無一居

空想のレンズを作ってしまう「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

幾何学計算に基づいた世界初のレンズ1

人物撮影用レンズについて - 2012.07.19


 "写真レンズ"というと昔は人物撮影専用、それと風景専用の2種類がありました。人物撮影の方はシャッター速度が求められ画角は望遠系となりますが、風景のそれは広角でf値は暗いものでした。人物撮影用のレンズは、基本的に風景用レンズを2つ離して置く方法で着想され、職人が経験に基づいてガラスを磨いて作っていました。しかしさらに高性能なレンズを作るためにウィーン大学の数学教授ペッツバールがオーストリア砲兵隊の協力を得て幾何学計算に基づく初めてのレンズを開発しました。1840年のことでした。その後まずフォクトレンダーによって発売されたものが好評され、後に広くコピーされて同型の多くのレンズが作られるようになっていきました。これは今日では「ペッツバール型」と言われ、同様の設計はプロジェクターのレンズなどに今でも使われています。

ペッツバールレンズ構成図
 このレンズは真鍮の鏡胴に収められ、外側にメーカー名が筆記体で記載されていることが多く、ほとんどのレンズに焦点距離と明るさは書かれていません。メーカー名の記載がないものも多数あります。ペッツバール型レンズを製造していた初期の主要メーカーのリストがキングズレークの本に載っていましたのでここに掲載しておきます。

ブラス鏡胴の絞りスリット

 このレンズはダゲレオタイプのカメラで撮影されるためのもので、板に固定するためのマウントがあります。ラック&ピニオン式と呼ばれる対焦機構が付いている特徴があります。ダゲレオタイプは銀版写真とも呼ばれ、銅板の上に銀メッキしたものに薬剤を塗ってそこに写真を焼き付けていました。主に肖像写真館で業務用に使われ、撮影する人数によって距離と絞りを変えていました。絞りは真ん中に穴の空いた札のようなものをスリットに差し込んで調節しました。今日入手できるレンズのほとんどは絞り板を紛失しています。

ダゲレオタイプ時代の風景レンズ
 風景用はよりコンパクトで、ターレット型の絞りが付いています。

 ここで作例をご覧いただきますレンズはフランス・ダルロー社のペッツバールレンズで絞り用のスリットがありません。ただメーカー名の記載があるのみで、実際には5.5"(135mm前後)F3ぐらいというスペックです。絞りがないのでスライド投影用と思われますが、この当時のものであれば撮影に使っても特に問題はありません。絞りは開放しか使わないのでこれも構いません。焦点距離はこれだけ短いものはなかなかないので、現代のデジカメで使うには重宝なものです。本来は90mm前後のものがベストですが、ダゲレオタイプは大判写真ですので90mmというと広角になってしまいます。肖像写真用は数百mmになりますから、デジタルで使うにはたいへん使いにくいものです。このフォーマットの落差があるゆえにブラスレンズは敷居が高くなっています。そういう状況ですので135mmであればしぶしぶ満足するしかありません。しかも絞りがないことでダルローのレンズが格安で入手できるわけですから、うまい落とし所を見いだしたと考えた方がいいかもしれません。そういうことで、だいぶん以前からなぜか売れずにヤフオクで出品され続けていたこのレンズを、中国で安いマウント改造屋が見つかったこともあってようやく購入に至りました。これにライカビゾフレックス用の筒を特注し撮影に及びたいと思います。

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