無一居

空想のレンズを作ってしまう「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

オランダの巨砲
肖像用デルフト「香箋」G7 75mm f1.1

2015.11.20

オランダの巨大肖像鏡

 ドイツの医療関係のレンズは、戦前はアストロ・ベルリン、戦中以降はオランダのデルフトに引き継がれたらしいというお話はゲルマンの巨砲 タホン「醉墨」E2 85mm f1.25で触れました。そこでアストロ・ベルリンと同様、デルフトも特許を公開していること、デルフトには医療用レンズのデータもあることについてもお話ししました。いずれもデルフトの設計師 ヨハネス・ベッカー Johannes Beckerによって公開されていますので今から見ていきたいと思います。それではまず医療用の方から見ていきます (米特許 US2978957)。

医療用デルフト・ゾナーの光学図
医療用デルフト・ゾナーの縦収差図
 2種類のデータがあるのですが、1つ見るだけで十分でしょう。f値は0.7と凄いものですが、画角は15度しかなく、これは焦点距離50mmにしていますが、バックフォーカスは2.2mmしかありません。こういう構造になっているのは空気による減衰さえもカットしようということなのかもしれません。そこまでやっておいて色収差は残しています。残していると言うほど多くもないですが、決して少なくはないと思います。この種のレンズは淡いパステル調で写りますが、それはこの色収差によるものと思われます。レントゲン用は色収差で画を和らげる必要があるのか、アストロ・ベルリンから引き継いだと思われる伝統を堅持しているのは興味深いと思います。

 それでは次に肖像用のデータが2種類ありますので、こちらは両方見ていきたいと思います (米特許 US3357776)

デルフト・ガウス 65mm f1.1の光学図
デルフト・ガウス 65mm f1.1の縦収差図
 1つ目はf1.1のデータです。画角が40度ですので焦点距離は65mmと致しました。

デルフト・ガウス 65mm f0.95の光学図
デルフト・ガウス 65mm f0.95の縦収差図
 2つ目はf0.95です。同じく65mmです。しかしこれは実際にはf0.95には達していないと思います。f1.0でもギリギリという感じです。しかしf1.0とか、もう少し下げてf1.1にしますと、絞った状態になって収差は減りますので、それでは成立しません。f0.95は無理があるものの、限界はここまでということで示したのかもしれません。そのためのf1.1であって、もしf0.95で問題なければf1.1の記載はなかったと思います。

 バックフォーカスによって用途が決まってくるので、それに応じて収差配置も違うことがわかります。似たような大口径ではありますが、医療用と肖像用ではだいぶん考え方が違うということです。そこでこのデルフトの設計とアストロ・ベルリンのものを比較しますと(ゲルマンの巨砲 タホン「醉墨」E2 85mm f1.25参照)、大きな違いはやはり球面収差と色収差だと思います。お互いよく似た巨砲ですが、描写はたいぶん違ってくるのは間違いありません。デルフトと同時代のドイツメーカーは歪曲を逆に振っていることが多いので、そのあたりでドイツとオランダの個性の違いが出ているのかもしれませんが、それでも50,60年代欧州のスタンダードを踏襲したものであるとは言えると思います。アストロ・ベルリンは戦前の文化を反映したもので、20年代ベルリンの雰囲気を表すものだと思います。

 デルフトにはさらに50mmのものもあり、そちらはf1.3ですが、この65mmのものとそんなに変わりません。50mmは1961年3月、65mmは1967年12月ですから65mmの方が改良版ということになると思います。口径を大きくしてその代わり画角は犠牲になっていますが、これは本当のところ、画角を犠牲にしたのではなく肖像用に練り上げたものだと思います。古い方50mmのものは収差がより多く、標準画角でボケ味を楽しむ意図で配置されている、この収差は簡単に減らせるのですから意図的であるのは間違いないですが、大口径ならではの味を濃くしたものであるのに対して、65mmはもっと真面目に肖像用のために結論を出したものだと思います。そうしますと65mmでは短過ぎるような気がします。せめて75mmぐらいでどうなのか、それと90mmで順番に見てみたいと思います。

デルフト・ガウス 75mmの縦収差図
デルフト・ガウス 90mmの縦収差図
 一応、このあたりの画角であればどれでも使えるように作ってあるみたいですね。さすがです。一番良いのは75mmのような気がします。

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