無一居

空想のレンズを作ってしまう「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

中世の街並みが今も残る
東欧の古都が生み出したレンズ2

ハンガリーのレンズの描写を確認する - 2013.03.29


モム インマール 50mm f3.5
MOM Ymmar 50mm f3.5

 ハンガリーという国があります。多民族の国家で、歴史的にはオーストリア帝国やオスマン・トルコの支配を受けたり、原住民はラテン系であるとか、たいへん複雑な背景があります。民族混淆の地であるため、姿がたいへん美しい人々が多く、その中心都市ブダペストも今なお美しい旧市街があります。光学に関心のある人にとって、ウィーンで世界最初に幾何学計算を以て設計されたペッツバールレンズの設計者がハンガリー人であったことは記憶しておきたい事柄です。しかしハンガリーが光学の歴史の中で中心的役割を果たしたことはこれまで一度もありません。それでも光学計算の原点とか、そういうものを生み出した数学者の故郷の国のレンズというものがあるならば、その描写も記憶に留めておきたいところです。(ハンガリー人の光学の分野に対する貢献がそれほど大きなものでなくても、撮影に関しては影響力を無視することはできません。マグナム Magnumの創設者ロバート・キャパ Robert Capaやアンドレ・ケルテス André Kertészはブダペスト出身でした。)

 かつて戦後に、ブダペストで設立されたモム MOMという光学会社がありました。ドイツのカメラが世界を席巻する中で、そのコピーとか或いは対抗するような製品を作っていました。今回入手したスクラップ状態のハンガリー製カメラにはM42マウントのインマール Ymmar 50mm f3.5が付いていました。そこでこれを取り外し撮影してみることにいたします。撮影場所は家の近所ですが、まだ撮ったことのない西四に行ってみたいと思います。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 教会
 西四はそのまま南下すると西单に行き当たりますが、西单の手前までは婚礼関係のショップが比較的多いところです。西四北部は電子・業務用音響関係の専門店が並んでいます。そのちょうど境目に教会が1つあります。これはおそらく結婚式専用です。建築様式はまるで東欧の教会みたいなので、このレンズにぴったりの対象です。東欧のクリスチャンは、オスマン・トルコ支配下で迫害されていましたので、こういう低い天井の建物をさらに深く掘った窪地に建てていました。外観がそれにそっくりなような気がします。

 とりあえず、この1枚だけでも十分このレンズの個性が表現されているように思います。まず、この画を見ただけでは何時に撮影したのかわかりません。実際には16:30ぐらいなので、まだ十分に昼間の明るさです。それにも関わらず、コウモリが飛んできそうな雰囲気を漂わせています。濃厚な東欧の味わいのあるレンズです。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 円形の壁
 インマールはテッサー型ですが、このフレアの多さと描写特性から考えてトリプレットにしなくて良かったと思えます。もっともその辺りは十分に考えた上で後群を張り合わせにしたものと思います。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 藍色の布
 東欧は絨毯の多いところです。家に入ると入り口から室内のあらゆるところに敷き詰めています。これもトルコ文化の影響でしょう。ブダペストは2日程しか滞在したことがありませんので、こういう都会と絨毯文化の関係についてはよくわかりませんが、田舎に行くと今でも絨毯は多用されています。さて、この垂れ幕は絨毯ではありませんが、素地の描写の仕方はどうしても絨毯文化との因果関係を思わせます。フレアは現像で簡単に取れますので、外してみたいと思います。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 藍色の布(調整後)
 素地の美しさを際立たせることのできるレンズはたくさんあると思いますが、インマールはそれとは少し違うような気がします。素地の重量感、質量のようなものが写し取れる類い稀なレンズだと思います。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 西四北八条の説明
 北京は古い都市ですので、こうして狭い部分をクローズアップしてもいろいろな背景があるようです。この通りの由来が書いて有ります。保護区に指定されているとも書いてありますが、その保護レベルは、となりのドアに象徴されています。高い建物を建ててはいけないとか、建て直しは許可が要るというレベルだろうと思います。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 西四の胡同
 西四界隈の胡同はいずれも保護区扱いのようです。これは先ほどと別の通りです。大通りには隙間なく店舗が軒を連ねていますが、一歩中に入ると、歴史を感じさせる壁が見られます。写りに明るさが乏しく、製造地付近の歴史的背景を思わせます。太陽が疎んじられているような感じがします。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 建築装飾書店
 保存された建物に建築装飾専門の書店が入っていました。こういう建物に店を構えると説得力があります。しかし胡同の中では目立ちませんのでほとんどお客さんは来ません。本の販売はしていますが、主に出版と卸をやっているようです。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 図文設計
 暗い裏通りの入り口に柵があって、かなり古いものだということがわかります。西洋風の意匠が施されています。インマールで撮影すると単に古いだけに留まらず郷愁のようなものまで漂わせます。フレアを外してもこの雰囲気は取れませんので、これはこのレンズの特点だろうと思います。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 電信柱
 かなり汚い電信柱ですが、インマールで撮影するとそれほど汚く見えません。近距離を撮影したためか、画の周辺の解像度が落ちています。それでもトリプレットのような対象の浮き上がり方はせず、よりナチュラルです。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 乳母と子供
 これは何をしているのでしょうか。不自然な一瞬を捉えたものではなく、ずっとこうしています。なかなか何かが出ないのでしょうか。老婆の頭上に黒い点があって、本稿の写真には時々見られますが、これはセンサーについたゴミです。距離計に連動させるために金属パイプを刺していますが、この内側の反射が強いので黒い布を貼っています。これは相当効果があります。よく見ると、その糸くずがセンサーについていました。それでバルブにしてシャッターを切り、下に向けて吹くと顔面にゴミを結構浴びました。金属粉もあったかもしれません。改造を自分でやる場合はきれいに清掃するということも重要になってきますが、だんだん面倒になるとこういうことがありますので注意が必要です。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 乾物の殻
 インマールの色彩感は、青が基調になっています。この画のように青に近いものがなければ余り冴えません。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 飲物屋
 学校が終わるとこういう店に学生が群がります。学生らは飲み物を買っています。中国はほとんど自動販売機がありませんので、こういう商店で商店オリジナルの飲み物を買うか、コンビニで何か買うしかありません。彼らにとってコンビニはいささかコスト高ですので、主にローカル店の世話になっています。彼らはこの後、別の店に群がって軽食も買います。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 果物屋
 地元の主婦らはというと、オリジナルジュースなどに手を出さず、オーソドックスなものを購入します。はっきり安価と解る表示の重要性に国境はありません。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 モンロー風の置物
 ふくよか過ぎて、プラス30歳ぐらいの偽モンローです。硬質な後ボケが画全体を引き締めています。これが画の寒さの一要因かもしれません。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 円形の広告
 ついに西单まで来ました。近代建築を撮影しても東欧風の独特の枯れた味わいは健在です。白い背景は雪のようにも見えます。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 人民服の紳士
 このように青が支配的な画では美しさが際立っています。或いは暗い対象の方が個性が活かされます。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 眠いサラリーマン
 最短1mで撮影に及び、ピントはガラスあたりに来ているようです。手前のボケは溶けるような柔らかさです。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 茶 香
 夜は場所を移して、安貞橋付近を少し撮影します。中国で喫茶店というのは非常に高価です。商談をする場所として必要性があるようで、個室形式になっているところがほとんどです。西洋風コーヒー店も同じような方向性です。もう少し現実的な価格であれば、今やどこにでもあるマクドナルドの中にマックカフェがあります。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 西安料理店
 光源が強いとフレアは伴うものの、昼間よりは幾分はっきりと写っています。夜になると、昼間のような寒い写り方はしません。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 マニキュア店
 ブティックの中にマニキュアも併設した店です。「美甲」というのがマニキュアのことです。美甲屋は結構人気があるのか、至る所で見受けられます。10元とありますので安いと思われるかもしれませんが、普通そんなに安くありません。数百元もする施工もあります。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 リンゴ飴屋
 ミニリンゴ風の果物を串刺しにして飴で包んだ北京伝統の菓子です。体に良いと言われています。完成品を並べているだけの店は珍しく、普通は実際に作っているところを見ることができます。飴の温度管理に熟練を要し、失敗すると透明になりません。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 甘栗
 甘栗も人気があります。日本のものと全く同じです。この光の描写の仕方はインマール独特のものが感じられます。フレアが良い方向に作用したと思います。

モム MOM インマール Ymmar 50mm f3.5 青いビル
 開放で遠景を撮っているということで、しかも夜ということもあったので、おそらくダメだろうと思って撮ってみた一枚ですが、青が多かったためか、意外と綺麗です。ここでもやはり赤は濃度が不足しているように思います。しかしこのバランスがインマール独特の描写を呼び込んでいるのだろうと思います。

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