無一居

空想のレンズを作ってしまう「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

筆のタッチを写真で表現する ダゴール
「朦月」D1 50mm f6.3

2014.04.05

20世紀初頭のアールヌーボーの影響が感じられる

 ダゴールについては、古典的ドイツ光学の源流地を辿る7を参照して下さい。本稿では、エミール・フォン・フーフ Emil von Horghによって発明され、後代に多大な影響を与えたダゴールの初期の設計を確認していきます。ダゴールはコーティングのない時代の設計なので貼り合わせが多くなっていますが、後に貼り合わせを剥がしていくようになり、オルソメター、ダイアーリト、ガウス、プラズマットなど多様で有力な傍流を生み出しました。今では優秀なコーティングがあるのですからダゴールはすでに過去の設計の筈ですが、ゲルツではこれが今でも製造されています(シュナイダー傘下のゲルツ・アメリカによって)。しかし大判用のものが主でもっと小さいフォーマットではないので、なかなか一般的にこのレンズを楽しむというわけにはいきません。大判を使うぐらいのユーザーは相当なマニアかプロで、そういう人たちが求め続けるレンズということですからどれぐらいのものなのか想像できますが、それが手軽に使えないのは残念です。もっとも、こうして残念がる人は稀ですから販売されていない訳で、それだったらなくてもいいのかもしれませんが、こういうことを言ってもしょうがないので、とりあえず習慣通り、フーフが設計した原典を見ていきます。原典と改良版の2種のデータが残されています。

ダゴール原典版の光学図
 1つ目はフーフが最初にゲルツに持ち込んだと思われる原典版で、特許が申請されていますのでそこから数値を確認できます (独特許 DE74437)。そこには焦点距離240mmで記載されていますので、100mmに計算しなおしたものを使います。データはエミール・トラオレ Emile Turriere著 Optique Industrielle No.121に所収されており、そこには240mmと100mmのデータが上下に記載されています。口径を増した改良型も載せられており、次のNo.122にもう一つの設計があります。

ダゴール原典版の設計値
 分散だけ載っていませんので、最近のガラスのデータに合わせて代入しましたが色収差が盛大に出過ぎます。とりあえず、全部同じにするとだいたい収まったのでとりあえずはこうしておきます。そして色収差は出ないように消しておきます。

ダゴール原典版の収差図
ダゴール原典版の収差値
 ダゴールは背景に硬いチリチリが出ますので、この補正され切っていない非点収差が原因かもしれません。これがまた良かったりするのですが、後にこの問題は解決されることになります (ダゴールの最終進化形 幻のドグマー「湖楼」X4 50mm f2.0参照)。

ダゴール・シリーズIIIの光学図
 2つ目は、シリーズIIIとして販売されたものの設計値です。口径はf6.75に向上しています。

ダゴール・シリーズIIIの設計値
 分散はこれもありませんので、色収差についてはここでも検討を避けることにします。

ダゴール・シリーズIIIの収差図
ダゴール・シリーズIIIの収差値
 原典版と違うのは、球面収差をプラスに変更したことです。それにしても少し大胆過ぎる気はしますが、当時はこんなもので良かったのでしょう。

ダゴール・グランド・アングルの光学図
 3つ目は、後群だけ使うと画角が90°になるグランド・アングル版です。

ダゴール・グランド・アングルの設計値
 細かく修正されているだけで大きく変わるところはありません。分散についてはこれも同じです。

ダゴール・グランド・アングルの収差図
ダゴール・グランド・アングルの収差値
 収差については、この方が整っていると思います。球面収差についてはプラスとする方向で落ち着いたようですが、それは肖像写真用として使われることを念頭に置いたためのようです。風景用としては前群を外して撮影すべきという考えのようです。風景用は確かに画角は広がりますが、口径は非常に小さくなります。

 ダゴールは、ツァイスがすぐにプロター Protarとして製品投入し特許も申請しましたが、特許についてはゲルツと同じものという理由で却下されたようです。プロターはダゴール程の評価は得られませんでしたが、プロターを設計していたのがパウル・ルドルフ Paul Rudlphだったことを考えると興味深いと思います。ルドルフは第一次世界大戦後の晩年に円熟性を増してきましたので、その頃の設計であればどうだったかわかりません。しかしツァイスは戦後のルドルフの作風を評価しなかったので、状況はより複雑です。プロターの設計はここでは確認しませんが、それとダゴールを比較するとツァイスはプロターを汎用レンズ或いは風景用などと考えていたのに対し、ゲルツはダゴールを汎用ではあるが肖像用と考えていたことがわかります。どちらが正しいかというそういう問題ではありませんが、評価を受けたのはダゴールの方だったということのようです。

 ダゴールは標準画角でぜひ復刻したいレンズですが、3枚貼りというのが難しくなっているので製造には至りそうにありません。f値もかなり暗いのでそれも難点です。

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