伝統の優しさを表現していますが、そこへ温かな柔らかさが加わりました。

光源の後ボケが美しいのでこれは活かしたいところです。

色彩感は現代ではコーティングで操作も可能なのですが、本作はコートを入れていないのでそういうことはできません。それでこの色彩になるというのはガラスの組み合わせに依存するものです。それとボケ方、さらにレンズ構成ですね。これらの条件でプラズマートの個性が決まっていることになります。どれかを変えると違ったものになっていきます。
2021.10.6 横浜中華街。夕方から夜になりましたのですべて開放で撮影することにしました。

中央の主題に集約しようという強い意図が感じられます。このように意図を感じる程度までに留められれば良いのですが、昼間のようにかなり明るい状況であれば、周辺の流れが不快になりそうです。

暗いのでわかりにくいですが、左下の明るい部分を見るとほとんど流れていません。光量が少ないと安定しますね。そしてプラズマート独特の柔らかさが出ます。

夜ですが、中華ならではの巨大看板から煌々と照らされるネオンによって円周ボケが出ています。こういう収差は動画だからといって変わってくるわけではありませんから、動画でも同じように出ますが、音声や人物の動きに気を取られるのでそれほど注目されることはない、映画でこういう収差があっても気にする人はいません。

中華街のネオンを撮ろうということだったのでいっぺんに並べます。すべてほぼ同じ時間に撮影しています。空が明るく見えているものもありますが、実際には真っ暗です。オリジナルはf2なのでもう少し硬くなります。僅かですが。いずれにしても背景はソフトフォーカスです。プラズマートの特許は3つの設計が載っていますが、これはその3つ目です。後の2つはもっとソフトフォーカスです。ですからプラズマートとは、当時の映画用レンズの軟調に対し結論を出したものであるのは間違いないと思います。

同じ対象を距離を変えて撮影しています。遠くは割とはっきり映っていますが、近くは軟調です。しかし電灯の下あたりをよく見ると、そこははっきりしています。光が一定以上になると滲む、ということです。これは目的ではなかった筈で、別の意図が光に反映されたと考えられます。つまり目的は、主題をどう映すかということなのですから、主題が明瞭に映っていたとしても極力柔らかく捉えようとしているということです。そう設計したら、光に過敏になったということです。なぜなら、すべての対象物は光の反射を捉えているから、主題が人物だった場合、顔で反射するわずかの光を柔らかく捉えると、強い光源ではっきり出てしまうということです。ライティングで人物の柔らかさを変えることもできるのでしょう。

さらに近くと遠くの比較ですが、近いものも明瞭に映っています。しかし決して硬くはありません。この幻想的な感じがプラズマートのおそらく最大の特徴です。これが光源となると過敏に出てしまうということです。それもまた良いのですが。

柔らかくというのは埋没させる可能性もあります。しかし柔らかくも主題を引き立たせるために周辺のサポートがある、この落差が動画には必要ということのようです。

ぐるぐると流れるというのは動きを感じさせます。静止画なら不要ですが、動画なら活かされそうです。

周辺が暗いので露出は完全に提灯に最適化されています。確かに焦点はしっかりしているのですが、どことなく柔らかい、ソフトフォーカスとも少し違う、これが主な特徴でしょう。
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