無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

天に最も近い所から生まれた
マクロスウィター

ビビッドな発色と緻密な解像力 - 2012.07.21


 映画用のレンズは巨大なスクリーンに映すための映像を撮りますので、写真用とは比較にならないぐらい高精度です。ところが国柄というものはどうしても出てしまうのか、"個性"なんてものは入り込む余地がなさそうでありながら、そこはしっかり出てしまうのはおもしろいところです。民族の文化に対して影響を与える大きな要素は自然界に他なりません。ヨーロッパで自然と言えばスイスです。アルプスです。

 スイスの大自然を想起させるレンズというと、スイス北部アーラウに本社を置くケルン Kern社のレンズを挙げないわけにはいきません。というより、スイスには当時、他に光学会社があったかどうかわからないので、事実上これしかありません。ケルンのレンズというとマクロスウィター Macro-Switarです。同社の写真用単体レンズに限定すれば、これ以外ないと思いますので、これまた他に取り上げるものはありません。写真用ではありますが、映画用のものを転用していますので精度が段違いです。

マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8のレンズ構成図

 スイスの風景というのは独特のものがあります。行って確認しましたが、思うに光が違うような気がします。山に囲まれていていずれも万年雪を頂いています。雪がなくても山があれば光の反射はあります。当地には山の響きを使ったアルペンホルンという独特の楽器がありますが、そういうものが作られるぐらい山と撥ね返りの存在が大きいのです。富士山だけだったら、山に音をぶつけようという楽器まで出来ませんが、周囲山だらけだとできてしまうようです。ところがケーブルカーに乗って山頂に行くと、この独特感が薄れます。ケーブルを設置するぐらいなので、たいへん有名な山です。それで周囲にその山より高い山はありません。そうすると、そこの光は他国の人でも馴染みのある普通のものになります。

 この光は雪の影響を受けていますので、雪国の人には珍しいものではありません。雪があると一面真っ白ですから、遠くを見なければどこに行っても同じです。雪は国によって違うのでしょうか? 同じだと思います。違うという人もいます。天から降り注ぐ雪の結晶は1つ1つ違うことを指摘します。これは意外と的外れではないようです。「雪は違うので、スキー場にはランクがある」という人もいます。マッターホルンと白川郷の雪が違ったら、住民に対する心理的、芸術的影響も違います。この違いはレンズの違いにそっくりです。マクロスウィターはスイスのあの光の許で、あの環境だから完成されたもののような気がします。

 雪は真っ白であるゆえ、撮影者にとってもレンズ設計者にとっても難しい対象です。全くどこの雪も同じに見えなくはありませんが、実際には違いがわかる人もいます。スイス国内の雪も環境によって反射が異なり、非常に多様な筈です。雪を撮るのでも簡単ではないのに、さらに違いまで写すとなるとこれを撮影するレンズを作るのはとても難しいに違いありません。ところがスイス人は回答を見いだし、解像力を異常に高めることによって出来上がってきたのがマクロスウィターであるように思えます。写真用に精度を落とさなかったのはそのためであるように思えます。雪を頂きに据えた大自然、そしてその雪が解けて消え去るまでも美しく記録に留める、その高い光学性能によってモンテ・ローザの峰々ように全欧州の頂にあるのがマクロスウィターなのです。否、マクロスウィターが頂にあるのではなく、最も天に近い場所を写すのがマクロスウィターなのです。

 ということで、ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8で撮影を行うにあたり、北京市内で天に近いところを探さないといけません。北京は巨大な平地という類い稀な条件の場所なので、高いものというとビルぐらいです。これではおもしろくありません。故宮の北側には「景山公園」というのがあって、ここには小高い人工の山があります。皇帝が崩御すると遺体が山の上に運ばれて安置されたと言われているところです。これもおもしろくありません。ただの丘ですから。高くておもしろいところがないならどうしましょうか。天の反対に行ってみましょう。地下? 海底? と来れば「富国海底世界」です。水族館です。工人体育館の地下にあります。昨晩はこんなことがあったばかりです。行っても大丈夫でしょうか? まあ、だいじょうぶでしょう。有名ですが行ったことがなかったということもあったので、ちょっと見てきました。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 海底世界の通路
 水族館ですから子供がすごく多いです。親に連れられて来ていますが、暗いのでよく見ないとわかりません。暗い海底に潜るイメージですから、青い光、白い服は蛍光のような光り方をするようなライトを使っています。マクロスウィターの色彩感覚がよく活かされています。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 水槽の中を撮る女性
 "海底"と思われる付近に到達すると小型の水槽がたくさんあっていろんな魚を見ることができます。記念撮影等も交えつつ、魚もアップで撮る人がたくさんいます。室内は非常に暗いですが、水槽は明るくして目立たせています。ライトの色は極めてニュートラルです。マクロスウィターではこういうクセの少ない人工光を浴びた時の発色が一番美しく出ます。この辺はやはり本来映画用レンズだったということを思わせます。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 海底世界の水槽
ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 魚を撮る少女ら
ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 小魚の大群
 海底世界におけるメインコンテンツとも言える「ガラスのトンネル(正式名不詳)」です。水というのは透明ですが、イメージは青です。それで青いライトをふんだんに使う演出で「青い海」を再現しています。青を浴びると色彩は落ち着きます。パステル調に近い写り方になります。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 喫茶コーナーの水槽
 出口に休憩所があり、そこにも水槽が置いてあります。大きさは家庭用ぐらいですが、ライトと照らし出されている魚は豪華です。このエリアだけ黄色のライトを多用しています。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 魚のマクロ撮影
 マクロスウィターはマクロレンズですから、黄金に輝く魚を撮ってみます。意外と逃げますので、しばらく格闘していましたが、気がついたら他所の子供が口を開けながら見上げてこちらを眺めていました。ついでに撮ってやろうと思ったら、走って逃げました。ガラスを通しての撮影ですので、レンズの特徴を見るには至りません。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 水族館のゲーム機
 併設のゲーム台まで魚関係です。しかし大砲や網で魚をやっつけます。魚は泳いでいるだけです。こういうものを水族館に設置してもいいのでしょうか。愛護精神とか、そういうことではなく、魚は食べるものという認識のようです。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 珈琲庁
 こういう光でもかなり鮮明に写ります。変な癖も出ずに割と普通に写ります。コントラストは高めです。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 三里屯の屋外カフェ
 暗い環境ばかりでいささか物足りなさがありますので、すぐ近くの三里屯というところに行きます。カフェがたくさんあるショッピング街という感じのところです。ガラスを介した描写はとかく曖昧になりやすいですが、解像度を高めるとそういうものも綺麗に写るようです。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 ポーズをとる娘と写真を撮る父
 日曜ということで親子での散歩が多く見受けられます。シャープネスよりもコントラストが高い方が際立っています。色乗りがこってりした感じです。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 アップルストア
 中国アップルストアの一号店はここか、上海の南京東路のどちらかです。ガラス張りなので、かなりの賑わいなのがわかります。製品など撮影をしてはいけないので、外からこのように撮影していても私服警備員が来ます。しかし人を撮っていたためか何も言われませんでした。そこでこれをみせました。なぜかうれしそうでした。ガラスに反射して虹のように何かが写っていますが、これも奇麗に出ています。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 ベンチに腰掛ける他人
 三里屯は北京で最もファッショナブルなところの1つなので、望遠レンズを付けた多数の人が一列に並んで通っていく女性を撮影します。カメラマンには女性もいます。これは仕事で、ゴシップ関係の女性誌に載せます。「最近の街のファッション」などと題して掲載しては、ジョークを交えたコメントをします。左の女性は後でたまたま見たら標的になっていました。というより、これでは標的になりにいくようなものです。発色はビビッドに捉えられており樹木の色合いですら現実離れした感があります。こってりした色彩が出ますが、それほど強くもないといったところです。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 子供と話す親
 毒気の感じられる色彩感です。光の廻り具合で強く出ることもあるようです。しかも写りが安定的ではありません。収差の影響が感じられます。マクロスウィターのような優秀なレンズとしては珍しいことです。しかしこのレンズを"魔物"と呼ぶ人もおり、幾つかの偶然が重なると化けて違う表情を見せると言われます。もともと映画用のレンズですから、映画向けの収差を隠し味的に僅かに入れていると思われます。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 石と板の床
 割と近いところを撮っていますが、f1.8にしてはパースペクティブが広いような気がします。これもやはり映画用だったからでしょうか。

ケルン Kern マクロスウィター Macro-Switar 50mm f1.8 通りを見る
 屋外でも人工光が支配的になる環境では濃厚な雰囲気になります。フランスと南ドイツの個性を合わせ持った感じがあります。

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