無一居

空想のレンズを作ってしまう「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

文化の磁力は交わって艶やかな色彩を生み出す7

ミュンヘン製のレンズで濃厚な色彩を味わう - 2014.01.10


シュタインハイル カッサリート 45mm f2.8
Steinheil Cassarit 45mm f2.8

 シュタインハイル Steinheilの標準レンズはキノン Quinonが代表とされていますがこれはガウス型で、他の光学会社と同様、もう少し暗くて安価な別のモデルも用意されています。それは一般的にはテッサー型が選ばれ、安価だからといって一概に劣るわけではなく、ライカのエルマーとズミクロン、シュナイダーのクセナーとクセノンなど優劣がつけられないのが普通です。ただ、かかっているコストと明るさが異なるだけで、それぞれの光学会社がどちらも自信を持って市場に投入していますから非常に優れているものがたくさんあります。

 そのように世界の各光学会社の標準レンズを見ていくとシュタインハイルがなぜテッサーではなくトリプレットを採用するのか不思議な気がします。レンズに対するシュタインハイル社の考えはすでに19世紀に確立されていて、それが時代を経たからといって根本は全く変更されていない、しかし一方で19世紀の土台から前進しようという面も見られるので、そのあたりが非常に興味がそそられるところです。

 シュタインハイルには、カッサー Cassarというトリプレットがあり、その後おそらくシュナイダーと協働するようになってからカッサリート Cassaritを開発するようになったと思われます。或いは影響を及ぼしたのはシュタインハイルの方だったかもしれません。いずれにしても両社は各エレメントを分厚くしたがるようになり、一般的なトリプレットだったカッサーはガラスの厚みを大きく増してカッサリートとしてリニューアルされました。リニューアルはしても貼り合わせを加えなかったところがいかにも同社らしい決定です。しかし貼り合わせを否定しているわけではなく、肖像用には貼り合わせています。

Cassarit
Cassarit

 この点で興味深いのは、カッサリート Cassaritがクルミナー Culminarとよく似ていることです。貼り合わせがあるかないかの違いぐらいしかありません。これはトリプレットとアンチプラネット Antiplanetの合成だろうと思います。アンチプラネットは肖像写真用だったので、標準汎用レンズに転用した時に貼り合わせは不要と判断されたのかもしれません。カッサリートは当時の新型ではありましたが、19世紀の設計を復活させた古い設計という面もあるということで描写の方が気になります。

 そういう理由で今からシュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8を見ていくことにします。撮影場所は今回は中国を離れて、海の向こうの世界最大の都市・東京を撮影いたします。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 東京駅
 スタートはここからです。東京駅八重洲口からまず銀座に向います。開放で遠景を撮るとあまり良くないように見えますが、これ以降の写真を見るとそうではないので、原因は別のところに求めないといけません。北京を発つ前に28mmぐらいの特殊径のこのレンズに合うフードがないことに気がつき、金属のスクラップの中から急遽適当なものを取り出して慌てて作ったものを嵌め込んでいますが、内側の反射光処理をやっていませんでした。材料は銅で削りたてですから紋を入れているとはいえ輝いています。これでは駄目でしょうね。光を受けると反応してしまいます。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 京橋
 フードはこれ以降もずっと付けっぱなしですが、正面から強い光を受けなければ問題はありません。フードがあることで光を集めやすくなるので、色彩が少し濃くなる効果はあったかもしれません。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 銀座の歩道
 シュタインハイルは白が綿のように写る傾向があるように思います。この石畳からもそういう傾向が感じられます。メルヘン調といったような感じがあります。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 銀座大紗ビル
 描写は明瞭と言えば確かにそうですが、目薬を注した後に見たような微妙な滲みがあります。やはり綿のような柔らかさがあると思います。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 銀座3丁目
 後方のボケは硬めで使いやすいと思います。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 壹眞珈琲店
 日々発展はしていても古い文化が残されていますので、独特の雰囲気があります。東京に住んでいる人は何も思わないかもしれませんが、都市全体がテーマパークのような場所は世界広しといえど、そんなにあるものではありません。パリやイスタンブールもそうですが、それでも東京程、多様性に満ちた都市はありません。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 ほうじ茶
 店頭に並んでいた茶ですから、正面から太陽の光を受けてはいませんが、人工光で少し影響を被ったかもしれません。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 築地市場
 築地市場に到着します。昼間ですが天気が悪く、本マグロの巨大看板には電気が当てられています。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 すし処おかめ
 黄色っぽい一般的な電灯があって、中央には白い看板です。白いところだけ一際柔らかくなっています。ということは青(シアン)に対して何らかの工夫がしてあると考えられます。黄色は赤と緑を混ぜたものなので、このあたり以外の部分にヒントがありそうです。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 築地の裏路地
 電灯は白と黄色が多いので、このように混じりあうこともあります。独特のほのかな雰囲気があって良いと思います。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 テレビ局の取材
 かなり大声でしゃべっている人がいますので見てみますとテレビの取材でした。このあたりは取材が多いようです。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 包丁屋
 料理に刃物は欠かせませんので専門店があります。昭和ぐらいから何も変わっていないような雰囲気です。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 浅草雷門
 日を改めて、浅草の有名なところへ行きます。ここは寺ですので、このゲートを超えると参道があって、つきあたりに本殿があります。こういう構造は中国の道教寺院に共通するものがあります。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 雷門前
 日陰でしたが、白濁があります。白或いは青の多い図なので、こうなるのだろうと思います。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 雷門提灯
 ほとんど同じ場所での撮影ですが、赤や黒になると冴えてきます。特に目立った特徴が出るわけではありません。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 暖簾
 フードの内部反射の問題を別にしても、鋭い光には弱いようです。弱いというより、考慮されていない感じがします。欧州は緯度が高いからだろうと思います。現代はコーティングが発達しているのでこういうことはありませんが。暖簾の質感がまるでノーコーティングレンズのようです。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 スカイツリー
 非常に明るいものは苦手なので、明暗のはっきりしたものも難しくなります。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 店の前
 生地はとても上品に写ります。地面のような硬いものは、何となくリアリティが変に出てしまう感じがします。ゴツゴツした感じがします。一方で柔らかいものは一際柔らかく写ります。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 創業明治43年
 硬いところに柔らかいものを描いたものですが、これはなかなか趣があります。しかし白と青の多い構図なので、明瞭さには欠けています。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 人力車
 青でもダークであれば、より良く締まります。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 水
 もし背景の明る過ぎるところがなければ、水の表現はもっと美しかった筈です。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 待ち合わせ
 明暗の対比を利用して、シルエットのような表現を狙いましたが、成功したかどうかは微妙なところです。明る過ぎるものがなければまずまず良かったと思います。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 団扇
 暗い部分はしっかりと濃く出ていますので、ハイライトとの差が大きなものがありますが、フードをきちんと処理するだけでなく、形状にも配慮すれば、もっとよくなると思います。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 六本木ヒルズ
 撮った場所が暗かったためか、六本木ヒルズは明瞭に写すことが出来ました。完全に反射の影響を排除できたからだと思われ、やはりフード対策でもっと良くなると思われます。

シュタインハイル Steinheil カッサリート Cassarit 45mm f2.8 渋谷ハチ公
 これは、ハチ公で露出を取るべきでした。潰れ過ぎてしまったと思います。


 色合いが濃く描かれる傾向があるのは、フードの効果は確かにあったかもしれませんが、マイナスもあったので微妙なところですし、それよりも分厚いガラスを採用していた効果の方が大きかったと思います。それと、トリプレットであるにも関わらず、開放から使える優秀なレンズだったと思います。肖像撮影には短過ぎるかもしれませんが、この描写であれば、人工光を使ったポートレートで持ち味を発揮しそうです。

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