写真と絵画は違いますが、そこに共通性を求めることは自然なことです。黎明期から肖像用レンズが作られていたぐらいです。もっと絵画に近づきたいということでいろんな試みがあります。最近ではデジタル処理があります。アナログではharuhisa cameraというものがあって、これはカメラ一式をレンタルします。ウィーンの人たちはソビエトのトイカメラに感銘を受け、Lomographyを設立しました。日本の感覚とはちょっと違うかもしれませんが、向こうのアートとして広く受け入れられています。
ソ連は各地に光学工場がありましたが、特に優れていたのはレニングラード、現在のサンクトペテルブルグにあったGOMZ、後に改名してLOMOの略称で呼ばれた工場の製品とされています。作られる場所の個性は不思議と製品にも反映されるもので、光学製品に関してはなぜか北の方が良いという傾向がありますね。ベルリンとミュンヘンだったら、やはり影響力があったのはベルリンでした。パリやロンドン、デルフトも北の方です。南部のラテン国はそれほどでもありません。魅力的な製品を作る光学諸都市の特徴は、海に面しているところが多いということです。海で外国と繋がっていた地域です。パリは陸ですがやはり外国文化の流入する有力な都市でした。しかし内陸だったためか独自の特徴があります。その他の沿岸諸都市が海で繋がっていた先として共通項が見いだせるのは北欧です。北欧の色彩感やデザインの影響が非常に強いということです。ダゴールの設計者はデンマーク人でベルリンの色彩感はいまだにダゴールから大きく変化していません。ベルリンも内陸でしたが、シュチェチン(チャーチルの「鉄のカーテン」演説で有名)を海の玄関口としてバルト海に通じていました。スウェーデン・ヨーテボリにあるハッセルブラッドのレンズはツァイスですが、しかしハッセル用レンズというのは他とは全然違います。幸福感に満ちたパステル調の描写でまさに「結婚式専用」と思わせるような写りです。秘製のコーティングを使用しているためでしょう。創業者のヴィクター・ハッセルブラッドはネイチャー、特に鳥類の撮影の分野でも画期的な成果を残しています。北欧の自然が独特の色彩感覚に影響を与えたのは間違いありません。オーロラや氷などが与える印象です。
サンクトペテルブルグはどうなのでしょう。ロンドンもそうですが、共通する独特の艶があります。割とコントラストを強くする傾向ですが、硬いに留まっていない魅力があります。この感性も北欧の影響でしょう。では、ソ連の他の海の玄関口はどうなのでしょうか。北極圏を除けば3箇所あります。ウラジオストクは陸でも中国へ、海では日本へも繋がっていますが、文化的な影響はないように思います。人が多く住み始めた頃にはソ連が日中双方と関係が悪かったからではないかと思います。クリミア半島からはボスポラス海峡を抜けなければ地中海に出られません。どこかと深い文化的繋がりを感じさせるものはありません。しかしサンクトペテルブルグはロマノフ朝時代から外国との繋がりがありました。ですからロシアの文化について語れるのはここぐらいです。やはり文化には国際都市という側面が必要なように思います。ですからレンズのようなものを作るにも相応しい都市だったのでしょう。
どのメーカーも傑作と言われるような玉ばかりではないので、本当に歴史に残るようなものというのはそれほど多くありませんが、良いものの1つにLOMOのCMEHA、またはSMENAとも表記される安価なカメラに付いていたトリプレットがあります。これがあちこちの中古カメラ市場で見つかるほどたくさんあります。マウントを改造しているものも少なくないので、その場でデジタル撮影して試すこともできます。確認用カメラを用意している販売店もあります。とにかくロシアの玉というのは写りが寒々しいので関わりたくないと思っていたところに個体があまりに出るので、それなら試すかとなって店頭などで撮影します。そして思わず無言になります。これがなかなか良いのです。ゲルツ・ハイパーがベルリンを代表するトリプレットだったら、サンクトペテルブルグのそれはこれでしょう。
ソ連の他のレンズも店頭で確認しますが、基本的にいずれもそんなに大きな違いはありません。ソ連製として一貫したものがあります。それでもトリプレットは特にロシア人と好相性のようで、他の構成なら几帳面に写りすぎて魅力が損なわれることもあるような気はします。メーカーによって強いレンズ構成というものがありますが、おそらくそれはほとんどガウスです。それ以外が得意というメーカーは特殊で、上述のゲルツはダゴールだし、パリのエルマジならテッサーとか4枚物、中国もトリプレットが良いのではないでしょうか。LOMOでトリプレットというところが重要のような気がします。
LOMO SMENAはレンズ交換式ではないので外してマウント改造、或いはレンズ単体でも出ていました。最近のミラーレスであればマウントさえ合えば問題ありませんが、レンジファインダーでは測距は目測になります。計算値では開放f4にて距離を14mに合わせれば無限から7mまで合焦します。8mに合わせると5~20m、5mなら4~8mです。目測では近いものは合わせにくくなります。周囲の視界や構造物の影響で目視での距離感が狂う傾向があるので、自分の身長との比較で推測する方が確実と思います。
合わない例からで申し訳ないですが、こういう色はどちらかというと苦手なのではないでしょうか。元の色と乖離があるわけではありませんが、なんとなく冴えません。その理由はおそらく白に現れている気がします。歩道はこんなに白くないように思います。ロシア物特有の色彩感(収差)なのでしょうか? この点をもう少し見ていきます。
この画に現れている赤や緑はかなりはっきり発色しています。自然は苦手なのでしょうか。サンクトペテルブルグにはこういう風景はないのでしょう。
石やコンクリートのようなものは、白がグロテスクに出やすいので不自然に"石感"が強調される傾向です。
こういうものは合います。実際に肉眼で見ると、色彩がボヤケて緑のドアが意外と溶け込んでいます。しかしここでは少し明確です。曖昧な色彩の重なりあったものは表現力を発揮するようです。ストリートビューのスクリーンショットはこちらです。
花壇というのは彩りが華やかになるようにバランスを考えています。ですからそこが強調されて何かおかしいです。
こういう人工光は美しく出ます。ロシア風の雰囲気もあります。
中央ヨーロッパ風の庭園です。具体的にはアルプスより東という雰囲気です。文化的に近いので合うような気はします。ビビットな感じ同士で合うのかもしれません。
古いキャノンのレンズのような写り方をします。共通点はあるような気はしますが気のせいでしょうか。ボケ具合も似ています。
少しずつ暗くなってきているので人工光が増えてくると好相性です。サンクトペテルブルクがかなり北にある都市なので太陽とか自然の豊かさというものを表現するようにはできてないように見えます。もっと曖昧な、パステル調のような色彩を幾分映えるように表現し、石造ビルの多い町並みにも構成感を与えるようなそういう表現になっているのでしょう。
白がしっかり出ると赤も映えます。
西洋城塞のような硬質のものも、少し白いマシュマロを混ぜたような表現になります。
色彩感の面で特に特徴があるとは思いませんが、光をくっきりと明瞭に表現する特徴は感じられます。
人工物の表現は得意のようです。機会があればビルの多いところでもテストしたいところです。