キノプティック Kinoptik は受注生産にて顧客からマウント指定を受けた上で出荷していました。プロの映画用の機器であって、同社のアポクロマート Apochromatは5色補正(一般には3色補正。光の3原色を補正する。)という驚異的なものでした。それゆえ、価格は非常に高く、すべての製品が特注扱いになっていました。レパトワール(フランス語で「レパートリー」の意)はおおむね以下のような感じで、焦点距離とマウントをメーカーに告げて到着を待つという感じでした。
戦前にはすでにアポクロマート全種類 25~150mmを揃えていました。それ以外は戦後に追加されたものです。
名称 | 焦点距離(mm)/f値 | 最短距離(m) | 重量(g) | IS(mm) |
Super Tegea | 1.9/1.9 | N/A | 800 | 8.7 |
Tegea | 5/1.6 | N/A | 960 | 16 |
Tegea | 5.7/1.8 | N/A | 800 | 16 |
Grand Angle | 9/1.5 | 0.25 | 260 | 16 |
Grand Angle"N" | 9/1.5 | 0.25 | 580 | 16 |
Tegea | 9.8/1.8 | 0.25 | 980 | 26 |
Tegea"N" | 9.8/1.85 | 0.3 | 1680 | 26 |
Grand Angle | 12.5/1.5 | 0.25 | 270 | 16 |
Grand Angle | 18/1.8 | 0.25 | 260 | 16 |
Grand Angle | 18/1.8 | 0.25 | 260 | 28 |
Apochromat | 25/2 | 0.35 | 165 | 28 |
Apochromat | 28/2 | 0.5 | 170 | 30 |
Apochromat | 32/2.8 | 0.6 | 200 | 30 |
Apochromat | 35/2 | 0.7 | 200 | 30 |
Apochromat | 40/2 | 0.7 | 180 | 30 |
Apochromat | 50/2 | 0.75 | 230 | 31 |
Apochromat | 75/2 | 1 | 490 | 32 |
Apochromat | 100/2 | 1.2 | 720 | 42 |
Apochromat | 150/2.5 | 2.5 | 950 | 42 |
Special Cine | 210/2.8 | 4.25 | 2200 | 40 |
Special Cine | 300/3.5 | 6 | 2260 | 40 |
Aplanat | 500/5.65 | 8 | 3220 | 43 |
Kinoptar | 1000/8 | 3 | 7780 | 43 |
右に設けてあります「IS(mm)」は、イメージサークルの大きさのことです。レンズは円形でデジカメのセンサーは四角です。センサーの角までしっかり写そうと思えばセンサーの対角線分の直径の光を得る必要があります。それをイメージサークルと言います。表に示してあるのはキノプティック社が品質を保証できると考える公式発表の値です。実際のイメージサークルはもっと大きくなるのであまり神経質にデータを見る必要はありません。例えばアポクロマート50,75mmあたりのイメージサークルはせいぜい30mm足らずです。それにも関わらずフルサイズで撮っても暗角は出ないようです。一方本コラムで28mmを撮影していますが、APS-Cで特に室内を撮影した時に角が微妙に暗い感じがします。そのあたりを念頭に置いて参考にしてみて下さい。センサーの対角線のおおまかな値は以下に示します。イメージサークルの小さいテゲアはマイクロフォーサーズでも厳しそうです。
キノプティックは基本的に受注生産であって、顧客の希望でマウントを取り付けて出荷する方法にて販売していました。同社は創業者の息子が会社を売り飛ばし、右往左往の後に2008年に滅亡しましたが、苦情が相当なものだったようで、後に復活しました。(苦情の主な原因はマストアイテムの50、75mm f2あたりが高騰したためです) 現在、新品が購入でき、上記のリストのものが購入可能です。アジアの代理店は香港人のリチャード氏が設立したボケ光学(Bokeh Optical Co.)です。まずは非常に評価の高い50,75,100mmの3種を優先して製造し、後々9~1000mmへとラインナップを広げる予定ですが、主要ラインナップはアルパ ALPA用のみで特注すればライカのマウントを付けてもらうことも可能な筈です。注文時に10%支払い、その後3~5ヶ月待たされるとあります。生産数は極少と断っています。価格は3000~6000ユーロぐらいです。プロではない個人の愛好家にも普通に単品販売するとあります。マウントを必ず指定する必要があります。
シリアルナンバーは初期のものと、末期の番号は不明確で、全体的にも概略的なものです。
年
|
シリアルナンバー
|
1953 |
13,000~15,000
|
1954 |
15,000~17,000
|
1955 |
17,000~20,000
|
1956 |
20,000~23,000
|
1957 |
23,000~26,000
|
1958 |
26,000~29,000
|
1959 |
29,000~32,000
|
1960 |
32,000~35,000
|
1961 |
35,000~38,000
|
1962 |
38,000~41,117
|
1963 |
41,118~45,000
|
1964 |
45,000~47,000
|
1965 |
47,000~49,000
|
1966 |
49,000~51,000
|
1967 |
51,000~54,000
|
1968 |
54,000~57,000
|
1969 |
57,000~60,000
|
1970 |
60,000~64,000
|
1971 |
64,000~68,500
|
1972 |
68,500~73,000
|
1973 |
73,000~78,457
|
1974 |
78,458~81,116
|
1975 |
81,117~84,551
|
1976 |
84,552~87,856
|
1977 |
87,857~90,048
|
1978 |
90,049~92,492
|
1979 |
92.493~95,094
|
1980 |
95,095~98,515
|
1981 |
98,516~99,839
|
1982 |
99,840~101,402
|
1983 |
101,403~103,643
|
1984 |
103,644~104,787
|
1985 |
104,788~106,791
|
1986 |
106,792~108,576
|
1987 |
108,577~110,126
|
1988 |
110,127~111,531
|
1989 |
111,532~112,646
|
1990 |
112,647~113,288
|
1991 |
113,289~114,211
|
1992 |
114,212~115,399
|
1993 |
115,400~115,923
|