無一居

空想のレンズを作ってしまう「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

ダゴール的トリプレット ヘリアー「清麗」T3

2015.11.19

ダゴールのような厚みのある表現はヘリアーでも得られる

 英国で開発されたトリプレットは極めて優秀なレンズでしたが、それは英国の極めて優秀な製造技術を以て成し遂げられるという条件がありました。大量生産において若干の綻びが見られようとも、その構成の簡潔さから幅広く使われていました。コスト面が1つ、別の面はトリプレットの個性を弱点と見做すのではなく善用していこうという方向性があり、主に肖像写真に利用されました。トリプレットの性能を高めるために製造技術を向上することによって克服するという考えは最も選択の難しいものであったと思われ、その代表的なものはライカのトリプレット・エルマーです。しかし純粋に性能という観点から見ればレンズ構成に何らかの改良を加える方が実際的であり、この方向性はかなりの亜種を産み出しました。その一つがヘリアー型でした。開発者はハンス・ハーティング Hans Hartingというフォクトレンダーの設計師でした。彼が最初に設計したデータ (独特許 DE124934)は特許申請されていますので今から見ていきたいと思います。

ヘリアーの光学図
ヘリアーの縦収差図
 はい、確かにトリプレットは優秀になりました。画角も広がりました (58度,40mm f4.5)。だけどこれではカチカチの描写でしょうね。しかし性能的には問題はありません (古い設計なので色収差はここでは検討されません)。だけどこの構成は満足されず、以降も継続して改良が進められていきます。何が気に入らなかったのでしょうか。歪曲が多過ぎると思ったのでしょうか。問題は性能ではないのは明らかだと思います。

オクシンの光学図
オクシンの縦収差図
 レンズの曲率を1箇所逆にしてハーティング自身によって改良されたオクシン Oxyn (米特許 US766036)です。50mm f4.5です。より完璧になりました。歪曲もこれだけ減ったら十分でしょう。しかし光線を見ると端が合焦していません。若干コマ収差があると思います。絞りをもっと下げれば合ってくるのですが、もう0.1mmしかなくこれ以上は無理です。いずれにしても問題はそこではない、産業用でも機械で読み取ってデータを使うというようなものならいいのかもしれませんが、何がしか人間の目が関わってくるような使い方であれば、こういうものは嫌われると思います。だけどヘリアーは1900年、オクシンは1904年の設計ですから、この頃はこういう感じですね。良いものもあるのですが。

 この後、ヘリアー型は様々な設計師によって利用されますが、特に評判が高かったものとしてダルメイヤーのペンタック (米特許 US1421156)がありますので確認してみましょう。

ペンタックの光学図
ペンタックの縦収差図
 英ダルメイヤーも結構堅いレンズを作る会社というイメージがありますが、これは確かに良さそうです。ハーティングもこういうレンズを作れば評価されていたと思います。50mm f3.0を達成しています。

 もう一つ評判が良いのが米コダックのフレッド・アルトマン Fred Altmanによるエクター Ektar (米特許 US2279384)です。4種の設計が載っていますので全部確認してみましょう。

エクター1の光学図
エクター1の縦収差図
 1つ目は75mm f3.3です。

エクター2の光学図
エクター2の縦収差図
 2つ目は100mm f4.5です。

エクター3の光学図
エクター3の縦収差図
 3つ目は120mm f3.5です。

エクター4の光学図
エクター4の縦収差図
 4つ目は100mm f3.5でした。いずれも確かに良さそうです。個人的には1つ目の75mmの分ですが、これに収差が2つ目に近いものが良いように思います。

 コダックが望遠レンズを設計するのにヘリアーで固めたのはどういうことでしょうか。しかもいずれも量産されていたらしいです。これぐらいの望遠レンズに対してはテッサーとか、エルノスター系を使うことが多いと思いますが、ヘリアーとなるとガラスの厚みを増していって濃厚さを重視していく考え方になると思います。確かにその方がエクターらしいですね。

 そして50年代にアサヒフレックスが出た時についていた標準レンズもヘリアーでした。厳密にはこれはオクシンですね。タクマー Takumar 58mm f2.4です。

タクマー 58mmの光学図
 標準レンズですから50mmにしたいところを58mmです。そこで妥協しても使いたかった設計、58mmというのはそういうのが多いので名レンズもまた多いように思います。これは言われなければダゴールに見えるような写りで撮れます。ダゴールは貼り合わせが多い、画角に関してはアンギュロンの例があるので何とかなるのはわかっているのですが、厚みを稼ぎたい方向であればヘリアーの方が貼りも少ないし、理に適っているように思います。歴史的に見たらこのアサヒか、ライカのヘクトール 28mmがヘリアー型の傑作だと思います。最近のコシナもヘリアーに関しては幾つかラインナップしていますが、これもかなり考えてのことだと思います。日本文化にはこの種のレンズは好まれるような気がします。

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