無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

レンズ設計の為の本

設計するなら読む本、しなくても読む本 - 2012.07.08


 写真レンズの設計は世間のほとんどの人にとって縁のないものです。現在販売されているデジカメは価格.comに現在リストされているもので380機種、単体レンズは857種あります。そのうち、同じ設計のレンズもマウント違いでそれぞれありますので、実際には種類はそれほど多くはありません。さらに作っているメーカー毎に設計チームがあるとすれば、実際に設計に従事している人は非常に数が少ないということになります。極めて特殊な職業です。おそらく世界で数十人というところです。しかし工業、軍事などを含めればもう少し多い筈です。

 それでも「自分には関係ない」と言わず、趣味で設計して理解を深めてみようとか、実際に特注で作ってみようという場合があるかもしれません。そんな時に役に立ちそうな本をご紹介してみたいと思います。

写真レンズの歴史 - キングズレーク著
 「キングズレークの本」というとたいていはこれを指します。非常に優れた本です。設計についてたくさん言及されていますが、設計を学ぶ為の本ではありません。設計師にとっては過去の遺産を知るのに有益ですし、オールドレンズが趣味の人にあっては豊かな世界のレンズに対する見聞を広めるのに役立ちます。こういうレンズの歴史の全体像が纏められた本は有益です。オークションなどで出てくる不可解なレンズについてもキングズレークの本を読んだ後であれば、だいたいどういうものかわかるようになります。ということでオールドレンズ愛好家にとっての"バイブル"として本書を認定したいと思います。

レンズ設計の原理 - ベレク著
 これは本格的なレンズ設計の本です。数式がたくさん出てきます。今はパソコンで設計できますので、こんな数式がわからなくてもレンズの設計はできます。それでもこの本は特別です。なぜなら、ライカレンズの初代設計師マックス・ベレクが書いた本だからです。この本から彼の設計思想を読み解くことができるでしょうか。「ザイデルの三次の収差論」の中で8個の空気に触れている面を持つアナスチグマットとしてルドルフが1922年に設計したキノ・プラズマートを例に挙げ、設計図と構成データまで添付して分析を行っています。その直後に6個の面を持つレンズの例として自身が1929年に開発したヘクトール3群6枚を掲載しています。ルドルフがどうして特定の収差を導入しているのか、それに対して自身の設計がどうして優越しているかについて論じられています。クセ玉同士で優劣? 苦笑せざるを得ませんが、かなり上段に構えてやっているのが時代を感じさせます。本書は元々小冊子として販売されたものの翻訳なので、内容の物量は決して多くはありませんが、発見の得られる興味深い本です。

レンズ設計のすべて - 辻定彦著
 この本は一口に言うとレンズのデータ集です。古典1枚玉から始まって様々な構成のレンズに及び、後半はデータベースが延々と続いています。辞書のような本と言えるし、設計を順を追って勉強するための本とも言えます。読むところよりもデータの方が圧倒的に多いです。この本の副題は「光学設計の真髄を探る」です。確かにこれだけの量、過去の偉大な設計師たちが出してきた結論を目の当たりにすれば真髄を体得できそうです。故きを温ねて新しきを知るための非常に有用な本です。

カメラマンのための写真レンズの科学 - 吉田正太郎著
 設計はしないけれど、専門のカメラマンと名乗るからにはレンズについて十分に知っておきたいと考える向きのための本です。レンズの設計書と言えば、収差について論じられるのが普通ですが、本書ではそれ以外にも製造法についてまで記載があります。過去に実際に設計されたレンズの構成図も多数掲載されていますが、データについては説明の内容に関係すること以外は載せられていません。設計というより設計のための考え方が学べる本です。

欧州の古いレンズ設計書
 過去のレンズ設計を見るには特許データをあたるのが普通です。しかし、あらゆる重要なレンズを網羅しているわけではありませんし、19世紀から20世紀初頭のものとなると尚更です。写真右の本は1920年にパリで発行された本(Turrière, E. : Optique industrielle Tome I, Paris, Delagrave, 1920)で多くの重要な設計についてデータを記載しています。類書はないので貴重なものです。左は1899年に発行されたやはり幾つかデータの載っている本でこれはツァイスの設計師が著したものの復刻ペーパーバック版です。(von Rohr, M. : Theorie und Geschichte des Photographischen Objektives, Berlin, Springer, 1899) 古い時代のレンズを見ていくのにこの2書は特に重要だと思います。

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