無一居

空想のレンズを作ってしまう「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

ズミクロンはライカレンズの分水嶺5

ベレクの築いた伝統との関連性 - 2012.10.20


ライツ ズミルックス 35mm f1.4
Leitz Summilux 35mm f1.4

 

 ズミクロン Summicronは主にf値が2のレンズの呼称として使われていて、それより明るいf1.4あたりのレンズにはズミルックス Summiluxという名称が使われています。lux(ラックス、ルックス、明るさの単位ルクス)とはラテン語で「光」という意味なので、より明るいということを指していると思われます。現代のレンズであればf2は暗いと感じられるかもしれませんが、一方でf1.4ともなると現代でも贅沢なレンズの部類に入るかもしれません。設計製造組立もより困難になってきますので微妙な失点の積み重ねが発生していって、そのためにズミルックスのパフォーマンスはズミクロンに劣ります。事実、60年代のズミルックスはボケ玉として知られており、この特徴を好むか好まざるかで個人の評価が変わっていました。これを使う人は開放で撮影し収差を露にした状態で使用することを好んでいました。

 ということで本稿では、1964年製のライツ・カナダ Leitz Canadaが製造したズミルックス Summilux 35mm f1.4がありますので、これで描写を見ていきたいと思います。ベレクの弟子マンドラーがカナダ支社に異動した後に設計したものとされています。この個体は「メガネ付き」と言われるものでライカM3に35mmファインダーが付いていないので、距離計と共に拡大鏡で補うもので、M3以外では使えません。メガネはネジ2本を取れば外せますが、そうしても距離計には合いません。そこでメガネを付けたままにし、アクセサリーシューには50mm単体ファインダー、ポケットに単体距離計を入れて撮影することにいたしました。もっとスマートな方法としてはアクセサリーシューに距離計、そしてメガネを外して内蔵ファインダーを使うというものですが、ライツの単体50mmファインダーは見え方が素晴らしいということと距離計をカメラに載せて計ると人から写真を撮るということが気付かれるので、浅ましくもあらかじめ距離を測定しておき、レンズの距離を合わせた後、1秒以内に撮ってしまうという方法でいくことと致しました。f1.4で全部撮りたいということで夕方の時間帯を選び、近所の西直门(xi-zhi-men)から车公庄(che-gong-zhuang)に至るまでの撮影するメニューで行きたいと思います。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 西直門全景
 まずは開放無限遠で西直門界隈の今の姿です。トレードマークのビルが見えます。手前は北京北駅で旧満州(こちらでは東北地方と呼んでいます)や蒙古に行くのはここから出発です。開放でも特に問題は感じません。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 夕日
 夕日の位置を確認しておきます。レンズの色彩は幾分淡調なので、実際に肉眼で確認した感じはもっと赤いですが、落ち着いた濃度になっています。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 凱徳MALL
 トレードマークのビルは百貨店です。ブランド品や高級料理店が入っています。レストラン重視というところ、そして地下に必ずしも食料品売り場があるわけではないというところが日本と違います。この百貨店には食料品が地下にあります。しかしスーパーです。中国のデパ地下はスーパーなのです。控えめに見ればまずまず安定した写りですが、ズミクロンのような切れ味はありません。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 麻辣誘惑
 レストラン重視の重み付けは外側を見ればわかります。広告は何のレストランが入っているかわかるようにはっきり掲示してあります。絶対に欠かすことのできないコンテンツは火鍋です。何を食べるか、女性が決定権を持っているということ(というより、この方面での男の考えやアイデアは乏しい)そして彼女らに絶対的な支持を得ているのが火鍋だからです。これがない百貨店を探すのは極めて困難です。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 溝のフタ
 後方へ至るボケは硬質です。これぐらいであれば画面が引き締まって良いと思います。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 自転車置き場
 手前の自転車から後ろのバスまではかなりの距離ですが、ニュートラルなボケ具合で使いやすそうです。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 座る女性
 ピントを外しており、鉄柱を止めてあるボルトあたりに焦点が合っていますので、直近の後ボケが確認できます。微妙な柔らかさに品が感じられます。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 精品購物指南
 前へのボケはあまり使い勝手が良いとは言えそうもありません。丸々した質感でソフトフォーカスをかけたようです。このソフトが画面全体に僅かにかかっているのであれば統一感があっていいのですが、前のボケだけソフトだと全体的に違和感が出てきます。ボケ玉と言われるのはこのあたりに理由がありそうです。ピントを引付けて手前から流すか、こういう構図は避けるのが良さそうです。とはいえ、この程度であれば問題視する程でもありません。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 バス亭
 バス亭と手前の駐輪は距離がありますし、自転車は撮影地点から近いのでボケが激しくなっています。対象と意図によっては、ピントを完全に後ろに飛ばして、このボケを利用するということも考えられます。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 百貨店の中1
ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 百貨店の中2
 こういう場所は意外と明るそうでそうでもなかったりするので、f1.4もあればかなり撮りやすくなります。パースペクティブが狭くなりますので、ボケた部分もかなりありますが、滲みが激しくなっている部分も見受けられます。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 敬請期待
ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 手表代言人
 この2枚は中央付近に合焦していますので、その前後は微妙にボケているわけですが、これだけシンプルな素材であれば、ボケは前後共に使えます。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 広告ラック
 後ボケは秀逸で言うことはありません。対象は立体感をもって捉えられていますが、ボケにもその特質が見られるのは好ましいと思います。合焦点は浮かび上がるようで、まるでシネ用レンズのような感じさえします。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 梅蘭芳大劇院
 京劇用の劇場です。中は一回だけ入ったことがあります。ホールの状態が西洋風なのですが、どこもこんな風に改装されていって中国の古典的な劇場は無くなっていく傾向にあるように見えます。日本であれば歌舞伎専門の劇場を建てますが、中国では西洋の劇場に変えていっています。古い建物はまだそのまま使っていますが、いずれにしてもスピーカーを多用した演出で、生が聞けるところはもうないかもしれません。夜の光量の少ない環境、開放絞りでこれだけ撮れれば上等と思えます。普段古いレンズばかりを使っているからこう思うのかもしれません。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 梅蘭芳大劇院の広告
 上演は頻繁にあるので、予定されている演出(上演をこちらでは演出と言います)はカラーポスターで掲示してあります。写真を写真で撮っていますので発色に難有りですが、この味わいもまた好いかもしれません。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 梅蘭芳大劇院の本屋
 非常に上品な人々の密度が高いエリアです。その他は、服務員と成金的な感じ、この3種の人種以外は見受けられない場所です。しかし最近の中国の成金は落ち着きを感じさせるようになってきて派手さは収まってきている傾向はあります。「あなたのカメラはどこに売っていますか」ぐらいは聞いてきます。あれこれ言って「これよりもっと良いのは中国でも買えるね」と言ったら発音がおかしいので「日本人ですか」となって話が違う方に行きます。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 梅蘭芳大劇院のホール
ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 反射して見えるシャンデリア
 後ボケは率直だった筈ですが、これを見るとそうではありません。滲みが激しいので、こういう場合は絞った方が良さそうです。

ライツ Leitz ズミルックス Summilux 35mm f1.4 夜のネオン
 光量がそれ程多くはなく、近いものを撮ると滲みは気になりません。

 レンズというものに対してあまり特殊な?期待を抱かなければ、これ一本あれば他は要らないのではないかと思えます。それなりに写るし、一歩控えた品もありますので、単に写りが良いだけのレンズとは全く違います。十分に写真の醍醐味を味わえます。ライカのレンズとしては、ノクチルックスというもっと明るいレンズ群もあり、ズミルックス以上に高価ですが、これらは何か特別な理由がない限りはやめておき、もし何か1つに絞るならズミクロンf2を購入すべきです。ノクチルックスを購入できる経済力があるなら、ズミルックス、ズミクロンも全部買えると思いますので試して見て下さい。ズミクロンが最も深い満足感がある筈です。ズミクロンも時代によって設計変更されていますので、すべての世代を確認して見て下さい。50~60年代のものが最良の筈です。最新で高価なものが良いとお考えであったのであれば、その概念は崩壊するでしょう。巨匠たちがズミクロン50mm f2を好むのにはそれなりの理由があります。彼らは何時でも「これが欲しい」とライツ社に電話一本すれば何でも$0で貰えたわけですが、それなのに古いズミクロンを使い続けていたのですから。

戻る  コラム  続き

  無一居Creative Commons License
 Since 2012 空想のレンズを作ってしまう「無一居」 is licensed under a Creative Commons 表示 2.1 日本 License.